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山紫水明  作者: 十ヶ原雪月
プロローグ
5/7

プロローグ 少女と双子と、そして宣言

そういえば。彼女たちはどうして暗がりから出てきたのだろう。

少女は疑問に思い、樹雪と露雪に問いかけた。



「どうして2人は奥に居たんですか?」



きょとん、とした表情を浮かべる樹雪と露雪は、1度顔を見合わせてから、くちを開いた。



「あたしたちはねぇ、ここ、医務室の管理者なんだぁ」

「さっきまでまいた獅雪は、薬品管理室の管理者だよぉ」



なんと。部屋ごとに管理者がいるのか。

驚いて固まっていると、露雪が猫を撫でながら微笑んだ。



「そこまで大した存在じゃないよぉ、部屋の管理者なんて。実際、雪斗に頼らないと運営していけないしぃ」



雪斗。先程までこの部屋にいて、少女に選択肢を提示した、どことなく大人びた少年のことか。

彼は凄い子なんだなぁ。

感心していると、樹雪は溜息をついた。



「まぁ、無理とか無茶とか、そういうのたぁくさんしてるから、お姉ちゃんたちは心配なんだよねぇ」

「獅雪もだよねぇ。すぐ無茶する。妹としては心配だよねぇ」



無理とか無茶。先程の彼等を見ている限りだとそういう感じは見えなかったのだけれど、姉が、妹が言うのならしているのだろう。

(__ん?)



「姉、ってことは、雪斗くんの姉で、妹ってことは、獅雪さんの妹なんですか……?」

「そうだよぉ」

「獅雪の妹で雪斗の姉だよぉ」



間髪入れずに答えられた事実に驚き、そして、呆然とする。



(全然そうは見えなかった……!雪斗くんの姉だろうとは思ってたけど、獅雪さんより年下なんだ!)



くすくす。樹雪と露雪は笑う。

「黒羽兄妹は、10人兄妹だよぉ」

「5男5女なんだぁ」

「8番目は、事情があっていないけど」

「あれは仕方なかったしねぇ」



10人兄妹。獅雪と樹雪、露雪、雪斗以外に6人いるのか。

血が繋がってないとはいえ、多い。それなのに仲が良いらしく、羨ましく思う。



(__でも。なんで、8番目の人だけいないんだろう?)



聞きたいけれど、聞いてしまってはいけないような空気で、躊躇う。

話題を変えようと思い、少女は思い悩む。



(私の記憶のこととか?でも、困らせるだけかも……)



「あぁそうだ。きみの記憶のことだけど……」

「残念ながら、今すぐに戻ることは、ないと思う」



鈍器で頭を殴られたような感覚が、少女を襲った。

記憶が今すぐには戻らない、ということは、自分が誰だか分からないまま過ごすしかない、ということだろう。



何故だが泣きたくなって、少女は俯いた。顔を見られないために。



にゃあ。猫が鳴く。



「泣いてもいいよ」

「きみにはその権利がある」



少女は泣いた。涙を流しながら、大声を出して、泣いた。



どうして。どうして?少女の思考にその言葉が浮かんだ。



(どうして私だったの……?)



こんな思いしたくなかった。こんな思いするくらいなら、あの日死んでいた方がマシだった。



その時。脳裏に、あの日白夜が問いかけてきた言葉がよぎった。



『生きたい?』



(__勿論。私は、生きたくてここにいる)



無理矢理涙を引っ込めて、涙声のまま、宣言した。



「記憶なんて、なくていいです」

樹雪と露雪の目をしっかりと見据える。



「私は、生きたくて、ここにいるから」



少女は宣言した。



これは、物語の序章の序章。物語の始まりの、ほんのさわりの部分。



序章(プロローグ)はまだまだ始まったばかりだ。

プロローグはまだまだ続きます

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