19章 40日目 フリッツァー・パラスト 太陽の間 6
「素敵でございましたでしょ? きっと殿下もお気に召すと思いましたのよ」
ちょうど曲が終わってた。
「あ、ああ、いいなこの踊りは。
ユリウス、シュテファニエ、ご苦労だった。冷たいものでもどうだ?」
手際よくマグダが用意していてくれて、おれは手ずから猫目兄妹に飲物を渡した。果汁かなにかを発泡水で割ったものだろう、まだ酒には早い年頃だ。
「お褒めにあずかり恐縮でございます」
「お目汚しでございました」
「そなたらは兄妹と聞くが、やはり年若い男女でこのように抱き合って踊るのは危ない心持ちになることだろうな?」
「い、いえ」
「全然そのような不埒なものではございません!」
息の上がってしまっている兄妹は赤くなった。……たぶんこれは憤慨したんだろう。
「でも、おれは見ていて恋しい人と踊りたいものだと思ったよ」
言ってしまってから、エリーザベト様を誘ってしまってたことに気付いた。
「いやそうじゃなくて!」
脈絡の掴めない兄妹はぽかんとしたが、マグダは笑った。
「あら、いやだ、殿下ったら。
では、お気に召して頂いたと思ってようございますね?」
「おれも踊りたい。いいんじゃないか? もとは下々の踊りでも。おまえたち、足捌きが複雑で、決まった動きはなくてその時々に変えていたようだったようだが、あれはもともとああなのか?」
「ええ、基本の動きがいくつかございまして、それを時々に組み合わせて、隣のものを避けたり、空いている方へ動いたり指示しますので」
「それは、その場で口で説明するのか?」
「男の方が御者の如くに足の運びや目の動きで示すのでございます。女の方で、それを察して合わせるので。心の通じ合ったもののみが名手になれる踊りにございまする」
「それはまた、馬術のようで競う愉しみもありそうな」
「御意! それでわれらははまってしまったのでございます!」
「解った! おれが摂政王弟として勅令で認めよう。レントレラは淫らな踊りとはみなさず、ひと組の舞いの妙技を目指す踊りとして、宮中での夜会に行われる踊りに加えることを認める。但し、そうだな、頭の固い連中に変なことを言わせないために、組み合う男女は、正式の夫婦に血縁家族、あとは婚約中の2人に限るというのでどうだ?」
「ありがとうございます!」
猫目兄妹は目を輝かせた。
「帰ったら公布の書類起こさせておくからな。
じゃあ、教えてくれ、その複雑な足捌き、どうやるんだ?」
つい足を踏み出して、壇上から降りかけたら、
「でーんか! 殿下には今日はお役目がございますのよ」
マグダが止めた。ああ、摂政王弟は忙しい。
「じゃあ、あとでな! なんだったらフランツに教えておいてくれ、やつならすぐ覚えるから」
振り返って、フランツを見た。フランツもおれの後ろに立って、感嘆していたのは解っていた。もしかして、レントレラが流行っていることももう知っていたかもしれない。
「覚えても、殿下が組み合う相手に制限を付けてお仕舞いになったからわたしは踊ることができません。勅令でダンスの相手に制限を加えるなど、野暮な……」
「禁ずるよりましだろ!? おまえ婚約者いないのか? だったらお母君にオストブルクに出てきて貰え!」
言い捨てて、おれは次の間に動いた。
区切りが悪いのでダンス・パーティ会投稿してしまいます。