1章 シュヴァン城 <回想>10
回想終わり。
「公子様はこのような妄言を耳にするもご不幸。忘れ捨てられよ。
殿下ははらわたの腐ったお兄上をお持ちでご不幸なことじゃ」
がばと身を起こし、クリスティーナが顎をあげて言い放った。
ちょ、待って。
「控えよクリスティーナ殿ッ」
クラウスがクリスティーナの肩を押さえた。
「クリス殿、思い違いをなされてはなりません」
スカートを摘み身をかがめて正しく礼を取りながら、レオノーレは冷ややかに言った。
「陛下ははらわたが腐っておられるのではございません。
恐れながら、もっと違うところが……」
意味深に、間をとって見せた。
その時は、脳味噌が腐っているのだと言いたかったのだろうけど、本人は、今思うと既に発症していて、腐り始めたところに心当たりがあったもんだから言葉に詰まって青ざめた。
情報を既にレオノーレに握られてると思ったのかも知れない。
「……アウグスト、あれだな、類は類を以て集まる。阿呆は阿呆同士つるむものだ」
言い負けたあにきは声高に取り巻きに言って立ち去った。
【まったく左様にございます】
【ええそうですとも】
頭を下げて礼を取りながら、フランツとレオノーレは口々に言い返していた。あにきの苦手な外交語でだったところがいやらしいけれど。おれの友達にもわかんなかったらしく、クリスティーナとクラウスはひそひそやっていた。周回遅れで、さすが、なんて肩をどやしつけられてフランツは困った顔をしていた。
ほんと、おれの友人たちは頼もしい奴らだ。
クリスとクラウスの2人は回想にしか出て来ない……?