12.5.Bonus track
クラウスの部屋に戻ると、オルガがお茶を淹れてくれた。
テーブルに置きながら、彼女は胡乱な眼差しでソファの方を見遣る。
当初の予定では、他の宿泊客同様にクラウスも一旦は王都の自邸に戻り仕事を片付けてから再びこの屋敷に戻る算段だった。
フィオレンティーナの依頼でここを離れることが出来なくなった為、別の部下に運ばせた書類を捌いている現状だ。
「……クラウス」
「なんだ」
「…………これは……仕事、しにくくない?」
「問題ない」
クラウスは、書類をバリバリ捌いている。
エレオノーラを膝に乗せた状態で。
「絶対やりにくい!邪魔でしょう?私!」
昼間を寛いで過ごす為のドレス姿だったので、コルセットも締めていないエレオノーラは落ち着かず彼の膝の上でカチコチに固まっている。
「邪魔ではない。私が乗せたんだ、嫌なら降ろすが」
書類から視線を外すことなくクラウスはしれっと答えた。まるでエレオノーラが過剰反応しているかのような扱いである。
「……いや……ではない……けど……!」
「では問題ないな。続ける」
「えぇ……どうしよう、クラウスが壊れた……」
「お嬢様、大丈夫ですわ。クラウス様は元々こういう方です、今更壊れたのではありません」
エレオノーラが動揺しつつおろおろと呟くと、壁に控えたオルガが鋭く返す。
「不敬だぞ、オルガ。だが許す、私は今非常に機嫌がいい」
「恐れ入ります」
オルガは慇懃に頭を下げた。その一連のやり取りを見て、エレオノーラは両手でクラウスの頬を包んでこちらを向かせる。
逆らうことなく、彼は紅茶色の瞳をエレオノーラに向けてされるがままだ。
「…………ひょっとしてクラウス……はしゃいでる?」
「そう見えんか?」
「見えない!」
「……そうか。恐らく生まれて初めてここまではしゃいでいる。付き合え、婚約者殿」
さっ、と瞳を逸らしたクラウスに、彼女は驚く。照れているのだ!この男が!
「クラウス可愛いね」
「知ってる」
ふふ!と笑い、エレオノーラはクラウスの首に抱き着く。
「私もはしゃいでる」
「それは重畳」
この後事件の話に戻るので、つかの間のらぶらぶ!




