26.応報
ベアトリーチェの宣言に、動揺の声をあげたのはユリアナだった。
「何を言うの、ベアトリーチェ!」
「お義姉様!頭がおかしくなっちゃったの?」
アンジェも驚いて叫ぶ。他の面々は驚きのあまり声を挙げることも出来なかったようだ。
「ユリアナ・ドアーズ!あなたが我がベファタン商会の資金を横領していることは明白です、わたくしはあなたを告発します!」
「……気でも触れたの?ベアトリーチェ。わたくしは横領だなんて……」
ユリアナが言った瞬間、教会の扉がバンッ!と音をたてて開き、複数の男が侵入してきてユリアナと列席していた親戚を囲んだ。
「証拠は既にこちらの国税局に提出済みです。……お義母様、諦めてください」
「国税局……!?……っあなたと、商会の方も無事ではいられないのよ!!それでもいいの!?」
ユリアナの叫びに、ベアトリーチェは辛そうに唇を噛んだ。けれど、もう決めたのだ。
「……誰も彼も、守ることは出来ない…・・わたくしはある方にそう教わりました……では、わたくしに出来ることは、今目の前にいる人を助ける為に行動するだけ。あなたのしたことは、許されることではないわ、大人しく法の裁きを受けてください!」
ベアトリーチェの演説を横で聞きながら、クラウスは内心で溜息をついた。彼女がしようとしていたことはこれだったのか。
内部犯による横領。確かにこれはクラウスには情報を与えられない限り予想しようもない。
国税局の者を呼んでいたということは、ユリアナが犯人であることを確信し証拠を既に押さえていたということ。
「お前……!クラウス様の弱みを握ったのでしょう!?だから、結婚するんじゃなかったの!?」
「弱み?それはあなたが勝手に考えたこと。わたくしは全てを詳らかにし、シルバ子爵に協力してもらって結婚するフリをしていただいただけ」
「なっ……!」
ユリアナは驚愕に目を見開く。確かに弱み云々には関してはユリアナの予想であり、ベアトリーチェはそれを肯定したわけではなかった。
「そうでもなくては地位の低いわたくしがバノーラ侯爵子息と結婚だなんて、出来るわけがないでしょう?なのに、あなたがたは侯爵家からの吸いとる旨味に見事に釣られて、素直にわたくしが男爵位を継ぐことを見逃した」
ベアトリーチェは血を吐くような思いで、そう言った。
当然彼女だって無事ではいられないのだ。けれど、全ての人を助けられないのならば、助けられる人だけでも助けるしかない。諦めることは出来ない。
ベアトリーチェには目的があり、それを形にする力があるのだから。
「欲をかいたあなたの負けです。わたくしも勿論責めを負いますわ……でも、わたくしは、わたくしを頼りにしてくれている寡婦達の為に、商会を潰させない為に全力をかけて努力します」
国税局の者が、ユリアナと彼女の横領により金を受け取っていた親戚たちを捕縛する。予め横領に加担して利益を得ていた親戚を洗い出して、彼らだけを式に招待しておいたのだ。
「ベアトリーチェ……!なんて愚かな……!!」
ユリアナの彼女を責める声に、ベアトリーチェは苦笑してみせた。
「そうですね。でも、矜持を失うよりもずっと、いい」
ほろ苦い笑み。不安げな少女はもうどこにもおらず、そこには責任を背負う覚悟のある経営者としての顔を持った女男爵がいた。
ユリアナと親戚たちを連れて国税局の者が連行していく姿を、どうしても耐え切れずに教会に駆け付けたエレオノーラがそれを驚いて見つめる。聴取を受ける為にベアトリーチェとアンジェもその後ろを歩いていて、扉前で侍女と共に立ち泣きそうになっているエレオノーラを見つけた。
「エレオノーラ様」
「ベアトリーチェ様…・…!ご無事で……」
ぽろり、とエレオノーラの紺碧の瞳から涙が零れる。それを見て、ベアトリーチェは微笑んだ。
なんて綺麗な人だろう。彼女にも辛くあたった筈なのに、ベアトリーチェを心配して涙を零してくれる。
「……今までごめんなさい、クラウス様をお返ししますわ」
その言葉に、エレオノーラはびっくりして瞳を大きく見開いた。
「……ベアトリーチェ様……クラウスは、ものではありません。私に返していただくことではありませんわ」
美しい、煌めく紺碧。
エレオノーラは、真剣にベアトリーチェを心配し、真剣に怒っていた。
「そうね……わたくしの言い方が悪かったわ、ごめんなさい、エレオノーラ様……謝って済むことではないのでしょうけれど……」
ベアトリーチェが目を伏せて、連行されていく。その背を見つめていたエレオノーラだが、オルガの制止を振り切って叫ぶ。
「ベアトリーチェ様!わたし……ベファタン商会への出資を止めませんから!……私は本当に……ベアトリーチェ様の経営理念を尊敬しているのです!」
「…………ありがとうございます、エレオノーラ様」
ベアトリーチェはそう返して、教会を出て行った。




