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レディ・エレオノーラ〜箱入り侯爵令嬢のまったく優雅ではない恋愛譚〜  作者: 林檎
レディ・エレオノーラとエメラルドの首飾り~眠れる獅子な侯爵令息が本気を出した場合~
18/51

16.決着



「チッ!強情な女だな!」

 ロイドが怒鳴って、腕を振り上げたのでエレオノーラは身を竦ませてぎゅっと目を閉じる。


 瞬間、傍の棚の影に隠れていたクラウスがエレオノーラとロイドの間に素早く入り、ロイドの頬を殴った。

「ぐぁっ!?」

 よろめいてたたらを踏むロイドからエレオノーラを遠ざけ、別の家具の影に隠れていたマルクに命じる。

「エレオノーラを保護しろ」

「は、はい、ですがクラウス様、私がそちらを……」

 マルクは自分がロイドと相対しようとしたが、こちらを見ることなくクラウスが告げる。

「いい。下がれ」

 そこに迸る怒気を察して、マルクは青褪めてエレオノーラを部屋の隅に連れて行く。出来れば死人は出したくないが主がここまで怒っているのだ、やむなし、と思う一方でエレオノーラに見せるわけにはいかない。

 体勢をたてなおしたロイドは、金の髪の美しい男が目の前に立っているのを見て、顔を顰める。

「悪い人だなぁ、エレオノーラ様。誰にも言わずに来いって手紙に書いたのに」

「盗人の言うことなど聞くわけがなかろう」

 クラウスが尊大に言うと、ロイドは床を蹴る。


 大人しく罪を認めればこのまま公爵の元へ出頭させるつもりだったが、そうはいかないらしい。

 尤も、そうなってはクラウスの方もこの男を殴る大義名分がなくなる為、掛かってくるのは望むところだった。

 ロイドは、身長こそクラウスに負けるがウェイトは勝る。軸足で床を蹴り、体重を乗せた拳をクラウスの腹目掛けて繰り出した。

 が、クラウスが横に半歩ズレてた為、荷重で更に勢いのついた拳の行き先は方向変更が出来ず空を切る。クラウスの方はロイドの勢いを利用して、膝での蹴りをストレートに彼の腹に食い込ませた。

「ゴホッ!!」

「ふむ……悪くない」

 研究対象を検分するような視線をロイドに向けて、クラウスは呟く。

「お前……こんなことしてタダ済むと思うなよ!?首飾りは、お前らには絶対に渡さんからな!!」

 ロイドが叫びながらクラウスに向かって再び駆けだすと、紅茶色の瞳がガラス玉のような様相でロイドを睥睨した。

「何故愚かな者は己の立場を弁えんのだ?エリィが既に答えを出した筈だ」

 向かってくる男に足払いを掛けて転倒させると、まず膝の骨を踏み抜く。ゴリッと鈍い音がしたが、マルクによって素早く耳を塞がれたエレオノーラには届かない。


「マルク?」

「あああ触れる無礼をお許しくださいお嬢様!私、あとでクラウス様とオルガさんに一発ずつ食らいますから!」

「なぜ!?」

 盛大に嘆くマルクの体が壁となって、エレオノーラに暴力の現場は見えない。そしてマルクの嘆きがあまりにも悲壮なので、そちらの方に彼女の気はとられてしまった。

 何せ、クラウスが来てくれたので、エレオノーラにはもう何も心配することはなかったのだから。


「痛ぇ!!」

「首飾りはもはや交渉のカードとして役にはたたん。もっと賢くやってくれればこちらも壊し甲斐があろうというものを……」

 カッと音をたててロイドのこめかみをクラウスが踵で踏む。するとロイドは白目を剥いて気絶した。

「……私の宝に手を出したのだ、命があるだけ儲けものと思うておけ」

 静かになったので、そっとマルクの影からエレオノーラが顔を出す。床に倒れたロイドと、その傍に立つクラウスを見て小さく呟いた。

「終わった……?」

「ああ」

 クラウスが頷くと、エレオノーラは彼に向けて腕を伸ばす。するとすぐさま引き寄せられて、彼女の体はすっぽりとクラウスに抱きしめられた。ぴったりとくっつくと、温かい体と落ち着いた心音が感じられてエレオノーラの口からほぅ、と小さな溜息がこぼれる。

「……大丈夫か?」

「クラウスと……マルクも部屋の中にいるの知ってたもの……平気よ」

 口ではそう言いつつ、エレオノーラは甘えるように彼の胸に額を擦り付けた。クラウスはぽんぽんと宥めるように彼女の背中を撫でる。


「あら、もう終わってしまいましたか」

 そこへ、開いた窓からスルリと入ってきたのはいつもの侍女のお仕着せ姿のオルガで、彼女は異常な動きをしたとは思えないいつもの様子で呟く。 ちなみに部屋に着地する際、なんでもないことのようにロイドの顔を踏んづけたのは確実にわざとだろう。

「オルガ!」

 クラウスの腕の中から、エレオノーラが顔を上げてほっとした様子で微笑む。

「首尾は」

「勿論この通り」

 クラウスに言われて、オルガはポケットからベルベットの袋を取り出す、中から取り出したのはきらきらと輝くエメラルドの首飾りだ。

「姉様の……!よかった……ありがとう、オルガ」

 感激して口元を両手で覆う彼女を、再び抱き寄せてクラウスが髪を撫でる。

「ではマルク、警備を呼んでこの男を連行させろ。私とエリィは公爵に話をしてくる」

「はい、我が主」

 マルクは恭しく頭を下げ、持ってきていた縄でロイドをぐるぐる巻きにして拘束した。



 廊下に出ると、先程の出来事は嘘だったかのように今まで通りの世界が広がっていて、その温度差にエレオノーラは足元をふらつかせる。そんな彼女を、心得たようにクラウスは腰を抱き寄せてエスコートした。少し遅れて、先程他人の部屋に侵入したとは思えないような澄ました顔のオルガが続く。

「抱き上げて運ぶか?」

「う……さすがに自分で歩きます!」

 それでもほとんどクラウス寄り掛かるような体勢になってしまっていてエレオノーラは顔を赤らめた。

「……クラウス、喧嘩強いの?」

「領地に頻繁に行き来する際、野盗の類に出くわすこともあるからな。最低限の身を守る術ぐらいは備えている」

 クラウスは柔術と拳闘の心得があり、多忙な時期でも訓練を欠かさないようにしていた。

 侯爵家の領地は広大かつ各地に点在し、それらを巡る際に治安の悪い地域を通らざるをえない時もある。ふいの襲撃の際に、得物がなくとも護衛や従者達の足手まといにならない程度には鍛えてあるのだ。

「そっか……力持ちだしね。カッコいいね」

 ふふ、とのんきに笑うエレオノーラに、こいつ明日は熱を出すな、と判断する。今現在少し体が熱い。

 公爵との話が済めば、あとは抱えて部屋まで運ぼう、と決めて廊下の先を行く。




柔術と拳闘の心得なのに足技多めのクラウス…脚が…長いので…

次でラストでーす!

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