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レディ・エレオノーラ〜箱入り侯爵令嬢のまったく優雅ではない恋愛譚〜  作者: 林檎
レディ・エレオノーラとエメラルドの首飾り~眠れる獅子な侯爵令息が本気を出した場合~
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15.決裂




 夜中。

 夜会はまだホールで続いているようで、遠くに喧噪が聞こえる。

 ギッと僅かに軋む音がして、扉が開く。防寒のしっかりとしたドレスと上着姿で部屋の中で待っていたエレオノーラを見て、室内に入ってきたロイド・ワーグナーは不思議そうに目を瞬いた。

「何故そんな恰好を?先程のドレス姿の方が美しかったのに」

「……暖炉に火も入れられていない部屋で、あの姿でいては凍えてしまうわ」

 その返事に特に気にした様子もなくロイドがバタンと音をたてて扉を閉じた為、彼女は不快そうに眉を顰める。そっと後ずさり、窓辺に寄った。

 月光を受けて、エレオノーラのプラチナブロンドがなめらかに輝く。瞳はかすかな怯えに塗れているが、それ以上に強い意志が満ちていた。

「……扉は開けて置いてください」

「ご冗談を。それとも誰かに見られたい願望でもあるんですか?」

 卑猥な言い方をされても、エレオノーラの表情は冷たく凍ったままだ。


 ここは、屋敷に多く設えられている小応接室の一つ。

 先程袖に挟まれていた手紙は当然ロイドからで、彼は首飾りを返して欲しければ誰にも言わず一人でこの部屋に来るように、と指示してきたのだ。

「……ではせめて、窓を開けさせていただくわ」

「淑女は男と部屋に二人っきりにならないってか」

 クックッと機嫌よさそうにロイドは言う。

「それよりも……大公妃の首飾りを盗んだのはあなたなのですね」

「ああ、アンナは俺の女でね。フィオレンティーナ嬢の部屋の係になったと言うんで一つお遣いを頼んだら、喜んで盗んでくれたよ」

 ロイドはニヤニヤと笑いながらエレオノーラを下から上までじっくりと眺める。

「……その割には、公爵家の監視下で拘束されているアンナさんのことを助けようとはしていないようですが……」

「ありぁもうダメだ。公爵様になんか捕まったらどうしようもないだろう?それに、事件が明るみに出ても、最悪アイツを犯人として罰せば国としても、カロッツァ側に面目が保てるだろうしな」

 軽く言うロイドに、嫌悪感でエレオノーラは震える。

 開いた窓の、その更に遠くから夜会の華やかな声や楽団の奏でる音楽が届く。

「……俺達も踊るかい?」

 気取った仕草でダンスを申し込まれて、彼女は首を横に振った。

 とてもそんな状況ではないのに、冗談を言われたのだと感じてエレオノーラは不快な気持ちになる。

「アンナさんに罪を全て負わせるつもりですか?あなたが彼女に首飾りを盗ませたのでしょう?」

 月明りだけが差し込む部屋で、エレオノーラは自分の体を抱きしめるようにして立った。

「その予定だよ。実際に盗んだのはあいつなんだ、言い逃れは出来ないさ」

 あっさりと肯定されるとロイドが何か得体の知れないものに見えて、彼女は唇を噛む。アンナも勿論実行犯として許せるものではないが、それでも愛する男の為に盗みを働いたというのに、何でもないかもように切り捨てられていい筈がない。

「……何故そんな酷いことが出来るのです……そもそも、何故首飾りを盗ませたのです!?」


「そりゃあ、麗しのエレオノーラ嬢。あなたを手に入れる為だよ」


「……は……?……そんな、ことの為に、他国の大公妃の持ち物を盗んだの……?」

 エレオノーラが後ずさると、彼女の体は窓枠にぶつかる。ロイドはニヤニヤと笑いながら近づいてきた。

「ただの外国の大公妃、じゃない。あなたの姉だ。このことが明るみに出るのを、あなたの姉もあなたも望んでいないんだろう?」

「……ええ」

 吐息がかかる程近くに立たれて、エレオノーラはぶるぶると震える。彼女が窓枠に触れると、隣の棚ががたりと鳴った。

「あなたが欲しかった。なのに、あなたはいつもシルバ子爵と一緒にいて……婚約しているわけでもないのに、男と親しくするのならば、相手は俺でも構わないだろう?」

「おかしなことを……!」

 どん、とロイドの体を押すが、びくともしない。エレオノーラの紺碧の瞳には、恐怖で涙が膜を張った。

「何も俺と婚約しろ、なんて言いませんよ。あなたを一晩くれれば、首飾りは返してあげます」

「……ひと、ばん?」

 エレオノーラに覆い被さるようにしてロイドは彼女を見下ろすとにやりと笑う。

「ええ、あなたが一晩我慢すれば、姉君の首飾りは何事もなかったかのように帰ってきます。ねぇ?悪い話じゃないでしょう……?」

 耳元で熱く囁かれて、ぞわぞわと這い上がる悪寒に、彼女は後ずさったが窓枠にぶつかるばかリで退路はなかった。

「さぁ、返事を。あまり俺は気の長い方ではないんでね」

 上着に手を掛けられて、エレオノーラは心を決めて顔を上げた。

 潤んだ紺碧の瞳に月明りが映り込み、強く、強く煌めく。


「お断りします!!あなたのような酷い人に従うなんてごめんです!!」


「な……!じゃ首飾りは永遠に戻ってこないが、いいんだな?姉君を悲しませることになるぞ?」

 ロイドが目を見開いて狂暴な顔つきになる。けれど、もうエレオノーラは怯まなかった。


 彼女には確固たる指針があり、違えることはない。


「姉様も、義兄様も……そして私の婚約者も、首飾りの為に私が損なわれることは望まないわ!!」




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