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百年謳われる愚行の王  作者: 早乙女 まいね
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最終章 320日目 フリッツァー・パラスト 王の執務室 2


「宰相殿ッ!」

 レオノーレが犯人を特定した。数字の環の閉じるところのインクをこっそりこっそり削って薄くしてあるようだ。

「おや、薬の時間のようだ、ちょっと失礼」

「フランツ、退室は許さん。申し開きをしてみろ」

 これが声を尖らせると、黙ってクラウスが立っていって出口を塞いだ。

 フランツはおんなどもに詰め寄られて汗を垂らしながら、ほんの手慰みの小手調べ、皆様が書類をちゃんと見ているようで結構と言い訳していた。税金が安いに越したことはないではありませんか、かえって新王の人気取りになる、と。このまま通していたら来年の税収が3厘分……ざっと600万クロウネ減っていたことになる。ほんとうに、洒落にならない悪戯を仕掛けてくれる。

 おれは進み出て、フランツの気取った帽子を剥いで、その最新流行の髪型の金髪のかつらをむしり取って窓から捨ててやった。リースの方じゃあ今は髪は刈り上げて、超高級品の巻き毛のかつらを被るのが最先端らしい。まだ自前の髪があるのにもったいないじゃないか。フランツは悲痛な声をあげて窓の外を見やった。あ、金髪ってところがよかったのかな? 顔と名前の同じ3歳年上の金髪のバカは、公子の心にまだまだ深い傷を残しているらしい。でも自分であにきを殺らなかったのはフランツが自分で選んだことだし。そのへんはゆっくり自分で何とかしてもらう。

「それから、アドラー橋ちゃんと直せよ? まだ全然じゃないか。荷揚げ場はそんなに壊れてなかったけど、橋が落ちたのはホント困ってるらしいから」

 辛うじて飛び石のように残っている礎石に板を渡して通っているらしい。不安定で、荷車などは無理だそうだ。しょうがないから国軍は訓練の一環として荷担ぎ役を買って出て、一列に並んで黙々と手渡しで荷物を送っているらしい。やつらが剣を忘れないうちに頼むよ。

「あれはレオノーレ殿が落としたのではないですか。公の建物にはなるたけ被害を出さぬよう伯には申し含めておいたのに」

 フランツは笑って首を振った。

「おまえが余計なことしなかったら落ちてないんだ。やれよ」

「いろいろうちも物要りで。どこも工事続きで人手が足りませんし。……クリスティーナ殿のご一行はフリューリンク街道の各関所を残らずぶち破って通られたようですよ」

 背後に掛かった国土の地図を指し示して見せながらフランツはクリスティーナの方を見やっていった。

「それもおまえが余計なことをしなかったら壊れなかったんだよ。

 この季節は畑仕事は暇になるはずだろ? 農民どもを呼んで冬を越すための金を稼がせてやれよ。

 わかった、新しい橋には【フランソア・ボー】という名を付けてやる」

『麗しのフランツ』橋だ。これで少しはやる気を出してくれるだろ。

「それはまた魅力的な」

 フランツは眼を細めて見せた。

「『こそどろフランツ』橋になるのが落ちでございましょう」

 レオノーレも最近言うようになった。

「解りました。冬までにはその名に恥じぬ華麗な橋をまた架けてご覧に入れましょう」

 フランツは見得を切って見せた。

「慌てて手抜きをさせるなよ? 百年残るようなちゃんとしたのを頼むな」

「ええ、はい」

 フランツはご機嫌でセンデ大公家向けに作業を指示する書類をつくりはじめた。おい、それ宰相の執務時間中にやるなよ。


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