1章 シュヴァン城 <回想> 7
狩りの回想篇その4。
一頭はクラウスが回してくれておれに花を持たせてくれたことだし。
戦績は、猪20頭に狐2頭、兎1羽雉3羽に刺客2人(うちひとりはセンデ公子づき従者が始末)。チーム・プレイだが堂々のその日の一位だった。クリスティーナとクラウスの勝負は、2頭差でクラウスの勝ち。ただ、クリスティーナはおまけの雉3羽もしとめていて、その分を加えるとクリスティーナの勝ち、とクラウスは控えて見せた。
クリスティーナは、さすが、2つめに弓の女神の名も持つだけある、弓術も巧みだった。右腕と左腕とでは長さも太さも違うらしい。かりにも伯爵家の姫君が、とフランツが額を押さえていた。信じられない長さの弓も従者は持って控えていたが、それは狩りには使わないとクリスティーナは笑っていた。噂のあれですか? とフランツはそれで察して、2人でこそこそ話していた。ヴェレは兵器の開発や改良にも熱心だから、そのうち披露してくれるんだろう。
おばあちゃまへのお手紙にはここのところを大いに面白く書いて差し上げよう、おれは常々そう思ってものごとを細かく見る癖が付いている。
おばあちゃまと言っても祖母上のことではない。
先の王太后様にはたいそうよくしていただきましたからね、そう言って、トアヴァッサー大公のお妃はおれの祖母がわりをしてくれていた。東方の練り香の不思議な匂いのする手紙はいつも最高の場面でやってきてはおれを慰め元気づけてくれていた。
……まあまあジーク、恐ろしい目に遭ったこと。でも、あなたはそれもお手柄にしてしまうのね。あなたは聖ゲオルギオス様に守られているのね。次の休息日には、いいえ、明日の朝にでも教会に行ってお礼のお祈りをしなくてはいけませんよ。おばあちゃまも一緒に遠くローゼンブルクから聖ゲオルギオス様にお祈りを捧げますからね。クラウスは本当に勇敢な子だこと。殿が是非にとジークのお側に上げたのは間違いではなかったのね。おばあちゃまもお鼻が高い気持ちだわ。ふたりにはおばあちゃまがいちばんの「ぎゅっと抱っこ」をしてあげましょう……。
気取った言葉遣いのできない大公妃からの手紙は、いつもそれを補うようにかわいらしいスケッチが付いている。公式の場以外では東方の装束をまだ守っている大公妃の、特徴ある頭巾をかぶったしわくちゃの女性がぼさぼさ頭の男の子と黒髪の目の険しい男の子をまとめて抱っこしているスケッチをクラウスに見せてやっておれたちは顔を緩めたものだ。
東方から嫁いでこられた大公妃は公用語が苦手で、おれはおばあちゃまに読んでいただくために東方では辛うじて残っているという大昔の言葉を必死で身につけた。おかげで書くだけ、書くだけはなんとかできる……。勉強はからきしというおれの隠し芸ね。
「カガヤケルナツノヒモオワリヲツゲ、アサガケノオリニクサグサノウエニツユノオクヲミカケルジキニモアイナリソウラエバ、タイコウヒニオカセラレテハオカワリナキヤトアンゼラレマスル……」
どうよ?