表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百年謳われる愚行の王  作者: 早乙女 まいね
171/176

最終章 320日目 フリッツァー・パラスト 王の執務室 5

 ルールーズ公家はリースの中の序列では祖母上の実家とされるガルトン公家よりは落ちる筈なのだけれど、自分が公爵家の、それも庶子と引け目を感じていたとしたらシュザンヌ公女こそ由緒正しい姫君と思えたことだろう。幼心に覚えている。母上様には光り輝く美貌はなくても、優雅なしぐさや嗜みのある振る舞いが生まれながらの王侯を感じさせた。それに比べると、祖母上は、たしかに天使のような無邪気さがあり、そこが魅力でもあった。きれいな器に入ってたからってテーブルの上の手濯ぎ用の水を飲んでしまったってのは有名な話。それ以来、うちの給仕は手濯ぎ水を出すときは必ず、こちらでお手を、と言い添えることになってる。

「シュザンヌ様もお心映えの優れた方であられましたから、すぐさまご自分もさらに膝を折ってお返しになり、今日よりはわたくしが母君様にお仕えいたしますとお返事なされて、一度でうち解けて、それよりは親しくお付き合いなされたと申し伝わっておりますのよ。

 ですから、必ずしもリースの王女様をお迎えする必要は無いのでございます。

 先様としても、丁度釣り合いの取れる姫君が王家、大公家におられぬのは事実、またしてもどこぞの貴族からお嬢様を見繕ってと頭を悩ませていたところでしたから、この話に乗ってくるのは時間の問題だったのですわ」

「ありがとうよ、マグダ」

 おれは心から友人に感謝した。おれの祖父、おれの祖母、おれの母は、なんと心のやさしい道理を弁えた人々であったことか。それを知ることができて、おれは胸が洗われ、背筋の伸びる思いがした。


「リース王の王女ということになれば、形式的に辺境伯との関係は切れます。陛下の心の中で辺境伯を頼りに思う気持ちが無くなることもないとは拝察いたしますが、これで外戚の専横を怖れる諸侯を憚ることもなくなりましょう。

 レオノーレ殿も、これからはおおっぴらにお父上を頼りになさらぬように」

 フランツはほんとうに楽しげに笑っていた。人の不幸は蜜とでも思っているんじゃないだろうか。とくに、最大の競争相手で王位への障害と思っているのなら。年初の国王演説の場で大逆人と告発されたことでもあるし(公子、それ自業自得ですから)。

「待て、それじゃあレオノーレが孤立するじゃないか」

 お寂しそうだったエリーザベト様が思い浮かんでおれはぎょっとした。

「それくらい、我慢いたしますわ」

 レオオーレは淋しく微笑んで見せた。

「孤立などさせはせぬ。わらわはどこに赴いてもノーレ殿の友じゃ」

 クリスが胸を張った。これから新伯爵として領地に入るクラウスとは別居でオストブルクでノーレの仕事の手伝いをさせつつ出産に備えさせようという心づもりだったのに、まだ懐妊の兆しがない。都にいるうちにとクラウスを責め立てているらしい。えーと……がんばって、勇者殿。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ