19章 40日目 フリッツァー・パラスト 太陽の間 5
「いいんじゃないか?」
ごくごく控えめに言ってみた。
「コハ娘ニトリテモ心楽シミナラン」
肩が少し揺れている。エリーザベト様もしかしてノってます? そう思ったら、
「お誘いしたら失礼でしょうか?」
つい言っちゃってた。
「妾ハ斯クノゴトキ激シキ動キハイタシカネル。オ気持チダケ頂イテオクユエ」
はい、そーですね。さっきも断られたのに。病人に何言ってんだろおれ。
「サレド、我ガ背ノ君ト踊ルヲ夢見ルヲ許サレヨ」
あ、はい。エリーザベト様あのバカ兄に操立ててるんだよね。そこんとこも奥ゆかしくて好き。
「兄と陛下が組んで踊られましたらそれはまさしくお似合いで、絵のようでございましたでしょう」
あ、泣かないでくれます? おれももらい泣きしそうだから。ハンカチ出そうと身じろぎしてるうちに、エリーザベト様ささっとハンカチ出して使っちゃった。もう完璧のリース仕込みのマナー。
ほんと、あにきはバカだよなあ。こんないいひとがお妃なのに。
「お目の毒だったでしょうか?」
「ナニヲ仰セラレル! 絶エテソノヨウナコトハアラジ!
ソモジニハ感謝シテオル。忌マワシキ病身ナルヲ厭ワズ日頃カラ来訪セラレ、マタ心利ク友ヲオ遣ワシ戴キテ淋シキ日々二マタトナキ慰メヲ下サルノミナラズ、斯様ナル華ヤイダル集マリニ参加ヲオ認メ頂キテ。
乞イ願ワクバ、我が召シ使イタル者ニモ此度ノゴトキ華ヤギニ預ラセシメ給エ」
「華やぎに参加って、それは、主催者側として? ……え、いいんですか? ご迷惑じゃ?」
「然リ。準備ニ忙殺サルルトモ、ソハ何物ニモ代エラレヌ華ヤギナリ。百朝同ジガ如ク我ガ身ノ世話ニ専心シタラバ皆々心老ユルベシ。夜会ノ装束ニ心ヲ砕キ、午餐ガ献立ニ頭悩マスモ女人ノ愉シミノ一ツト心得置カルルベシ」
そういうものかもね。エリーザベト様はまだグンペイジ語を覚えるという目標があったけど、お付きの女官連中は、ホント暇だったと思うし。
「お付きの方々の心にまでお気遣いなされるお心の優しさに心打たれます。まこと、王妃様はお心映えの優れた方にいらっしゃいますね。我が兄にはもったいない」
ちょっと屈んで見上げると、ヴェイルの下の端から素顔が見える。最近この絶妙な角度が解ってきた。きれいな青い眼が見える。最近は、エリーザベト様のことが嫌いじゃない……。
「まあ、おおっぴらにお兄上様のお妃を口説いていらっしゃる!
殿下にはお願いしたきことがございますのに!」
マグダが割り込んだ。
「なんだよ?」
危ないところを気持ちを逸らして貰って助かった。おれは不機嫌をつくって向き直った。