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山紫水明  作者: 十ヶ原雪月
プロローグ
2/7

プロローグ 明神白夜と

雨で濡れて冷たくなった小さな身体を、白夜は抱き抱えた。その身体の軽さに驚きつつ、「ゆっくり休んで」と呟く。



そして、辺りを見渡す。

そこにあった、自分が今から壊すはずの人体実験施設の残骸を一瞥してから、少女の顔を覗く。



(この子が壊した…?でも、この施設、雪斗の調べではかなり頑丈に造られていたはずなのだけれど)



首を傾げるが、考えても無駄だと思い、身体をぐるりと後ろに向けて歩きだそうとした__その時だった。



「白夜さん。どう、って、うわぁなにこれ」



紺色の傘を手に持ち、適当に切ったが故に切り揃えられていない黒髪と、赤と緑の虹彩異色の瞳を持つ少年が目に入る。

彼が〈政府〉の電子書庫にクラッキングして見つけ出した施設が、こうも無惨に崩壊しているとは思ってもいなかっだろう。

自分もよくわかっていない。その意思表示のために、白夜は苦笑を浮かべながら首を傾げた。



「白夜さんだったら焼き尽くすはずだから…その子?」



彼こと、黒羽雪斗が少女に指をさして尋ねる。

多分。白夜は頷く。



「うーん……確かに〈異能力〉を植え付けることは成功してたっぽいけど、そんなはずないんだよな……まあいっか。あ、白夜さんそのまま動かないで。その子がいるとどうなるか、っていう未来を視るから」



雪斗が赤い目の方、右目を瞑ってウインクする。

その後すぐに、雪斗の虹彩異色の瞳がアイスブルーに変わる。



雪斗の〈異能力〉は、名を「未来視」という。

人物と、自分の視たい未来を設定すると、どうなるかという結果が視られる能力だ。

本人は「誇れるものでも、自慢できるものでもない、厄介な〈異能力〉」と言っていたが、白夜自身はそうは思わない。その〈異能力〉で、何回も窮地を脱してきたからだ。



ただ、と白夜は考える。

雪斗自身がその〈異能力〉が欲しかったかと言われると、そんなわけがないのだ。



雪斗は、白夜の腕の中で静かに眠る少女と同様、人体実験でそれを手に入れたのだ。つまり、雪斗にとって〈異能力〉というのは〈政府〉と同じくらい恨んでいるものなのだ。

しかも、雪斗は13歳だ。中学に通っているはずの年齢の少年が、「未来視」の〈異能力〉を持ち、〈政府反対組織〉に所属している。



運命というものがあるのならば、かなり残酷だ。



(でも、雪斗が人体実験されていなければ、僕は雪斗に出逢えなかった)



残酷な運命であれど、白夜にとって雪斗との出逢いは、何よりも大切で大事なものになっている。

そこだけは感謝しよう。



白夜が雪斗の方を見遣ると、アイスブルーから虹彩異色の瞳に戻っていた雪斗は、険しい表情をしていた。



「どうしたの?」

「ん〜、僕達〈白夜のクロニクル〉の悲願を達成するまでは問題ないし、なんならその子がいないと悲願を達成しにくくなるんだけど、その後が問題」



その後?再び白夜は首を傾げる。



「うん。今世界各地で勃発しそうな〈第三次世界大戦〉、それが開戦して、終戦したあと。その子を巡って、新たな火種が生まれそう」



〈第三次世界大戦〉。新たな火種。

物騒だけど、このご時勢では簡単に飛び交う言葉だ。



(でも、この子が火種になる?)



雪斗ははぐらかすだけだから詳細は聞かないが、疑問が残る。



今考えても雪斗ほど頭が良くない白夜には答えが出せないので、後で考えることにする。



「ねえ、白夜さん。貴方には、火種を抱える勇気があるか?」



問いかけられる。

けれど、白夜の中にある答えは一つだけだ。



迷うことなく、白夜はくちを開いた。



「勿論。雪斗と一緒なら、なんでも乗り越えるよ」



その言葉を聞いた雪斗は、恥ずかしさ故か顔を少し赤らめて、目を逸らした。



「まあ、白夜さんならそう言うと思ってましたけど。……さて、帰りましょうか、白夜さん」



まだ雨が止んでいないのに傘を閉じる雪斗に、慌てて白夜の〈異能力〉の使い道からは逸れているものの、人体には感知できない薄い、けれど熱い炎を纏わせる。

先程少女に使ったのとは少し違うものだが、効果自体はさほど変わらないものだ。



「うん。…帰ろう、雪斗」



雪斗は年相応の笑顔を浮かべて、頷いた。

それにつられて、白夜も笑う。

主人公:巽八尋(たつみやひろ)

〈白夜のクロニクル〉ボス:明神白夜(みょうじんびゃくや)

新キャラ:黒羽雪斗(くろばねゆきと)

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