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レディ・エレオノーラ〜箱入り侯爵令嬢のまったく優雅ではない恋愛譚〜  作者: 林檎
レディ・エレオノーラとエメラルドの首飾り~眠れる獅子な侯爵令息が本気を出した場合~
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7.エメラルドの首飾り

 


 翌朝。

 まだ朝も早い時間にフィオレンティーナの突然の訪問を受け、エレオノーラは驚いていて彼女を部屋に通した。

「姉様!どうなさったのです」

 オルガの手を借りて慌てて身支度を整えたエレオノーラが寝室と続きの居間に向かうと、姉は青ざめた顔でソファに座っている。

「エリィ、こんな朝早くにごめんなさいね」

「それは構いませんわ。でも今朝は朝食をご一緒する予定でしたのに、それよりも早くこちらにいらっしゃるなんて、何かよほどのことでも……?」

 フィオレンティーナの隣に座り、エレオノーラは姉の白くたおやかな手を握った。

「ええ……申し訳ないのだけれど、人払いをお願い出来る?かなりプライベートな話なの」

 そう言われて、エレオノーラはメイド達を全員下がらせる。部屋には姉妹とオルガ、フィオレンティーナの腹心の侍女だけが残った。

 オルガは部屋を確認し、外から聞いている者がいないことを確かめる。

「姉様……」

「ありがとう。あのね、実は……ラズに贈られた首飾りを盗まれたの」

「!」


 びく、とエレオノーラは震えた。姉に手を握る力が強くなる。

 フィオレンティーナも妹の手を強く握り返し、姉妹は身を寄せ合った。

「首飾りというと、昨夜つけてらしたエメラルドの……?」

「ええ、結婚のお祝いにラズから贈られたもので、とても気に入っているの。国宝級のエメラルドで、ラズの瞳と同じ色」

「……国宝級……姉様、そんな貴重な宝石を国外での滞在に持ってらしたの……」

 驚いてエレオノーラが言うと、フィオレンティーナは唇を尖らせる。

「だって首飾りの姿をしているのだから、あるべき使用方法で使ってあげるべきでしょう?」

「姉様らしい……」

 エレオノーラは苦笑を浮かべた。

「それで、盗まれたというのは本当なのですか?」

「ええ、昨夜夜会から部屋に戻り、すぐにお風呂に入ったの。ドレスや宝飾の片付けはこの屋敷のメイドに任せ、お風呂のお世話はこちらの侍女にしてもらったの」

 ふんふん、とエレオノーラは頷く。昨夜彼女自身もそういう流れだったので、よく分かる。

 今この屋敷には、今回の夜会に招待された貴人を世話する為の使用人が大勢いる。

「お風呂から上がる頃にはほとんどのメイドは部屋を辞していて、報告の為にメイド長がいるだけだったわ」

「まさかその時に?」

 フィオレンティーナは唇を噛む。美しいかんばせが悔しそうに顰められた。

「ええ……すぐに片付けをしたメイドの全てを呼び戻して身体検査や、部屋の方まで調べさせたけれど、首飾りは見つからなかったの……」

「そんな……」


 国王の親戚である公爵の、その屋敷のメイドが客の宝飾を盗むとは思わない。思わず城にいる感覚でメイド達に片付けを任せてしまったのだ。

 けれど今年の夜会には王族は勿論、外国の大使であるラザールとフィオレンティーナも出席する為、彼らと繋ぎを付けたい貴族達が例年よりも大勢出席することとなる。その所為で世話をするメイドの数が足りず、急遽追加で雇った者も複数名いたらしい。その中の一人が、今回の盗みを働いたようだ。

 当然主催の公爵には話がいき、他の招待客には露見しないように使用人の部屋の捜索や身体検査を取り行ったが首飾りは見つからない。関わったメイド達を調書した結果、犯人とおぼしきメイドは特定されたが彼女は黙秘を続けている。

「わたくしとしては、メイド自身の罪を暴くことよりも、首飾りを返して欲しいの」

「……このこと、義兄様には」

「いいえ……ラズに知られてしまえば、国際問題にせざるをえないもの。……母国との問題は出来れば避けたいわ。公爵も同じ意見よ」

 既に根回しは済んでいるようだ。フィオレンティーナらしい行動力に、エレオノーラは舌を巻いた。

「でも、義兄様にお伝えしないわけにはいきませんよね?」

「まぁ、そうね。でも首飾りが見つかっていないか、見つかってからでは話は全然違ってくるわ。せめて見つかってからにしたいの」

 フィオレンティーナの真剣な表情に、エレオノーラは眉を寄せる。

 姉の言うことは分かる。けれど、このままでいい筈もない。

「……姉様、それで……この後どうなさるの?私のところにいらしたということは……」

「ええ。首飾りの捜索を頼みたいの」

 ぎょっとするエレオノーラに、オルガが顔を上げる。

 フィオレンティーナは勿論オルガを戦力に数えていた。当然、クラウスのことも。

 エレオノーラ自身は非力で可憐な令嬢だが、彼女の持つカードはどれも強力だ。

「わたくしとラズは、朝食を終えたらすぐに公務で王城に迎わなければならないの。あなたは今夜の夜会にも出席するのでしょう?」

「はい……」

 エレオノーラは頷く。


 この屋敷での夜会は二夜続き、昨夜は前夜祭、今夜が本祭だ。

「タイムリミットは明日、ここに招かれた客が帰るまで。それ以上は流石に隠し切れるとはわたくしも考えていないわ」

「姉様……」

「悪足掻きだとは分かっているけれど、足掻く隙間があるのならば足掻いておきたいの」

 フィオレンティーナは、妹の手を握る力を強める。

「可愛いあなたにこんなことを頼むのは申し訳ないと分かっているわ、でもわたくしには、今信頼出来るのはあなただけなの……」


 姉の珍しい切羽詰った様子を見て、エレオノーラは覚悟を決めた。



やっとあらすじに追いつきました!

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