1章 シュヴァン城 <回想> 8
狩りの回想篇 その5
話を戻そうか。
あにきは堂々しらをきった。あれくらいのけだものを屠れずに王子としてどうする、なんて言ってた。
いやうちはもともと武勇で有名なうちじゃないし。
フリッツの舌先三寸、あっちをなだめ、こっちを調子に乗せて、ドッペルブルクに金出して貰って、大戦はヴェレやヴィジーに頑張って貰って、寄り合い所帯をまとめて作り上げた国だし。
あの戦乱の時代を死なないで乗り切った程度の武力しかないんだ。
あにきのとりまきは宮廷貴族で武勇はいまひとつなのに、おれの学友はそれぞれ若年ながら、常々稽古をつけてくれる武将達が保証してくれたり、武芸の大会で入賞したりと華々しく噂されておるのを妬んだものらしい。
まがごとを無かったことにするために「ジークフリート王子の優れた学友たち」は5割り増しでもてはやされた。お蔭でアレクサンデル3世王陛下の覚えは最低。逢えば嫌みが飛んでくるようになった。当然おれはあにきを避けまくったが、そうもいかなくて。
「ジークフリート! てめえ、おれが見えていてなんで道を変える!? あいさつもまともにできねえのか。こんな低脳がおれのあとを継ぐかと思うと父上様も情けなくておちおち墓所でおやすみにもなれねえだろうよ」
あにきの通る先触れを見た途端方向転換をしたところを、とうとう捕まって怒号を浴びせられた。即位しておいてまだこの言葉遣いなのだから、アレクサンデルはあほうだ。おれは黙って控えたが、目の色にそれが出たらしい、父王が生きていた頃はそれなりに華やかだった王宮の廊下が、一気に殺伐とした。
既に目の辺りに荒淫の徴が出て、とても20代に入り立てとは見えなかった。
今にして思えば、既にれいの病に罹っていたのだった。その頃は思いもよらず、ただ、若年で即位して、王の責任に潰されそうになっておるのを虚勢を張って堪えているのだとも、世継ぎの王子として窮屈に育って、思いがけずはやく手に入れた権勢を使ってみたくて仕方がないだけともおれたちは見ていた。