1章 シュヴァン城 <回想> 4
3年前の狩りで、おれの方へ荒れ狂った手負いの猪ばかりを20頭も追い込んでくれたのはどう繕いようもなくあにきとその取り巻きだった。
できれば死んでくれとの嫌がらせだった。じっさい調子に乗ってそのようなことを口走ってもいた。まあ、おれの学友どもが優秀であるのはそこで証明されたんだが。
最初の二頭までは何かの手違いと見えた。
ほとんど同時に仕留めて、クリスとクラウスは目を合わせて笑っていた。その頃から良い雰囲気だった。
「初っ端から凄いな。
クラウス、それご老公にもってってさしあげろよ、今お淋し……お暇にしていらっしゃるだろうから」
世継ぎの王子アレクサンデルの教育は一族の長老トアヴァッサー大公が担当していた。朝は鶏の啼く前にラッパで叩き起こし、食事は平時は兵どもと同じ堅い黒いパンに薄いスープ、腸詰めが2本きり。剣も馬術も兵共に後れをとらぬよう叩き込まれ、更に、上に立つものとして政治に軍略もしごかれる。楽しみのために本を読むことなど許されず、読むものといったら古典、法典、軍記に年代記。おれはそれを伝え聞いて、跡取りに生まれなくて良かったと神に感謝した。
同情は即位するまでだった。王冠を被るなり、まだはたちの王は、永の勤めご苦労とばかりに教育役の任を解いてトアヴァッサー大公を領地に追い返した。ねぎらいの言葉は形だけ、土産の一つも持たせずに。そして、それまでは密かだった乱行がおおっぴらになった。
タガが外れたようになったアレクサンデルの教育を間違ったことに気付いて、トアヴァッサー大公は当時傷心の身で領地に隠棲していた。
「はっ、左様にございますな」
クラウスは下級貴族であるのをトアヴァッサー公の推挙でとくに学友になったということでいろいろ気遣いして貰っているから、ホッとしたように頭を下げた。その頭越しに、信じられないものをおれは見た。
今回は短め。回想が続きます。