36章 140日目 フリッツァー・パラスト 新王の控えの間 2
「……とまあ、それくらいには我が君に心酔して、お役に立ちたいと心から思っているのですよ、陛下」
くわせもののいとこ殿はまた春の陽のような笑いを顔にのぼせた。
「陛下、本当にこの方を許してお側に置かれるのですね? いつか寝首をかかれますよ、本当に!」
レオノーレは顔を真っ赤にしていきり立った。
「然り! 今度という今度はもうあきれ果てたわ! わらわが王宮にいられるのはこのひと月の間じゃが、ご決断いただけるならすぐに手勢を率いて参るによってどうぞご下知を」
「レオノーレ殿、クリス、やめないか」
クラウスが肩を落として2人を止めに入る。
「そこは、おまえが身近に侍ってくれて、いつでも護ってくれるから大丈夫なんじゃないか?」
クリスティーナはクラウスに任せておいて、おれはレオノーレの手を取って笑ってやる。
「左様」
クラウスが間髪入れずに言う。
「ですね」
フランツは他人事のように笑っていた。
おれの治世はそういうわけで進み出した。
森にうち捨てられたあにきの遺骸だが、結局、エリーザベト様の方から引き取りたいとの申し出があった。
「貴男ハ妾ガタッタヒトリノ背ノ君。タトエ何度裏切ラレヨウトモ、妾ハ貴男様ヲ受ケ入レヌコトハアラジ」
新王妃の座を辞退し、棺に口づけて、花よりも麗しい最高の貴婦人は泣き口説いたらしい。
おれはそれを認めた。あれだけのことをしてのけて、それでもこの貴婦人の変わらぬ愛を勝ち得たのだから、あにきには負けたと思うしかない。
ちょうど良い格式の離宮を落ち着き先に選んで、エリーザベト先王妃は療養生活に入った。全てを赦し、受け入れる、王妃というより尊い聖女として生きてゆくつもりのようだった。相談があったので、おれは、先王妃として慣例以上の年金を約束し、附属の医療施設を充実することに協力した。地下牢に押し込められていた気の毒な病人達も引き受けて貰って、日の当たる清潔な病室へ入れてもらった。
嗜みが深くいろいろ行き届いている先王妃の側近達には、我が国最上位の女官として後宮に残って貰うことにもした。おれの側にずっといて、おなごの嗜みにはやや疎いレオノーレを助けて、王妃の主催の舞踏会、園遊会、観劇会など、貴婦人達のための格式高い行事の運営にうってつけの人材が得られるのは助かった。建前として「リースの王女」であるレオノーレの下に付くことになるので、誇り高い彼女たちも一応納得したらしい。「我が妹」を疎略に扱ったら即時リースへ送還せしめるとエリーザベト様が一度締めておいてくれた。後宮からリース語を一掃することだけはできなかったことになるが……まあしょうがない。