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百年謳われる愚行の王  作者: 早乙女 まいね
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33章 100日目 フリッツァー・パラスト 大広間 6


 いやだ、そんなの。困るよ。


 クリスやクラウスは、戦場では頼りになるし、まともな判断力はあるけれど、政治や外交でいろいろ考えた間違いのない策を打ってくれるという方向ではない。リヒャルトやオケゲンもその受け持ちの分野では頼りになるが、多くを望んでは負担になるだろう。

 おれは心を決めた。

「フランツは父上も定めたおれの法定相続人だ。おれが跡取りを得るまえに倒れたら、その時は頼む」

 一同はそこで息をすることを思い出したらしい。一斉に溜め息が漏れた。

「ただ、おいたわしい婚約者殿のために、修道院なり建てて弔って差し上げて欲しい。あにきがするのが筋だろうが、おれが害してしまったから、そこは、おれの相続人で、もと婚約者のおまえが。この戦いで命を落としたもののための祈りも。補償も。身体に傷を負って苦しんでいるものがあればそれも。全て、このバカげた戦いの掛かりをおまえとセンデ大公家で負ってもらいたい。いい加減なことはするなよ? このレオノーレに監査を任せる。マグダのご友人達にも目を光らせてもらって、誠を欠いた振る舞いをすれば、一生どころか、100年大陸の語りぐさになるような恥と知らしめてもらうからな。

 楽できると思うなよ? あとは、こき使ってやる。王位が欲しいとな? おう、切り回させてやる。ただし国庫から給与は1ヘラーたりとも払わぬ。領地に戻ることも許さん。生涯オストブルクに詰めて、一日も休むことなく宰相としておれの宮廷のために腕を振るってもらう。

 そしてそれは、将来おれのあとを継いでこの国を治めるときのためのこのうえない準備の時となろう。そう念じて堪えよ。

 王はおれだ。主がそうお定めになったのだ。そして、係累のおらぬおれの次に王位を継ぐのはお前だ。そういうさだめだ。解るな?

 その優れた頭脳で国をよりよくしてくれ。それがお前に求める償いだ」

「有り難きご配慮を頂き恐懼し承ります。フリードリヒ・カール・アレクサンデル・ルートヴィヒ・アンドレアス・フォン・グーツヴェル=センデ、せがれを監督し、補佐し、心して励みますことをお誓い申し上げます」

 センデ公が体中から声を出して宣誓した。諸侯らの溜め息が細波となって広間を巡った。

「フランツ、盃を取れ」

 おれは、マグダに持ってこさせたグラスに酒を注がせた。マグダの味見の後、一口煽り、フランツに差し出した。フランツは、それを臣下の礼で押し頂き、それを飲み干した。おれは、正装の腰に吊っている剣を抜きはなって、その肩を叩いた。騎士に任ずる証だ。一息で巧く抜けてよかった、ここで手間取ると締まらなくなるところだった。

「おれと同じ皿からものを食い、おれと同じ盃から酒を飲むのだ、これからはな」

「まったくもってお甘い」

 顔を俯けていたフランツは笑った。羽根飾り付きのマントの肩が揺れた。羽根がそれに連れてふるふる揺れる。クリスが剣に手をやって身構えた。いちはやくクラウスがその手を留める。いちど振り仰いで見せたフランツの顔は、心の底から愉快そうだった。

「お甘いが、比類なき大度。感服つかまつりました。

 もったいなき温情に感謝しますとともに、改めて我が君に心からの忠誠をお誓い申しあげます」

 フランツは爽やかな声で、跪いて宣誓した。優雅すぎる身のこなしで。まったくにくい奴だ。

「レオノーレ・フォン・ダッフォン=ウルシュベルク、承りましてございます」

 レオノーレが認めてくれた。おれの方がよっぽどホッとしていた。

「マグダレーネ・フォン・クライスレリネン=ネルバッハ、同じく承りましてございます」

 マグダのかろやかな優しい声が響いた。

「うむ。皆も良く聞け。そして、フランツをよく見張ってくれ。おれのあと、フランツが失政を行ったり、道を外れたときには剣を以てフランツを正してやってくれ。トアヴァッサーのラインハルト、キィのクリスティアン、両名その資格はある、大公家はそのためにあるのだ。そのために、剣と政治をよく学んで次代の頼もしき王家の騎士となってくれ」

「心得ました!」

 老公に促されて、顔を真っ赤にした(前略)・ラインハルト・(中略)・フォン・グーツヴェル=トアヴァッサーが宣誓した。

「あい!」

 先の大公妃になにか言われて、幼いキィ大公も反射的に叫んでいた。

「うむ、心強いぞ」

 おれは肯いてみせた。大丈夫、空っぽじゃない、うちの宮廷は、まだ繋がっていく。胸が熱くなっていた。


「一件は落着した! めでたし! 正義と温情の王、ジークフリート王に忠誠を!」

 進み出て、ヴェレ伯が感じ入ったように大声を張り上げた。

「ジークフリート王に幸あれ!」

 クラウスが伸び上がって声を発し、一同はそれに唱和した。

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