序章 オストブルク レゲンデ・パラストの食事室 2
「ノーレ、おれの話聞いてたよな?」
あのひとのことを考えると、カールの料理も味を失う。せっかくの鹿を、ノーレの方へフォークで押しやってしまう。レオノーレがそれを返してくる。またおれはフォークを滑らせる。
「殿下。お行儀が悪うございますぞ」
背後に立った侍従のフィリップが厳めしい声を出した。
「うわっごめん、『正式の時にはちゃんとする』」
背筋を伸ばして、いつものお決まりの「ごめんなさい」の文句を反射的に口から出していた。
「殿下はもう18歳でいらっしゃいますから、寵姫をお持ちになるのは必要なことでございます」
レオノーレは目を落としてナプキンをいじりながら言った。
「一番仲いいおなごってならおまえだぜ」
おれはすぐに被せて言った。
「わたくしはそういう役目ではございませんので」
「なんでだよ」
おれはまごついた。おれたちの婚約が延び延びになってるのは、父王が早くになくなったからと、レオノーレが一人娘で、国内最不穏地域である北部諸州の相続がややこしくなってしまうから、そういうことだと思ってた。
「あ、そうか、妃だもんな。妃の方が寵姫よりエライんだろ? 子供も王位継承権あるし。今ちょっとあにきがあれだから婚礼は後でになるかもだけど。
おい、正式に求婚の使者立てろ。口上は、ええと、なんだっけ、
ここに法定王位相続人、王子フリードリヒ・ジークフリート・ヨーゼフ・レオンハルト・フォン・グーツヴェルはレオノーレ・フォン・ダッフォン=ウルシュベルク辺境伯令嬢に求婚を……
あ、だいじょぶ、辺境伯領は適当な奴に継がせるから、ええと、いとこいたろ、やっぱ背低くてめがねの、ホラ」
おれはナイフを持ったまま振り返ってフィリップに申しつけようとした。そうそう、善は急げ。
「そういうことではないのです……困らせないでくださいませッ」
あ、怒った。
ちいさいめがねっこは立ち上がって、顔を真っ赤にして涙を零しながら言葉を繰り出し始めた。
「なぜこのクライナー・パラスト(ちっちゃいほうの宮殿)がただいまは摂政宮になっているのかご存知でございましょう!? 毎日公子様とわたくしが付きっきりで政務のお手伝いをしているわけも!
殿下はもう摂政王弟殿下、ゆくゆくは兄王様の後を襲って国王におなりのお方!」
「解ってるって」
おれは慌てた。泣いた! 泣かせちゃったぞどうしよう!?
開始2話目で振られてしまいましたw 頑張れジーク!