1章 シュヴァン城 <回想> 9
回想続きます。
怒りのあまり言葉の出てこないおれを庇って、フランツが進み出てくれた。
「恐れながら、絵物語の中から出てきたようなまことの王、昇る日が如くご壮麗で優雅の極みでいらっしゃいますアレクサンデル三世王陛下には、ますますお健やかにご機嫌麗しくお過ごしのことと拝見いたします。
我が君ジークフリート殿下ともども、大変喜ばしく思うとともに、陛下の麗しくもお盛んな様をこの目に映すことができて目の幸せ、心の喜び、もったいないことでございます。
我が君は兄王様を慕うこと限りないのではございますが、なにしろ心を表わすには言葉とそれ相応の嗜みが必要、心は溢れんばかりでありますのに言葉の方が追いつかず、それが我が君にはもどかしく、恥ずかしく、兄王様にお目に掛かるのがついお辛くなって足も凍り付いてしまうのでございます。どうぞ、寛き御心にてそこをご理解いただいて、かわゆき弟と思し召しになってお赦しくださいませ。
さて、ただいまは我が君、王弟ジークフリート殿下が陛下の法定相続人ではあられますが、この先陛下が王子を儲けられますと、その陛下にとっての愛し子が間違いなく法定相続人となるのでございます。
どうぞ、宮中の花々を愛でるのもようございますが、王妃陛下と睦まじくなされてお世継ぎを儲けられませ。さすれば陛下の優秀なお血をお引きになる優秀なお世継ぎを得られることとなり、我が君も余りにも輝かしいお兄上様の後を継がねばならぬ御自分を情けなく引け目にお思いになることがなくなり、皆々様万々歳というものでございます」
さすが、フランツは口がうまい。ちゃんと宮廷っぽく褒め殺しのあいさつをしながら、あにきが女遊びをするばかりなのを皮肉りながながと反撃してくれた。
「低脳が。よく口の回る取り巻きがいてよかったな!」
あにきは白い顔に朱をのぼせた。鼻の付け根の辺りに皺が寄っちゃって、ああ、美男子台無し。
「フランツよ、てめえより年の下の頭のわるい連中とつるんでいたんじゃあ、それは秀才ぶれて楽しいことだろうな?
臆病者が!
才を誇るなら年の上のものと太刀打ちしてみろ。所詮はその程度なんだよ、てめえなんかはな! センデの宮廷で公子様の跡取り様のと持ち上げられてたくらいでいい気になってるんじゃねえぞ!」
今度はフランツにとばっちりが行った。
ああもうほんと、こんなのが王ですいません。おれは全力でこの世の全てに謝りたかった。
その時から。
「ご鞭撻ありがとうございます。陛下のもったいなきお言葉、胸に刻んでおきます」
フランツは微かに微笑んで、完璧に優雅に礼を取っていた。フランツはスゴイやつだ。おれは尊敬している。