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レディ・エレオノーラ〜箱入り侯爵令嬢のまったく優雅ではない恋愛譚〜  作者: 林檎
レディ・エレオノーラと琥珀の令嬢~恋とはどんなものかしら?~
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29..夢のあとに

 









「……あれってひょっとして私のこと?」

 ショコラの包みを剥がしながら、エレオノーラは首を傾げた。

 バノーラ侯爵家の、家族用の居間。その豪奢で大きなソファの上に、クラウスとエレオノーラはいた。


「主語」

「……クラウスだって主語しか喋ってないくせに!」

 もはやこの夫婦のお決まりの寛ぎスタイル、膝抱っこである。最初こそ盛大に抵抗していたエレオノーラだが、毎日少しずつ慣らされた結果、夫婦の居室スペースでは無抵抗となってしまった。慣れって怖い。この間など、馬車の中でうっかり夫の膝に座りそうになって慌てたものだ。…慣れって怖い。


「えーと。クラウスがベアトリーチェ様にフラれた直後の、落ち込んでた時の話……」

「フラれてはいない」

「落ち込んではいたんだね」

 否定が返ってこないので、エレオノーラは上機嫌でくすくすと笑う。


 ソファに長い脚を投げ出してほとんど寝そべるような姿勢で座るクラウスの上にべったりとエレオノーラが横たわっているような姿勢である。重いだろうから退く、と言うと片手で固定されてしまった。もう片方の手は妻の膝に置いた本のページを器用に捲っているので、エレオノーラはその本が落ちないように固定してあげる役だ。

 時々飽きて、テーブルの上のガラスの皿からボンボンを取っては包みを捲っている。

「大体あれはベアトは関係ない……ぐ」

 素早くクラウスの口にボンボンを突っ込んだエレオノーラはにっこりと美しく微笑む。

「お忘れかしら、旦那様?あなたの妻はやきもち焼きなのよ」

「…………ぐ、甘……」

「新しく出来たお菓子屋さんのなの。オルガと今朝並んできたのよ!」

 甘い物が苦手な夫に一矢報いたのが嬉しくて、機嫌よく笑う妻のなんと愛らしいことだろう。

 今でも出資者と企業主として二人は良好な関係にあるので、クラウスとしては意外だったのだが、エレオノーラは夫がべアトリーチェのことを愛称で呼ぶのが気に入らないのだ。可愛らしい悋気は、ボンボンよりもよほど甘い。

 時折わざとベアトリーチェの名を出して彼女の関心を惹いている時のあるぐらいなのだが、クラウスのそんな意地らしいところにエレオノーラが気付くのはいつになるだろうか。


「……ああ、全くお前は正しい」

「ん?何?」

 感嘆の溜息をついて、クラウスは首を傾げる妻の頬を撫でて引き寄せる。


 エレオノーラが気付くのは、彼の予想では年単位で先のことなのだが、まぁ彼女の言う通り先のことは分からないので明日突然気付く可能性もある。

 何せ、エレオノーラはクラウスの予想の斜め上を行く、唯一の女なのだから。


 とはいえ、時間はたっぷりあるので彼は結果が訪れるのをのんびり待つつもりである。


「諦めなくて、本当によかった」


 美しく、いとしい宝石を愛でながら。




読んでいただいてありがとうございました!

これにて、レディ・エレオノーラと琥珀の令嬢は完結です!たくさんの閲覧とブクマ、励ましのお言葉をいただけて、書いている間ずっと幸せでした!

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