プロローグ 少女と雪斗と恋雪と霊亀
「さて、説明を続けるよ」
真剣な表情に戻った雪斗を見て、少女と恋雪は黙った。霊亀は元々何も喋っていない。
「さっき恋雪兄さんが言ったけど、異能力者は、第二次世界大戦終了後、突如として現れた」
「ここに関しては僕もよくわかっていなくてね。ただ一つわかっていることは、」
雪斗の候補にあるスクリーンに、とある画像が映し出される。
「これ__DNAに、非異能力者にはないものがある、ということだ」
「ちなみに政府は知らない情報だよ。しかもこの前、協力者の人に教えてもらったばっかりだから、知ってるのは僕と君たち、そして協力者だけが知ってる」
それを私に言っていいのか?少女は驚きのあまり、雪斗をガン見した。
恋雪が立ち上がり、雪斗に詰め寄る。
「待って待って雪斗。部外者がいるのに、それ言っていいの?」
正論だ、と少女は思った。
記憶がなく、自分の名前を知らず、この組織の人間ではない少女が聞いてしまっていいものではない、気がする。
ふふ、と、雪斗はどこか楽しそうに笑った。
「別にいいんだよ。前にも言ったけど、協力者は政府の人間だ。あの子が〈白夜のクロニクル〉に所属しても〈政府組織〉に所属しても、他の組織に所属しても、知る情報になるだろうからね」
「それでもっ、」
言葉を遮るように、霊亀が雪斗と恋雪を離した。いつの間に席を立っていたのだろう。
雪斗の前に立ち、雪斗を守るように立っている霊亀は、仮面越しでもわかるくらい、恋雪を見据えている。
(霊亀って何者……?)
疑問に思っていると、恋雪が舌打ちをして、霊亀を睨みつける。
「いっつもいっつも雪斗の傍にいてさぁ。なんなのほんと。喋らないし仮面はつけてるし、ほんっっと気に入らない。何?雪斗の傍にいたいと望んでもいられないオレへの見せつけか何か?そういうのほんとやめてくれない?一万歩譲って白夜なら許すけど、お前は許さない。霊亀、雪斗から離れてくれない?」
早口でそう言う恋雪に、霊亀は何も答えない。代わりに、雪斗が溜め息を吐いた。また始まった、とでも言いたげな顔だ。
この光景を初めて見る少女は、オロオロと二人を交互に、何度も見る。
(どうしよう……これ、ほんとにどうすればいいんだろう……)
二人の間に火花が散っているように見える。まさに一触即発だ。
その時、雪斗が手をぱんぱん、と叩いた。
「はいはいそこまで。座って。全く、本当に話が進まないなぁ……。次席を立ったりしたら地獄の特訓コースが待ってると思って、黙って静かに座って聞け」
にこり。どこか黒い笑顔を浮かべた雪斗を見た恋雪はバツが悪そうに席に戻り、霊亀は恋雪が席に戻ったのを見てから、席に戻った。
ほっとして胸を撫で下ろす。
「異能力者が非異能力者にはないDNAを持っているのは周知の事実になる。覚えていてもいなくてもいい事だけど、一応覚えていてね。さて、話を戻すけど、何故第二次世界大戦終了後なのかはわからない。一説によると、大規模な戦火が原因らしいけど……ほんとに、よくわからない」
「ただ、異能力の発生条件は、解明されつつある」
「何故か?それは、モルモットだった少年少女達が、異能力を発現させた時、こう思っていたから」
雪斗は笑った。黒い笑顔ではなく、寂しそうな笑顔だ。
「これは多分、君もわかるんじゃないかな」
私?少女が呟くと、雪斗は頷いた。
「生きたい。そう強く願った時、異能力は発現される」
白夜さんみたいな例外はいるけどね。
そう言って苦笑する雪斗。
「生きたいという、願い……」
心当たりがあった。あの日、白夜に対して言うよりも前に、少女はそう願っていた気がする。……気がする。
「あ、一応言っとくけど、霊亀は異能力者じゃないから。異能力とは違うモノを持ってるんだ」
「えっ」
異能力じゃないものって何。そんな疑問をくちにする前に、鐘が鳴った。
雪斗が、樹雪と露雪が教えてくれた、スマホ、というものを取り出して、画面に触れると、鐘の音が止まる。
「じゃあ、僕は次の仕事があるので、ここでお開きにするか!はい解散!」
恋雪と霊亀が席を立ち、各々外に出ていく。
(えぇー……私だけ……?私だけなのか……)
この状況に着いていけず、一人取り残された少女の肩に手を置いて、雪斗は部屋を出た。
数分後。少女が心配になって迎えに来た樹雪と露雪に、少女が泣きつくのは、未だ誰も知らない。