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百年謳われる愚行の王  作者: 早乙女 まいね
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23章 55日目 アドラー橋前広場 1



「おいおいおいおいおいッ、それはまずいだろッ後で困るッ」

 引き出された大砲の数におれは汗をかいていた。フランツの家からだけじゃない、どこから集めてきたこんなに。それに、フランツと計画してたのは平原での会戦で、城攻めじゃないだろ。

 城ってか砦だ。やっぱりおなごは物資を優先するんだろうか、アドラー橋の奪還をレオノーレは計画してた。コウシ平野でドンパチするって話は、もしかして引っかけだったのかも知れない。明日の朝からフリューリンク街道門を突破して順次南に進軍するって話の国軍精粋は、とうに必要な陣形に展開し終わっていた。おれの出した正式の作戦指示書の他に、ノーレの起こした檄文がマグダの知る首都に残って息を潜めていた貴族達の屋敷に回ったとあとで聞いた。

「陽気王、秀才王、可惜王、代々のグーツヴェル王家皆々様の恩を被ったものどもはここに参集すべし。

 王を見限るなら正々堂々と挑むが筋なりしを、ただ息を潜め成り行きを眺めて勝ち馬に乗るがごとき卑怯の振る舞いはジークフリート王子殿下のもっとも忌まれる行いである。 その曇った目で摂政王弟殿下のご器量を間近に見て寄る辺なき身の今後のしるべとすべし」

 次期王の最大の後援者にして北部諸州を抑える国の重鎮(の娘)の言葉に、むち打たれたように諸侯は駆けつけた。詰めかけた貴族達の手勢も、ノーレの差配で適切に配置されていた。

 今度こそ、センデ家の、盾の中が鎌の見返りドラゴンの紋の旗がおれの側に翻る。出し抜かれたフランツはまだ仕度が間に合わないらしい。槍が交差するトアヴァッサー大公家の旗も上がった。家宰のミハエルが駐在兵の指揮を執ると聞いた。おや、赤い盾に棍棒ならキィ家だ。大公妃もとうとう腰を上げたらしい。

「いかなる時も、キィ家は王家の最大の友にして最も近しい臣下にございます」

 そういって、都の留守宅を守っていた兵を全て寄越した。

 色とりどりの旗が夜空に映える。金糸で縫い取りされた大きな旗、びっしり狼の並んだ紋、たしか16頭すき間なく並んでるはずだ、どこのだっけ、ああ、ゾフィー殿のツァターク。鈴なりプラムはドッペルブルク、もう見慣れた。一重咲きの野薔薇はツィゼーン、向かい合わせの鶴はザイヒヌン、エステル殿がゾフィー殿のお転婆仲間だったなんて知らなかったって。嫁入り道具の白銀の鎧に身を包んで、寝たきりの夫に替わって駆けつけてくれた。頬には朱を上せて、初めて出会ったあの踊りの会の時とは別人のような美しさだった。おや、逆に借りてきた猫のようなのはリヒャルト・フォン・クライスレリネン=ネルバッハ。金で集めた傭兵が大事な大事な大臣閣下に怪我をさせじと守っている。いや、あんたは王宮で留守を守ってくれててよかったんだけど。

「おい」

 勇壮な一団の隅っこに、あおざめた小さな顔が見えて、おれは人をやって呼ばせた。

「ユリウス、おまえはまだ軍務に就くような年じゃあないだろ」

 シュテッテン伯のレントレラ息子は跪いて控えた姿勢から勢い込んで答えた。

「さりながら! 父は領地で動けず、思いもかけず先の踊りの会で摂政王弟殿下にお声を掛けられた身なれば、この王家の一大事に父の名代として馳せ参じましてござます!」

「偉いな。成年式も済ませぬ身で、大鎧の仕度があるとはさすがシュテッテン。常日頃の心構えが行き届いておる」

 少し寸法が合っていない借り物のような大鎧は、手入れは行き届いて光っていた。

「成年にあたっては、身体と趣味に合わせたものを誂えまする! これは、事ありしときには未だ成年に達せざる者も戦に赴くこともあろうとの代々の言い伝えにて用意がございました。われらシュテッテンの者は心はいつも戦時を忘れぬのでございます!」

 だから踊りにはまった息子達が許せなかったんだな、はは。

「と、ここまでは家宰の申しよう。実は妹に蹴り出されて。

 踊りで殿下のお目に留まった身で、ここ一番の大戦のときに年齢を隠れ蓑に屋敷に隠れていてはひとの嘲りを受け、父上のお怒りもなお激しくなられましょうから、と」

 猫目の少年は正直者らしい。まじめくさって言ったあとは首をすくめて小声になる。おいおい。ほんとおなごの方がしっかりしてるようちの連中は。

 でも、気持ちが良い。

「よいよい。怪我をするなよ。

 ヨハン、ユリウスに怪我をさせないよう、おれの陣の近くに寄せてやってくれ。こいつにはレントレラの足捌きを教えてもらわなきゃいけないんだから」

 おれはシトロンの飲物でも貰ったような気持ちになって、傍らの侍従に申しつけた。


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