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百年謳われる愚行の王  作者: 早乙女 まいね
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33章 100日目 フリッツァー・パラスト 大広間 2


「それでは、アブント男爵から。参れ」

 洗って、破れたところなど繕って火のしを掛けた旗をそれぞれに手渡しで返した。旗を受け取ったところで、両肩を抱いて、

「よく帰ってきてくれた」と声を掛けた。王宮に招くというのは罠で、処刑されると散々脅されて来たらしい領主は、そこで緊張がとけて泣き出してしまった。

「悪いのはおれだ。兄を放置していて悪かった。もう18なのだ、幼弱を言い訳にしない。どうか皆でおれを支えてくれ」

 雄弁に語る言葉もなくて、ただ当たり前の言葉を短く連ねるしかなかったが、皆はそれをそしらなかった。

 1人が泣くと、進み出る皆々泣き始め、なんだか湿っぽい雰囲気の年始演説会となった。


 旗を返し終わったので、おれは次の目配りに入った。

「反乱をしたのがよいというわけではない。おれのもとに戻ってくれたのを感謝しているのだ。もちろん、あれだけのことをしてのけた兄を、王家を、見限らずに企てに乗らなかった諸侯、おれたちが平定のために駆け回っているときに協力してくれた諸侯のことをないがしろにするつもりはない。ありがとう。助かった。

 今旗を返した諸侯と、そうでない諸侯にこの後差を付けるつもりはない。公の場でそれについてそしったりあげつらったりしたものは、等しく名誉に対する罪として伝来の法に照らして処分するによってしかと覚え置くように。

 次には、この度の戦で大功のあったものに勲章をさずける。


 レオノーレ・マリア・クロチルデ・フォン・ダッフォン=ウルシュベルク!


 おれの側にあって作戦を立て、国王軍を指揮してアドラー橋砦の奪還に成功したことを賞して、第1等聖藍菊十字勲章を与える」

 溜め息が細波のように広間を駆け回った。レオノーレは晴れがましい顔をしておれの前に進み出た。襟は高いし、限りなく軍服に近い紺色で、いつも同様色もデザインも地味めのドレスだが、スカート部分ははやりの全方向広がるかたちにしている。流行に疎い男どもには、かえってその方が、さすがダッフォンの娘、と浮ついたところのない気だてを窺わせて受けがよい。肖像画を残すよう申しつけてあるから、絵師が端の方で画帖を手に食い入るように見つめていた。その肩から腰に、おれは青い勲章帯の大きな勲章を掛けてやった。いつもの金のブローチにも調和して見えた。


 ……きれいだよ。


 おれは心で語りかけた。

「ありがとうございます。この勲章に恥じぬよう、これからも相務めさせていただきます」

 レオノーレは小さい体で優雅に、立派に礼を取って見せた。誰にも文句は付けさせない、親の七光りや長年学友を務めた付き合いのおかげなどではない、自分で勝ち取った忠臣の証なのだ。藍玉を花の形にちりばめた豪華な勲章、年金が副賞としてついていて、これで受賞者は一生生活を保障され、子孫にも所有は許される。だが、おれがレオノーレに本当にやりたいものに比べたらちっぽけなものだった。

 おれはひととき、胸をいっぱいにしてレオノーレと向き合っていた。


 ……陛下。

 フィリップが小声でおれを促し、おれはうなずいて、レオノーレに退出を許した。レオノーレはまた一礼し、上体を折ったまま正しく5歩を後ずさると向きを変え、広間の真ん中を突っ切って退出した。裏を通ってまたおれの側に戻ってくる段取りになっている。

「次には、ドッペルブルク侯爵アルベルト! よい、特にそのままで!」

 腰の悪い侯爵は、細身の杖を手に、脂汗を垂らして立っていた。おや意外と渋いいい男じゃないの。すっきり面長めの顔のわりに太って見えるのは、腰を保護するためのごついコルセットをはめているからと奥方から聞いた。普段はからくり人形のような立ち居しかできぬので、跪いたり腰をかがめたりの宮中の儀礼がつらいらしい。そりゃ引きこもりにもなるよ。

 側には背もたれなしの腰掛けを用意させて、辛かったら座っても良いからと言い含めてあったのに、長い式次第を立ったままに堪えていてくれた。おれはもう小走りになって近寄って、手を取っていた。陛下やり過ぎ、とフランツが呟いた気がした。

「そなたには第1等金剛光宝珠勲章を授ける。

 此度はとりわけ役に立ってくれた。礼を言う。ありがとう。商売の邪魔をして悪かった。

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