6.歴史の授業を受けた!
「王国の家柄には五つの階級があり、上から順に、第一位第二位第三位第四位第五位となっています。それらはかつて、王国の建国の際にエトシリカ王が家臣たちに与えたものであり、すべての家に与えられているわけではありませんが、エトシリカ王族と関わりの深い家には定められているものです」
火曜日の四限目、歴史。
担任が生徒たちの前に立ち、エトシリカ王国に関する歴史について説明している。
フレアは、エトシリカ王族の一員であることもあって、この国の成り立ちに関する知識はある程度持っている。幼い頃から習ってきたからだ。そのため、授業で説明されている内容もきちんと理解できている。
「確か、リカルドの家は第三位よね」
「そうだな」
歴史の授業は好き嫌いが分かれるようで、きちんと聞いている生徒もいる一方でやる気を喪失している生徒もいた。
ミルフィは二限目の格闘術の時にはりきり過ぎて、今は爆睡中。
カステラはノートを取っているように見せかけて魔術関連の書物を熟読している。
「はい。じゃあ、今日はここまでにしましょう」
担任がそう言った数秒後、四限目終了の鐘が鳴った。
「今日はこの後どうするんだ? 王女」
ノートを鞄にしまっているフレアに、リカルドが尋ねる。
彼はもう片付けを終えていた。
「またその女と遊び回るのか?」
「え? うーん。今日はまだあまり考えていないの」
「邪魔なら離れておくが」
「待って。ミルフィを起こしてみるわ」
ミルフィはテーブルに伏せて眠っていて、授業が終わったことに気づいていない。そんなミルフィの頭頂部を、フレアは手のひらで軽く数回叩いてみる。すると、叩いたのから十秒ほどが経過した後、ミルフィは「もう終わったのぉ?」とあくび交じりに言いながら目覚めた。
「四限目終わったわよ」
フレアは穏やかに現状を伝える。
「まぁ! ホント! 早かったわね」
「凄い寝てたわね」
前の席のフレアに苦笑されたミルフィは、手と手を重ねて背伸びをしながら、話す。
「あたし、座学はあまり得意じゃないのよねー。好きになれないっていうか」
ちょうどそのタイミングで、魔術関連の書物を熟読していたカステラが話に参加してくる。
「ミルフィは前からそんな感じですよねっ!」
カステラは直前まで読んでいた昆布色のハードカバーの本を閉じ、一旦テーブルの上へ置く。フレアはその時、初めてタイトルを視認することができた。ちなみに、そのタイトルは『魔術の変遷』である。
「ほーんとねー。でも、カステラちゃんだって、いつも授業と関係ない本読んでるでしょ?」
「先生には秘密にしていて下さいっ」
「多分バレてると思うわよ? ふふふ」
言ってから、ミルフィは視線をフレアに移す。
「フレアちゃんは偉いわね! 真面目に勉強してて」
「私は魔術も戦闘技能も駄目だもの。せめて、座学ぐらいは、頑張らないと」
学生としての暮らしにフレアはまだ慣れきってはいない。だが、だからこそ真面目に授業を受けられるというところもあるのだ。毎日の授業、それは、皆にとってはありふれたことでも彼女にとっては新鮮なことなのである。
「そうだ、フレアちゃん。明日は一限目がないから、歓迎会、今日にしない?」
「えっ。いきなり?」
「そうそう。夜遅くなっちゃっても、今日なら大丈夫だもの」
ミルフィは軽やかにウインク。
それを隣で聞いていたカステラは「歓迎会! 楽しそうですーっ!」と述べる。
「じゃ、食堂へ行きましょ!」
授業中は当たり前のように眠っていたのに、授業が終わればミルフィは急激に元気になる。退屈な授業が終わったからなのか、よく寝たからなのか、活発になった理由は不明のままだが。
「え、もう行くの? リカルドも行っていい?」
「いいわよ! 今日は特別ね」
ミルフィは元々男嫌いであり、男性ゆえリカルドのこともよく思っていない。が、フレアに頼まれると断りづらいと思う部分もあるらしく。リカルドの歓迎会への参加は、特例として認めた。
「ありがとう。リカルド、ついてきて!」
「……嫌がられてる気しかしねぇ」
その後、ミルフィを先頭にフレアとカステラが続いた。リカルドも一応参加することになったので、女子三人組の後を追うように歩いていく。歓迎会の参加者は、今のところ四人だ。無論、増える可能性もゼロではないわけだが。
食堂内には人はいたが、食事の時間帯ではないので疎らだった。
フレアはミルフィに促され、席に着く。後ろについてきていたリカルドは、さりげなくフレアの横の席に腰を下ろした。
「カステラちゃんも座ってて良いわよー」
「ほぇ!? で、でも、カステラも何かしたいですよーっ?」
赤毛のカステラは戸惑いの大声を発する。
リカルドはこっそり耳を塞ぐアクションをしていた。
「運ぶ途中でひっくり返しそうだから……ごめんだけど、そこにいて?」
「そ、そうですよね! 分かりました! では、ここにいますーっ!」
カステラはリカルドの向かい側の席に座った。
ミルフィは食堂内の受付カウンターの方へと一人歩いていく。
「フレアさん、授業はどうですか? 楽しいですかーっ?」
席に着いたのは三人。だがそれは何とも言えぬ奇妙さのある組み合わせだ。フレアとリカルドの二人なら分かる、フレアとカステラでも分からないことはない。が、フレアとリカルドとカステラというのは、しっくりこない組み合わせだ。
「えぇ。楽しいわ」
「ほぇぇ……王女様が楽しいだなんて……何だか嬉しいですぅ……!」
カステラは両手を両頬に当て、目を閉じながら、肩から上を左右に振る。
喜びの動作か。
「そっ、そうでしたっ! リカルドさんでしたっけ? 少し質問があるんですけど!」
「……俺か?」
「は、はいっ! 噂によれば、剣術がお得意だとか! 本当ですかっ!?」
無垢な笑みを顔に浮かべながら、カステラはリカルドに話しかけていく。
「あの、もし本当なら、カステラに剣術を教えてほしいんですけど……」
「断る」
「ふぇっ!?」
リカルドは眉一つ動かさずに即答。
さすがに即座に断られるとは思っていなかったようで、カステラは涙目になっていた。
それからしばらくして、ミルフィが戻ってくる。彼女の手には、グラスに入ったプリンが二つ。彼女は「フレアちゃーん、カステラちゃーん、お待たせっ」と軽やかに言いながら、グラスを私とカステラの前に置いた。そして、もう一度カウンターの方へと引き返す。そして、また二つのプリンを持ってきた。片方のグラスはリカルドの前に置き、彼女自身はフレアの向かいに座る。
直後、「ほわぁぁぁ! プリン! プリン!」と歓喜の声をあげたのはカステラ。
「今日はあたしの奢りよ! 食べてちょうだい」
「ありがとう、ミルフィ」
「いいのよ。歓迎会、楽しみましょう?」