38.新しい年が来る!
今日は一年の最終日。
あと数時間もすれば、新しい年が始まる。
今年はフレアにとってかなり大きな変化があった年だった。ガーベラ学院に通い始めたからだ。
城での暮らしとはまったく違った暮らしに戸惑いつつも、良い仲間に恵まれたおかげで無事今日を迎えることができた。
「今年ももう終わりね、ミルフィ」
もうすぐ夕方が来るという微妙な時間帯に、フレアはふと思いついてそんなことを言った。
「えぇ、そうねぇ。フレアちゃんの一年はどうだった? 楽しかった?」
「えぇ! ちょっと苦労はしたけど。でも、楽しいこともいっぱいあったわ!」
城の外の世界を見ることができた。学生というものを経験できたし、友人も増えた。
フレアにとって、今年は、とにかく特別な一年となった。
もちろん苦労がなかったわけではない。恐ろしい企みに巻き込まれかけたり、慣れない地で暮らさなくてはならなかったり。そういった大変さがあったことは事実だ。
それでも、ガーベラ学院の生徒となってからの暮らしは充実したもので。
素敵な日々だった。
「ふふ。フレアちゃんがそう言ってると、私も嬉しいわ」
「ミルフィは?」
「そうねぇ……。男たちが暑苦しくて、ちょーっとげんなりしちゃったわ」
それを聞いたフレアは「ミルフィらしい発言だなぁ」と密かに思う。
ミルフィが男性嫌いであることは、出会ってすぐに知った。リカルドのことすら嫌がっていたところから、かなり重度の男性嫌いであるということも察した。そして、男性嫌いだが男性と話せないわけではないということも、共に過ごすうちに分かってきた。
「ミルフィらしい答えね」
「あら? それはどういう意味かしら?」
今日はリカルドはいない。室内にいるのはフレアとミルフィだけだ。そのため、かなり穏やかな時が流れている。男性嫌いのミルフィも、フレアと二人きりなので警戒心を抱かずにいられている。
「変な意味じゃないわ。ただ、ミルフィらしさが出てる発言だなぁって思っただけなの」
「ふふ! ありがと!」
「あれ? 意外と怒ってないのね」
「あらあら。フレアちゃんったら、そんなこと気にしてたの? あたしは可愛い女の子に怒ったりはしないわ。フレアちゃんだって、それは知ってるでしょう?」
もうすぐ新しい年がやって来るという時に怒っていては勿体ない。
特別な一日なのだから、その特別な空気感を楽しまなければ。
「えぇ! 知ってるわ! ……そういえば、年が明けて数日したらまた授業ね」
フレアは話の方向性を強制的に変える。
「そうねぇ」
ミルフィは、視線をやや右斜め上に移し、何かを考えているかのような顔で言った。
「卒業試験もあるし、気は抜けないわ!」
授業が再開するのは、年が明けて数日が経ってから。つまり、授業再開はまだ遠い未来のことなのだ。しかしフレアは、既に、その未来のことを考えていた。まだ一週間以上あるにもかかわらず。
「ふふ。フレアちゃんはやる気ねぇ」
「だって、絶対卒業したいんだもの!」
そう述べるフレアの顔面には決意の色が濃く浮かんでいた。
無事卒業するために努力しよう、という思いがかなり強いのだろう。
「大丈夫よ。フレアちゃんなら落ちないわ」
「……ホント?」
「きっと、ね。というより、座学の成績だとあたしの方が危ないわねぇ」
ミルフィは冗談めかしてそんなことを言う。
それに対し、フレアは苦笑していた。
年が明けた。
王国暦一○一五年が訪れる。
毎年のことだが、年が明けるその夜は人々のテンションが高い。それは、城で多くの時間を過ごしていたフレアでも知っていることだ。
国の未来であるフレアは、街に出て新たな年を祝ったことはない。危害を加えられないようにするためだ。ただ、年明けの時の街の様子を話で聞いたことはあった。城で働く者たちから街の話を聞くことは時折あったから、皆が浮かれ出すということも知っている。
「新しい年ね! おめでとう!」
年が変わるのを今か今かと待っていたフレアは、時計の二本の針が十二に重なるや否や叫んだ。
「ふふ。嬉しそうねぇ」
「……ったく、騒ぎすぎだろ」
ミルフィとリカルドがほぼ同時に言葉を返す。
ちなみに、なぜリカルドが部屋にいるかというと、フレアが連れてきたからだ。
「今年もよろしくね! ミルフィ! リカルド!」
城の外で迎えた初めての新年。フレアは妙なテンションになってしまっている。声は大きいし、動作も派手。全体的に興奮気味だ。
「可愛いフレアちゃんとなら、いくらでも遊ぶわよ!」
「……ふん。ま、よろしく」
ミルフィとリカルドの返事は対照的。ただ、フレアと過ごすことを悪く思っていないという意味では、二人とも似たような心境と言えるかもしれない。
「あーあ。ホント嫌ねぇ、男って」
これみよがしに嫌みを言い放つのはミルフィ。
「……何だ?」
「フレアちゃんにちゃんと向き合わないなんて、失礼ですよー?」
「知るか。関わり方は俺の自由だ」
接し方に口出しされたのが不愉快だったのだろう、リカルドはぷいとそっぽを向く。
口角は下がり気味、眉間にはシワができている。
「ちょっと! フレアちゃんが王女様だって分かってるのかしら?」
今のミルフィとリカルドは、母と反抗期の息子みたいだ。
「……分かってないわけねぇだろ」
「だったらきちんと接して下さいますー?」
「知るか」
「ホント性格悪いわね! 最低っ!」
「年末年始の休みはどうだったカァイ!? 楽しんだカァイ!?」
年明けから数日、授業が再び始まった。
タルタルは妙にハイテンション。いつも独特の勢いとノリを持つ彼だが、今日はまた一段と独創的な話し方になっている。
「家族でティータイムをしました!」
「ナイス! アダール!」
アダルベルトとタルタルは拳を合わせていた。
「ちなみにオレは、嫁と喧嘩しタァ!」
タルタルの発言は意外にも重苦しい内容で、生徒たちは戸惑うことしかできない。元気に相槌を打つのは失礼な気がするし、かといって無言でいるのも申し訳なさがあるしで、生徒たちは反応できない。反応の仕方が分からない、というような顔を、花組の教室内にいる誰もがしていた。
「年の最後の日ニィ! 嫁と掃除で喧嘩になっちまッテェ! 追い出されたゼィ!」
この時ばかりは、さすがのアダルベルトもどう接すれば良いか分からなくなっているようだった。
「結局一人で新しい年を迎えることになッテェ! 一日に謝りに行ったラァ! 居留守されタァ!」




