最終章 320日目 フリッツァー・パラスト 王の執務室 6
「あたくしがついておりますわ。エリーザベト先王妃様も、姉妹づきあいをお約束して下さっておりますのよ」
マグダがささっとレオノーレを庇うように寄り添って笑った。
「ああ、そうしてくれ」
おれはほっとした。なんだかこの2人気が合うみたいだし。
「まったくネルバッハ公夫人は役に立ってくださるお方です」
フランツが最大限持ち上げている。
「そうでございましょー?
ねー陛下今夜はどうぞご褒美に可愛がってくださいまし」
ほら、マグダが調子に乗った。
「マグダレーネ殿ッ」
クリスティーナが眉を吊り上げた。あ、フランツ、こういう嫌がらせなわけね。
「だってダッフォンのお方はまだ王妃におなりにならないしー? そういう殿方のお寂しい夜をお慰めするのはあたくしのような寵姫の仕事ですしー?」
レオノーレの顔はいっそう強ばった。どうしたものかとおれが助け船を探そうと目を巡らせると、廊下の方から焦った声がした。
「へっ、陛下ーッ」
「なんじゃ、こちらは陛下の執務室じゃ、格式を心得て……陛下ッ」
ドアへ動いたクリスティーナが声を上擦らせた。
「火急ノ用ニテ罷リ通ルヲ赦サレヨ。
ジークフリート殿ッ! 相済マヌ、齟齬ノ在リシヨウニテ……
コレ、マリー、控エヨ!」
その言葉遣いは間違いようのないあのお方……!?
【叔母様こそお控えになって。埒が明かないと思いましたのであたくしが参りましたの。ごめん下さいませ!】
リースの言葉が続く。
「赦サレヨ……」
大きくドアが開いてシトロンの香りが弾けた。
【案内も乞わずに失礼。
あたくしはリース王太子フィリップが長女、マリーにございます。こちらのジークフリート王陛下にはご即位おめでとう存じます。初めてお目もじつかまつります、兄王陛下に似てご壮麗でいらっしゃいますね。
この度の凶事はお悔やみ申し上げます。新王陛下にはご英断ながらご傷心でございましょう、ご同情申し上げます。
新王陛下と我がリース王室との絆を深めるために、吉例に拠りましてあたくし、マリーが参上つかまつりました。どうぞ末永くよろしくお願いいたします】
倒れ伏した先王妃様に眼もくれず、きびきびと腰をかがめて一礼して見せた少女は、キラッキラの笑顔をフランツに向けていた。マントを半分だけ掛ける洒落た着こなしは流行最先端の装いで、金髪巻き毛のかつらにきどった帽子なんか被っていて、ちょうど真ん中の執務机から立ち上がっていたフランツの方へ。ああ、ニコルほんとさっきのかつら取ってきてくれといて良かった。公子様のお世話はお前しかできないよ。
「マリー! 控エオロウ! ソナタノゴ夫君ト伝ワリシハコナタニ非ズ!」
エリーザベト様が悲鳴のような声を挙げていた。
この貴婦人がここまで取り乱したの見たのはじめてだあ。
おれはそっちに感動していた。
最後の「ヒロイン」登場。