最終章 320日目 フリッツァー・パラスト 王の執務室 4
フランツは流行最先端の姿を回復したところで笑顔を盛大に振る舞った。マグダの情報網を警戒する局面は終わったらしい。
「うふふ。ゲッティンガー大司教台下には弱みがございましてよ。
あのお坊様、葡萄酒に目がないんですの。ミサに使うという名目で教会のお金でお酒をたくさん買い込んでおられますけれど、じっさいの儀式には安物でお済ませになって、年代物の名酒はもっぱら自分だけで楽しんでおられますの。そこのところを、ちょっと」
「さすがだな」
「本当に」
フランツも感嘆していた。
「もとより、リースの宮廷が我が国の王家を認め、縁続きであることが重要なのであって、必ずしもリースの王家の血を引いていることが大切なのではございませんので。
実を申さば、2代アレクサンデル秀才王陛下のお妃、ルイーズ陛下はガルトン大公女ということになっておりますが、公女様がたは揃って東の新興国に嫁ぐを嫌がられ、やむなく傍系、ダヌー公爵の庶子でありながら光り輝く美貌と天使のようなお心映えで知られたルイーズ様にお話が参ったのですわ。急遽養女とされてお披露目されたルイーズ様の清らかなお姿に、なぜこのような佳人をむざとグンペイジに呉れてやるのかとペルルの宮廷は大騒ぎになったとか。
さりながら、天使のごときルイーズ様は身分を偽って嫁ぐことを良しとなされず、お輿入れの際に秀才王陛下とご対面されたその時に、真実を告げて破約も甘んじて受ける由お申し出になられたのですわ」
「聞いてないぞ」
おれは思わぬ事実に声をかさつかせた。
「当家にもその話は申し伝わっておりますが、陛下にどうかお聞かせを」
フランツが促した。
「さすがは秀才王陛下、明るい声で笑われて、それそのようなことは、いかな田舎のグンペイジにとて伝わっており申す、ここで大切なのは、リースが公女と認めた姫君をお遣わしになることで、それによって2国の友誼が深まればよいだけのこと。
それより、このように真正直でお姿も清らかな、それこそ天使のようなお方を我が妃としてお迎えできる幸せをわたしは主に感謝いたします。グンペイジの民にとってもそれは誉れであり幸いでありましょう、そのように仰せになって、熱く抱擁をされたとか。
そのあとは皆様ご存知の通りご夫婦仲も睦まじく、3代アレクサンデル可惜王陛下、ダキタン大公妃様、センデ大公妃様をお上げになったのでございます。
しかしながらルイーズ様はご自分が王家の出身でないことを負目に思っていらして、産まれながらに銀百合の紋を負った姫君を王妃にお迎えになることを心からの願いとしていらしたのですわ。
「聞いてないぞ」
おれは思わぬ事実に声をかさつかせた。
「当家にもその話は申し伝わっておりますが、陛下にどうかお聞かせを」
フランツが促した。
「さすがは秀才王陛下、明るい声で笑われて、それそのようなことは、いかな田舎のグンペイジにとて伝わっており申す、ここで大切なのは、リースが公女と認めた姫君をお遣わしになることで、それによって2国の友誼が深まればよいだけのこと。
それより、このように真正直でお姿も清らかな、それこそ天使のようなお方を我が妃としてお迎えできる幸せをわたしは主に感謝いたします。グンペイジの民にとってもそれは誉れであり幸いでありましょう、そのように仰せになって、熱く抱擁をされたとか。
そのあとは皆様ご存知の通りご夫婦仲も睦まじく、3代アレクサンデル可惜王陛下、ダキタン大公妃様、センデ大公妃様をお上げになったのでございます。
しかしながらルイーズ様はご自分が王家の出身でないことを負目に思っていらして、産まれながらに銀百合の紋を負った姫君を王妃にお迎えになることを心からの願いとしていらしたのですわ。
さまざまな人脈をお使いになって働きかけをなされて、お国の勢いも増し、ご当人様の男ぶりのお噂もあってアレクサンデル2世王陛下のお妃にルールーズ公の公女であられたシュザンヌ王太后様をお迎えできた時には本当にお喜びで。シュザンヌ様がお輿入れになってご対面の折には、あろうことか感極まって臣下の礼を取ってお迎えになったとか」
「ありえぬ!」
クリスがため息を漏らした。義理の母になる立場だからね。ほんとはね。
「控えよ、クリス」
クラウスが短く制した。