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百年謳われる愚行の王  作者: 早乙女 まいね
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37章 230日目 フリッツァー・パラスト 新王の居室 2


「その古いドレスを、裁ち直して作り替えるのですわ。そして、布の足りない分を、気の利いた新しい布を挟むことで今風に致しますの。こちらもあたくしが嫁いで参りましたときに殿とはじめてのお茶の会に出ましたときの思い出のドレスにございます。

 ご覧遊ばせ!」

 くるりと回って見せたマグダのスカートは、広がったとき、襞で隠れていた部分にその新しい布を使っていたらしく、ぱっと明るい色が見えた。

「おお、面白いな!」

「同系色を使いましても上品で素敵、かえって逆の差し色を使うと元気で楽しい感じになりますでしょ?」

 マグダのは後者だった。いろいろ織り柄の入った落ち着いた茶のドレスに、明るいオレンジの布が見え隠れしてびっくり、ドキドキさせられた。

「おれはこっちがいいな。これ、レントレラを舞うときに着てくれよ、おもいっきり回してやるから。そんで、みんなをびっくりさせてやろうぜ」

 それなら、レオノーレがエリーザベト様のお下がりを着ていても流行最先端ということになる。助かった。

「うれしいことを仰ってくださいますこと」

 マグダはにっこりした。

「じゃあ、その作り直しのドレス流行らせてくれな? おれも、他の貴婦人がそういうの着てるの見たらすかさず褒めるようにするから。れいの扇の合図で教えてくれ。でも、行きすぎは困るぞ?」

「陛下は賢明でいらして諜姫冥利に尽きますわ」

「マグダが有能なんだよ。ほんと、ありがとうな」

「口でのお礼だけなのが残念でございます。では、宿直はローザリンデ様と交替しますから。健全に盛り上がってくださいませ」

 ちょっと舌を出してマグダは退出した。でも時々は相手して貰ってる。内緒だけどね。


 作り直しドレスは結構流行って、お茶の会ぐらいでも、差し色は誰がセンスが良いかとか、このドレスは何代前の大祖母様の秘蔵の繻子織りで、もう織れる織り子がいなくなったのをうまく作り直したとか、それぞれ代替わりの後で知り合いも少ない中こわごわ王都に集まってきたご婦人連中の話題を取り持つのに役立ったらしい。もちろん、広がったスカートのドレスの型紙を分けて貰うためにみんなエリーザベト先王妃様のところへご機嫌伺いに殺到して、先王妃様のまじめでお優しいお人柄に触れてまたリースの言葉を教えてもらいに通ったり、お礼にレース編みを教えて差し上げたりと先王妃様の宮殿が淋しくならないようにしてくれた。

 大戦の後でつつましくなってたご時世のせいか、作り直しドレスはうちの国以外にも流行ったらしい。この夏の園遊会でとうとうリースの王妃様が作り直しドレスを取り入れて話題になったとか大使が報告書の中にまで書いてきて、リースから流行を取り入れるんじゃなくてこちらから流行を輸出した栄えある最初の例といってなんか一部では盛り上がったそうだ。フランツがその報告書を鷲掴んだまま熱っぽく解説してくれた。


「作り直しですけど! 所詮は作り直しなんですけれどね! 陛下この意義がお解りですか!?」


 いいからその手はなして。正式の報告書なのに皺になるだろ。


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