28章 57日目 フリッ ツァー・パラスト 後宮 1
翌日真っ先に報告に行ったのは後宮だ。おれが自分で伝えねばならないと思った。
兄を処刑したと伝えたとき、エリーザベト様は小さく悲鳴を上げた。
しばらくして、窓の外へ眼をやって語り出した。そう、そこは涙の庭だった。
【昔語りを致しましょう】
エリーザベト様は、グンペイジ語で想いを綴る心の余裕もないように見受けられた。
【くにの後宮には、さまざまな国の王子の肖像が集められた部屋があるのです。リースの王女と生まれたものは、外つ国に嫁いで国同士の縁を深める役目がありますから。
代々の王女達も、わたくしも、幼い頃からそれは申し含められ、自らも心を決めて育つのです。
その王女たちのもとに、将来の夫となる王子たちの肖像が届けられるのは道理でございましょう。数代分の王子様方のお小さい頃からの肖像が、取り集められているのです。リースの王女達は、婚約が整う前から、肖像画でまだ見ぬ背の君への思いを膨らませて育つのです。ええ、わたくしも。
肖像画は、乙女心を傷つけないために多少は誇張が入っているものです。そこは、見る方もある程度は理解しておって、わたくしも、じっさいのアレクサンデル様はこの絵ほど美男子とは限らないかもしれませんと言い含められていたのですけれど、それでも、百枚ほどの肖像画の王子たちのうちで、アレクサンデル様がいちばん美男子であるとわたくしは思っていました。ええ。お父上のアレクサンデル二世王陛下のお若い頃の肖像も、ご祖父上のもございましたよ。みな拝見して申すのです。わたくしの側のものにお尋ね下さっても構いませんよ。皆々そう申すでしょう。
わたくしは、アレクサンデル三世陛下に恋をしておりました。