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レディ・エレオノーラ〜箱入り侯爵令嬢のまったく優雅ではない恋愛譚〜  作者: 林檎
レディ・エレオノーラと琥珀の令嬢~恋とはどんなものかしら?~
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4.初めての仕事

 


「は?」

「エリィ……」


 ベアトリーチェはぽかん、と口を開け、クラウスは眉を寄せた。

「顔こわ!」

「お前……思い付きで言っているわけではないのだろう?」

 クラウスの顔を見てぎょっとしたエレオノーラが逃げようとするので、彼はその華奢な両肩を掴んで睨みつける。

「はい!」

「その件は閣下に話を?」

「してます!ちゃんと出資者募集の紙を見せてね、資金は私の信託財産から出すことにして……あ、でも名前は私ではない方がいいのかしら?父様か……兄様のお名前の方が商会にはお役にたちます?」

 後半はベアトリーチェに向けて訊ねた。紺碧の瞳に真っ直ぐに見つめられて、驚きからようやく解放されたベアトリーチェはまず口を閉じる。

「……あ、の、ええと、はい?……いいえ」

 どちらかしら?とエレオノーラは首を傾げる。

 エレオノーラ流の洗礼を受けるベアトリーチェが哀れになって、クラウスは溜息をついた。

「コークストー男爵令嬢。まず、ウェルシュ侯爵令嬢が出資者になることは構わないのか?」

「そ、それは勿論願ってもないことです。子爵はお気付きでしょうが、わたくしの商会は大きな利益の見込めるものではありませんので、出資してくださる方は少なく常に募集中ですので」

 現実的な話を振られて、ベアトリーチェは事業主の顔を取り戻す。

「では、エリィ。お前は他に出資している事業があるのか?」

「ないわ。いずれ父様や兄様の勧める事業に少し出資する予定ではあるけれど、自分で選んだのは初めて!」

 楽しそうに両手を合わせて話すエレオノーラを見ていると、少しだけクラウスの心が凪ぐ。この笑顔をいつまでも見ていたいが、そろそろ事態を収束させて散歩を再開したい。

「……今コークストー男爵令嬢が自分でも言ったが、この事業はさほど利益が出ない。投資という意味では効果は望めんぞ」

「それは父様達も仰ってたわ。……でもね、私はベアトリーチェ様のような素晴らしい考えや行動力は持っていないの」

 胸に手を当てて、エレオノーラは淡く微笑む。いや、お前は行動力はなかなかのものだぞ、と思うがクラウスは今回も賢明に沈黙を選ぶ。


「困っている方の為に、何かしたいけれど何をすればいいのか分からなくて。私が持っているのは、この立場と人より少し多くのお金だけ。だったら、持ってるものを役立ててもらって、間接的にでも何かの助けになりたいな、と思ったの」

「え、天使では?」

 背後でオルガの小さな声が聞こえたが、クラウスも同感だ。

 ベアトリーチェも最初の敵愾心のようなものはすっかり取れてしまったらしく、毒気の抜けた様子だ。

「……本当に、そう考えてくださる方に出資していただけるとしたら、とても光栄なことです」

「では、出資者の名はエレオノーラ・ヴォルンテールのままがよかろう。父兄の名は確かに大きいが、女性の為の商会のようだしその方が相応しい」

「ええ」

「それに……エリィはこれから社交界に出る身。これが最初に出資した事業として常に注目されることになるだろう。その宣伝効果も高そうだ」

 ウェルシュ侯爵や、長兄のディーノは既にいくつもの事業に出資し、おのおので成功を収めている。そのリストの末端に加わるよりも、エレオノーラ自身が選んで、最初に出資した商会としてのネームバリューの方が確かにベファタン商会には有難い。

「……私で、お役にたてますか?」

 エレオノーラがドキドキしながらベアトリーチェに訊ねる。立場を持っているなどと言ってみたものの、それらは祖先や両親から与えられたもの。実績のある父兄の名の方がより価値があるのではないか、と彼女は不安に思っているのだ。


 ベアトリーチェは目を爛々と輝かせて、高貴な方に対してとる正式なお辞儀をする。

「……わたくしの商会の理念をよく理解してくださっている方にこそ、出資者となっていただきたいと常々思っています。ですから、わたくしの方から是非お願いさせてください。エレオノーラ様、商会の出資者にあなた程相応しい方はおられませんわ」

「はい……!喜んで」

 頬を紅潮させて嬉しそうに笑ったエレオノーラは、すぐに傍らのクラウスの方を向いた。

「クラウス、私、とても嬉しいわ!今日ここに連れてきてくれて、ベアトリーチェ様を紹介してくれて本当にありがとう」

「……そうか。お前が喜ぶのならば、いい」

 紹介した覚えはなかったが、肩を竦めるようにしてクラウスは僅かに笑う。己の悋気も、ベアトリーチェの思惑もこの際どうでもいい。この笑顔が見れるのならば。

 その一方で、調子の狂ったベアトリーチェもエレオノーラの横顔を眺めて考える。

 彼女の思惑は全く別のところにあったが、今朝は大きな収穫だった。ウェルシュ侯爵令嬢は血統のいい可愛いだけのお嬢様だと思っていたが、どうも思っていた人物像とは違うようだ。不思議な魅力のある女性だと認識を改める。


 それに、とちらりと琥珀色の瞳がクラウスを見た。

 昨夜のいかにも貴公子然とした冷たい様子とは違い、口調だけは厳しくしているつもりなのだろうけれど、端々にエレオノーラに対する深い愛情がにじみ出ている。これでは、まだ社交界に出ていない筈の幼馴染と結婚するに違いない、と思われても当然だ。

 クラウスは今年の一番人気の青年貴族。引く手あまただが、令嬢達が深追いしないのはこの為なのだろう。遠くに飾られた大粒のダイヤモンドよりも、身近に咲く花の方が手に入れやすい。

 令嬢達は現実的なのだ。それでもこの顔に高スペック、家格も高いとあっては、売約済みでも人気は高騰するところが面白いが。


 クラウスが、エレオノーラだけを特別に思っているのは、誰の目にも明らかだった。



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