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緋色の剣姫と救国の軍師  作者: 今川幸乃
第二章 独立不羈
14/40

文官

 翌日。


「おい、アルセ」


 俺は兵士たちに檄を飛ばしているアルセの姿を見つけるなり食って掛かる。昨日は何か感動的な雰囲気で協力する流れになったが、それから一日も経たないうちに重要な問題が発覚した。


「どうした? もう全部終わったの? 早いね」

「俺は政治的なことが分かる人を教えてくれと言ったんだが」


 結局俺は昨夜書いた文をエリヤに送ったのだが、それはそれとして国として独立するからにはそれなりの体裁を整える必要がある。そこで俺は人を借りてその作業に取り掛かろうと思ったのだが。


「うん?」

「税の計算とか兵糧の計算は出来ても政治や外交が分かる人が誰もいないんだが!」

「それをジークが手伝ってくれるんじゃないの?」


「それはおかしいだろ! 手伝うとは言ったが俺は王国の家臣だぞ」

「そう言われても、うちは大体父上が何とかしてたからね」

「でも、一人だと色々細かい雑事とか処理出来ないだろう。例えばこの家の領民と帝国の領民がいさかいを起こしたときに苦情が、とかそういうのを受ける人はいないのか?」


 俺はあくまで手伝うと言っただけで、辺境伯家の政治的な問題を全て引き受けると言った訳ではないし、大体そんなことは不可能である。それに、俺が来る前にも貴族として家が存在していた以上誰かがそういう問題を処理していたはずなのに。


 俺の問いにアルセは少し複雑な表情を見せる。


「いや、いるにはいるんだけどね……」

「どうした。らしくないな」


 アルセでも歯切れが悪くなることがあるのか。


「そういう方々は皆兄上の家臣なんだよね」

「兄上?」


 そう言えば辺境伯の子の名前はアルセの名前しか聞いたことがなかったが、アルセが嫡子であるとは聞いたことがなかった。そうか、兄がいたのか。俺は改めて自分が勉強不足であったことを思い知る。こんな調子で軍師なんて務まるのだろうか。


「オルヌス=グランフィールド。確かに政治とか外交とかは得意で、しばしば帝国との折衝はしてた」


 やはりアルセの口調はどこか歯切れが悪い。俺は何となく嫌な予感を抱きつつも尋ねる。


「オルヌス閣下は戦争拡大派ではない感じですか?」

「まあ、そうだね」


 しまった、そういうことならまだ何とかなる道はあったのかもしれない。オリバーの件といい、この家にも常識的な人がいるなら独立を提案したのは早まったか?

 ただ、今の辺境伯家でオルヌス派が力を持っているようには見えないし、辺境伯自身が確固たる意志を示している以上難しいだろうが。オルヌスからすれば知らないうちに独立するなどという話を決められて気分のいいものではないだろう。しかもオルヌスを無視して俺が独立云々の手続きをしかけてしまっているのはとてもまずいことではないだろうか。


 ちなみに、アルセがオルヌスについて歯切れが悪いのには遠慮が見て取れた。さすがにオリバーと違って兄に「弱気なことを言ったら斬る」とは言えないのだろう。内政とか外交が得意な家臣はアルセよりオルヌスに仕えやすいというのは、オリバーの一件を見れば容易に想像がつくことではあった。


「やはりまずいんじゃないか? 先に家中で意志を統一してからの方がいいんじゃないか?」


 俺の言葉にアルセはしばし腕を組む。さすがに兄をないがしろにしていることに思うところはあるのだろう。


「うん、兄上には父上に言ってもらう」


 確かにその方がいいのかもしれない。しかしどこかアルセにはオルヌスに対して遠慮している様子がある。まあ兄だから仕方ないのだろう、と俺はそう考えていた。


「とにかく、そういう訳だから不便かもだけど私の文官を使って欲しい。しばらくは軍師殿を主と思うように、て言っておくから」

「そんな」


 このままじゃ俺は辺境伯の家臣になってしまう気がする。そこで俺はふと考える。辺境伯家で帝国を倒すということは俺はここに仕えるということになるのだろうか。確かにアルセを手伝うとは言ったものの、その辺りの現実的な問題は全く考えていなかった。


「じゃ、よろしくね」


 が、そんな俺の思いをよそにアルセはひらひらと手を振ると行ってしまった。俺はため息をつきつつも、アルセの文官たちのところに戻るのだった。

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