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レディ・エレオノーラ〜箱入り侯爵令嬢のまったく優雅ではない恋愛譚〜  作者: 林檎
レディ・エレオノーラとエメラルドの首飾り~眠れる獅子な侯爵令息が本気を出した場合~
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1.夜会へのいざない

 


「クラウス大変!!」

 バンッ!と自ら扉を開けて執務室に入ってきたエレオノーラに、クラウスは顔を上げて彼女を睨んだ。



 ウェルシュ侯爵令嬢、エレオノーラ・ヴォルンテールは今日も輝くばかりに美しい。

 よく手入れされたプラチナブロンドに、宝石のような紺碧の瞳。ほっそりとした体躯は華奢で、今日は若草色のシフォンのドレスに身を包んでいる。

 クラウスのいとけなく、愛らしい幼馴染は、ぶんぶんと肘から先を振りつつ室内に入ってきた。

「大変なの!」

「先触れもなしに来るな、案内もなしに男の部屋に入るな」

 クラウス・バッファが睨みをきかせつつそう言うと立ち止まったエレオノーラは首を傾げる。こてりと首を振ると、美しい銀糸が彼女の肩をさらりと流れた。

 彼はバノーラ侯爵子息・シルバ子爵。金の髪に紅茶色の瞳を持つ、三歳年上の幼馴染で社交界では令嬢達の心を虜にしている美丈夫だ。彼がエレオノーラと並ぶと、一幅の絵のように美しい。

「クラウスの部屋でもダメ?」

「何をされてもいいなら構わんが?」

 しれっと彼が言うとエレオノーラは青褪めて廊下まで後退し、追いついてきた執事のマルクの後ろに回った。やると言ったらクラウスは絶対にやる。何か、彼女が後悔するようなことを。


「マ、マルク、先導してください」

「ふふ、はい、エレオノーラ様」

 マルクは控えめに笑ってから、開いたままの扉をノックする。

「クラウス様、エレオノーラ様がお越しです」

「今は忙しい、待たせておけ」

「話が違うわ、クラウス!」

 これまたしれっと言い放ったクラウスに、エレオノーラが慌ててマルクの後ろから抗議の声をあげた。クラウスはそんな彼女をじろりと睨む。

「先触れの重要さが分かったか?相手の都合も考えず押しかけては会えん場合もある」

「うぐ……確かに、それは、そう……」

 白く小さな拳を握りしめて、エレオノーラは悔しそうに唸る。その様子をじっくりと眺めてようやく満足したクラウスは、席を立った。

「マルク、茶の用意を」

「はい、クラウス様」

 マルクは頭を下げ、エレオノーラを部屋に導いてソファまで案内してから厨房に向かう。

 しおしおと萎びているエレオノーラを見遣って、クラウスとしては強引なのかそうではないのか、一貫して欲しいものだと思う。大方また勢いだけで飛び込んできたのだろう。

「……クラウス、話を聞いてくれるの?」

 ソファに座っていいのか悩み、ちらりと彼を伺うエレオノーラにクラウスは溜息をついた。

「……そろそろ休憩を取らんとマルクがうるさいからな」

「!聞いてくれるのね、ありがとう!」

 エレオノーラがぱぁ!と子供のような笑顔を浮かべたのを見て、彼は僅かに肩を竦める。

 これで、彼女の後ろで先程から怨嗟を発している侍女からの報復は回避出来たと思いたい。


「それで?今日は何事だ、エリィ」


 ソファに脚を組んで座ったクラウスは、エレオノーラを真っ直ぐに見つめて説明を求めた。





 初冬に差し掛かる、夕べ。

 オレンジ色の沈みゆく太陽を、紫色の帳が追いかける時間帯。

 数えきれない程の燭台に火が灯されて、絢爛豪華な舞踏ホールが夢のように浮かび上がる。

 この時期恒例の、王都郊外にあるノストン公爵家の屋敷で催される夜会。王族も出席するとあって、貴族達はこぞって参加するのだ。


 バノーラ侯爵家の紋章の入った馬車から降りたクラウスは、出て来たばかりの中に腕を差し伸べる。するとその掌に光沢のある手袋をした小さな手が重なり、美しく着飾ったエレオノーラが現れた。

 それぞれ家の名代として夜会に出席する二人は、自然と注目を集める。

「足元気をつけろよ」

「うん……」

 クラウスはそっと寄り添うようにして彼女が降りるのを手伝い、次いで素早く降りてきたオルガが主のドレスの裾を直すのを待つ。

「クラウス、髪零れてる」

 撫でつけている前髪が少しほつれていることを言いたいのだろう、彼女がそっと片手をあげた。クラウスが少し屈んでやると、エレオノーラの指先が額にかかる金の髪をそっと彼の耳に掛け、離れていく。

「……うん、直った」

「そうか。ありがとう」

「もう、世話が焼けるわね」

 エレオノーラは珍しく自分の方が世話を焼いたので、お姉さんぶってご満悦だ。自分だってオルガに身なりを整えられている真っ最中のくせに。

「そうだな」

 適当に返事をしつつクラウスはゆっくりと辺りを見回す。馬車降り場などという人目の多い場で、髪を触る、だなんて特別親しいと喧伝しているようなものだ。

「……まぁ、いいか」

「クラウス?」

 オルガがさっと控えたのを見て、クラウスは改めてエレオノーラに腕を差し出してエスコートする。

 二人は勿論特別親しいが、それは人が邪推するような仲ではない。

 本来ならば彼女にそんなことをしてはいけない、と注意すべきシーンなのだろうけれど、クラウスはあえて放っておくことにした。

 何故ならエレオノーラはクラウス相手にしかここまで簡単に触れたりしないし、周囲への丁度よい牽制になると思ったからだ。


「なんでもない。行くぞ」

「はぁい」



眠れる獅子とか、カッコいいかな!と思って書いてしまいました……

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