34章 140日目 フリッツァー・パラスト 1
粛々とことは運んで、おれの戴冠式がやってきた。不祥事の後なので、省略できるところは思い切ってできるだけ省略した。リヒャルトは、引き継ぎ書類にいちいち「特例」と赤字で書き込むことを忘れなかった。ほんとに固いやつだ。それでいて、大葬も省略したし、かかりが節約できたのは助かったと財務副大臣のオケゲンと一緒になって喜んでいた。ほんと逞しい。うちうちでやるからといってるのに、諸外国からはかなり大物を派遣してきたがったので参った。最近この辺ではおめでたいことがなかったから諸外国の王室も盛り上がっているらしい。他人事だと思って。大使と王族では接待の等級も違うんだから、こっちに負担かけさせないでくれよ、とうちあけた内容のことをまたトアヴァッサーの老公が手紙に書いてくれて、一応大物王族の列席は表向きないことになった。……そんなこといって、お忍びでルーベルのミドランド親王がいらしてますわ、とマグダの情報網はかぎつけて、こっそり動向を探らせている。ミドランド親王って時期国王じゃないか。父上様やあにきみたいな美男ならともかく、おれの顔見に来てどうするんだよ。単にお祭りが好きなのか。
諸侯の奥方達には、あにきのときの仇を取るように、好きに着飾って貰うことにした。諸侯は、兄王の死に対しては喪に服する必要はないと通達してある。エリーザベト様は再婚で、自主的に喪に服しているのではでにはできない分そこはせめて賑やかにして貰わないと。内乱やら兄殺しやら、おめでたくない即位なので暗い雰囲気を除きたいのだった。
意外な援護はトアヴァッサーから入った。
「まあまあ、これでわたくしは三代の戴冠に立ち会うことができましたよ。長生きはするものね」
大公妃は東から輿に乗って長い道のりをにこにことやって来た。
「久し振り、ジーク、なんだか男ぶりが上がったこと。大きいアレクに似てきたわ。背も伸びて、立派ね」
小さな老婦人は、にこにこと手をさしのべておれを抱いてくれた。
「お久し振りでございます。大きいアレクって、あの?」
「あなたのお父上様よ。男前の『もったいないアレク』。
あなたのお兄様は小さいアレク」
「それはお世辞にございますね。おれは母后に似ているという話でございますから」
「いいえ、男の子は大人になると父親に似てくるものよ。『もったいないアレク』も若いころはそばかすでちんくしゃで、どうしてあの美男美女からこんな王子がと言われていたものよ。ご成婚の前には、リースの公女様に嫌われやしないかと鏡ばーっかりみていたわ、おかしいこと。それでも、即位して書き物仕事ばかりで陽に当たらなくなったらそばかすが薄くなって、お顔も凛々しくなって。リースにまで美男王と名前が轟くようになったのだわ、ほほ。
グーツヴェル王家は美形の家。あなたもきっと男前の王になるわ。楽しみだこと」
「恐れ入りましてございます。おれも楽しみに致します」