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緋色の剣姫と救国の軍師  作者: 今川幸乃
第二章 独立不羈
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独立

俺は別に政治向きのことが得意ではない。しかし改めて状況を整理してみる。


・王国は内政を整える時間が欲しい

・辺境伯は領地が欲しい

・王国は辺境伯が勝手に帝国を打倒するのは困る

・基盤がぜい弱な王国に対して辺境伯の軍事力は充実しており、実力は伯仲している

・帝国は倒されなければならない


 当然すべての条件を満たすような妙案は思いつかない。しかし一つだけ多くの問題を解決出来、俺としても納得できる案があった。まあ、エリヤが納得するかは不明だが。いや、不明というのはポジティブな言い方だ。多分納得しない。


「どうした? 随分考え込んでいるようだが」


 俺が長考していると辺境伯はいぶかしんだようだった。しかし本当にいいのか? 確かに俺の考えている案は色んな意味で現実的だし、帝国を打倒するという俺の目的にも沿っている。しかしどう考えてもエリヤへの、そして王国に対する信義には欠けている。


 だが、このまま辺境伯が王国の制止を聞かずに兵を動かせば王国の権威は失墜する。王国が辺境伯に対して兵を動かせば王国は勝敗に関わらず壊滅的な損害を受けるだろう。もちろん辺境伯も損害は受けるだろうから、エリヤはそのチキンレースをするつもりなのだろう。

 しかし現状辺境伯親娘に折れる要素はない。だとすれば俺がこの提案をすることは王国を裏切るものと思われたとしても、王国を守ることに繋がるかもしれない。


 俺は今考えた案を言う決意を固め、辺境伯の目を見つめる。


「一つだけ、王国と閣下の利益を両立できるかもしれない方法があります」

「ほう、さすが軍師殿だ。わしは王国の意向は無視する気だったが」


 辺境伯が王国の意向を無視したところで、王国は討伐を派遣することは出来ない。というか、辺境伯を討伐出来る余力があるなら帝国と和平する必要はない。それが辺境伯の考えだろうが、エリヤはそれでも兵を挙げる可能性がある。


「閣下は独立国の樹立を宣言なさってください。王国に従っているからこそ勝手な軍事行動は問題になりますが、独立してしまえば問題ありません」

「なるほど!」

「さすが!」


 辺境伯とアルセは思わず手をたたいた。長年王国の貴族として王国を支え続けた辺境伯にはなかなか思いつかないことではあっただろう。今回の挙兵が成功したのも辺境伯が王国軍の一部であり、民が味方したことが一因ではある。しかし辺境伯はすでにこのたびの戦で武威を見せており、王国の名を借りずとも一定の威光はあるだろう。


 この案により辺境伯は自由に軍事行動が出来るし、俺は帝国を倒すことが出来る。王国はその間に力を蓄えることが出来る。辺境伯が独力で帝国を倒せるかは不安だったが、アルセと出会って俺は勝てる気がしてきた。少なくとも、俺はその程度の勝算でも動きたいほどには帝国に恨みがあった。


 問題は王国の体面が傷つけられるだけだ。ただ、実際に兵を挙げて軍事的にぶつかってから辺境伯が独立するよりはよほどましではある。もちろんこれは俺の理屈であり、エリヤや王国側はそうは思わないだろうが。


「七年間鍛錬を積み重ねてきた我らと力を失っていた王国。今や我らは単独で王国に劣らぬ力を手に入れた。であればもはや膝を屈す理由はない」


 辺境伯の言葉は確かに現状を表していた。


「さすが軍師殿だね、格好いい!」


 アルセも俺の案を手放しで喜んでいる。そして無邪気に俺に向かって飛びついてきた。アルセの柔らかい感触が俺に押し付けられる。突然の接触に俺はうろたえてしまう。そしてアルセは見た目に反して力が強いのだろう、身体が締め上げられるような感覚に襲われる。


「おい、分かったから離れろ」

「ごめんごめん、つい嬉しくて。ジークがいてくれれば私たちも、いや、わが国も安泰だね!」

「気が早いな」


 アルセはようやく体を離してくれるが、俺を見る目には尊敬の光が宿っている。辺境伯もいかつい顔に喜色を称えていた。


「“救国の軍師”の名は伊達じゃなかったね。やっぱり今日は祝宴にしよう」

「そうだな。軍師殿の栄光と我らの新しき船出を祝おう」


 俺のことを救国の軍師と呼ぶのはやめて欲しい。そんな大したことを言った訳ではないし、第一まだ救えた訳でもない。

 二人は盛り上がっているが、問題は独立するなら外交関係の処理を俺がしなければならない気がすることである。俺の国じゃないのに。そしてエリヤは素直には納得してくれないだろう。


「とりあえず私は至急王国の知り合いに方針の説明をします」

「任せた。我々は早速軍勢の準備をしよう」

「うん、私も早く参戦したい!」


 浮かれる親娘を尻目に俺はさらに頭痛の種が増えたのだった。このときガウゼルはどこか満足したような、何かをやり遂げたような表情になっていたが俺は深く気にしなかった。

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