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百年謳われる愚行の王  作者: 早乙女 まいね
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33章 100日目 フリッツァー・パラスト 大広間 1


 公表した異議申し立ての期限までに、おれに挑んできたものはいなかった。

 戦後処理のために、おれはおれの名の下に全貴族を召集した。反乱側に与したものも、マグダに聞いてそれぞれおろそかにできない筋から悪いようにはしないからと言わせて呼び寄せた。どうしても出頭できぬというものにはヴェレ伯を遣わして死を賜った。これはしょうがない。

 年は改まり、例年通りの年始の国王演説にそれを行うことにした。


 クラウスの親父さん、タットン男爵が出頭してきた。なるほど、明るい茶色の髪に普通の青い目で全然似てなかった。これはお祖母様に感謝だ。ヴィジーのご隠居を討ち取った手柄と、その時の問答のおかげでヴィジーの伯爵家を相続することになったと話すと感慨深げにしていた。おまけにクリスティーナを娶ることになってると言ったらもうびっくり小躍りで。クラウスも、忙しかったのは判るけど自分の結婚なんだからちゃんと報告しとけよ。親父さんとしては家格が低いのもあって、学友のご令嬢たちとそういうことになるとは微塵も考えていなかったらしかった。その逆を考えたらそういうとこも好ましいけどね。

 ジークフリート王の前に、諸貴族は皆々集まった。あえて昨年までの序列は無視して、諸侯の称号のアーベーツェー順に並ばせた。分家は本家と引き離し、有力なものに頼れぬようにと配した。国王側に付いたものも、反乱側に付いたものも、まぜこぜに立たせて、仲裁者の立つ余地もなくした。私語は厳禁とし、追従をいうもの、反乱軍に与したことを責めるものは厳しく譴責させた。


 大公家はそれぞれ王族として俺の横に並んだ。キィ家はさきの大公妃が幼い大公を伴って出頭した。トアヴァッサー老公は、さすがに旅の疲れが出てかいっそう顔が険しくなっていた。傍らには、跡取りのおちびさんが。そうか、もう10歳か。おちびじゃあなくなったな。おれと目が合うと、顔を輝かせて礼を取って見せた。頼もしいもんだ。フランツも、父に従って現われ、いつもの笑顔で平気な顔をして礼を取った。

 レオノーレも、将来のウルシュベルク辺境女伯、王の側近として同席した。即位するなりリヒャルトに言いつけてすぐさま特例を通してレオノーレの相続の書類を作ったのだ。最大の功労者だ。おなごをまつりごとに参加させるなと言うものはもういなかった。次には、がんばってくれたオケゲンを財務副大臣に。大臣はただいまれいの病で加療中なので、ゆくゆくは財務大臣になることになる。


「皆々久しいな。新年おめでとう。よく来てくれた。顔を上げてくれ。此度のことで諸侯に与える罰はない」

 おれは玉座の間に一同を見渡して、取り繕って語り始めた。あにきが着るはずだった第一礼装は、意外なことに大して直さなくても着られた。申しましたでしょう、あなた様は大きくおなりだ、とフランツは敬語ながら上から目線だった。

「兄アレクサンデル3世がことで世を騒がせて済まなかった。諸悪の根源、アレクサンデルはおれが成敗したによって、此度のことは水に流して欲しい。諸君らの父母、息子、娘、兄弟、姉妹らに兄が及ぼした悪しきわざについては、この通り詫びる。まっこと申し訳なかった。だが償いようのないことゆえ、怒りはそこまでに留めて欲しい。

 反乱を起こせしシュヴァルツリーリエ伯については、娘のあとを追って自害したによって、申し訳なきことなれど、これ以上の追求はできなくなった。おれも、詫びこそすれ罰を与えるに忍びないので、このまま伯の縁者に弔い以下の手続きを任せたいと思う。伯爵領は安堵し、然るべき相続人に相続させる。皆は以後も大逆人と見なさず交わりを絶たずにおいてやって欲しい。それは、伯と盟を結んだ諸侯も同じである。ただし、乱を起こしたことによって自らの兵を損ない、財を失ったとしてもそれを王家で補ってやるつもりはない。それは兵を挙げたものがその身に負うべきことである。心しておくように。

 罪なき国民を脅かしたことについては、それをさせたのは王家に対する怒りということで、替わりにおれが責めを受けようと思う。今、内務大臣、ネルバッハ公リヒャルトに賠償について案を出させておるから、名案があるならやつに出してやって欲しい。

 次には、アドラー橋の争いの後、おれに旗を預けていったものたちに、旗を返したい。

 よく戻ってきてくれた。そして、よく王を恐れずに悪いことは悪いと言ってくれた。礼を言う。また今度はおれが道を違えるようなことがあったら、同じように正々堂々挑んで欲しい。できれば、兵や民に迷惑をかけないよう、会議の席か、せめて馬上試合にして置いて欲しいけど」

 ここ笑うところなんだけど。おれは息を呑んで反応を見た。

「はァーッはッはッ。では我らが手加減の要らぬよう、精進なされよ、陛下」

 ヴェレ伯が大笑し、ウルシュベルク辺境伯も続いた。

「手がすべってうっかり陛下を手に掛けては大変なことになってしまいますからのう」

「わ、解った、おれも日々努力する」

 なんとか諸侯の頬に笑みのようなものが浮かんだようで、油断無く一同を見渡していたマグダが肯いて見せた。

ちょっと長め。新王ジーク頑張ります。

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