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緋色の剣姫と救国の軍師  作者: 今川幸乃
第四章 エリヤの憂鬱
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異変

 翌朝、要塞はしんと静まり返っていた。誰もが息を呑んで要塞を見守る中、東門が開く。中からは整然と並んだ兵士たちが出てきた。皆一様に表情は暗く、負傷しているものも多い。その中から一人の者が前に進み出た。筋骨隆々とした武将ではなくひょろっとした優男に見える。これが総司令官リオネルなのだろうか。覇気のない表情を見る限り案外、過労で倒れたというのも本当かもしれない。そんな男を見てアルセが前に進み出た。


「あなたがリオネル殿ですか?」

「はい、昨日は体調を崩してしまい申し訳ないことをしてしまいました」

「いえ、短い間ですがお手合わせ出来て光栄でした」


 アルセは値踏みするような目でリオネルを見つめる。そして右手を突き出した。リオネルも少し躊躇して右手を差し出す。とはいえ、一緒にお茶していきましょうという間柄でもない。リオネルは握手が終わるとすぐに戻っていき、兵士たちを引き連れて西方へと去っていった。俺は近くでその様子を見ていたが出ていく兵士はその数およそ千五百。大体予想と当たっている。兵士たちは東門を開いたまま去っていった。


「さて、では入城しようかな」


 アルセは兵士を進めて入城を試みる。が、そこで信じがたいことが起こった。突然、ぎぎいと音を立てて城門が閉まった。


「まさか」


 アルセの表情が変わる。次の瞬間、城壁の上から大量の木々が束になったものが投下された。俺も聞いたことしかないが、いわゆる逆茂木である。木々の先端は鋭く尖らせられており、城壁に近づくためにはまずこの逆茂木を何とかしなければならない。


「いったん退け!」


 アルセは鋭く下知するが、遅かった。一斉に銃声が響き、兵士たちが何人も倒れる。


「時間を稼いでいた間にこんなものを作っていたとは……。しかしこの銃声、以前と全然変わらないな。要塞には元々多数の兵士がいたのだろう。体よく負傷兵だけを逃がしたか。そしてあのリオネルは替え玉。俺たちはやつの顔を知らないからな。だが一つだけ疑問なのは……今更三日程度時間を稼いでどうなると言うんだ?」


 逆茂木も頑張って作ったのだろうが、所詮即席に過ぎない。時間を稼いでも一日か半日と言ったところだろう。


「分からない。籠城戦で勝算があるのは援軍がある場合か攻撃側が諦めて退いていく場合。援軍はないし、私たちはまだ物資には苦しんでいない。だとすれば」

「王国か」


 確かに現在王国と帝国の利害は一致している。王国としては命令に従わずに独立した俺たちをどうにかしたいだろうし、帝国は言わずもがなである。となるとエリヤと戦うことになってしまうというのか。俺は二つのことを考えた。これは本当に砦を速やかに落とさなければならない。そして、エリヤをどうにかしなければならない。


 が、そこへ伝令がやってくる。


「アルセ様、我らの少し北方を飛竜が飛んでいきました」

「飛竜? やはり帝国から王国に使者が出たってこと?」

「いえ、それが……飛竜の数は五匹。通常の飛竜よりも体格が大きい個体です。そしてそのどれもが大きな箱をぶら下げての飛行です」

「何だと!?」


 叫んだのは俺だった。飛竜五匹で運べる銃などたかが知れている。しかし飛竜が往復しないという保証はない。もし数百から一千の銃を王国が手にすれば、大公国の軍事的優位はどうなるか分からない。


「くそ!」

「とりあえず帝国側だけではなく王国側にも斥候を。王国軍が私たちの背後をついてくるのか、大公領になだれ込むのか、見張って」

「はい!」


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