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3.ルームメイトと知り合った!

 フレアとリカルドは、学院長のタルタルから校内地図を受け取り、学院長室を出た。

 広大な土地を活かして造られた学校なので、路地が妙に多い。複雑な構造になっている。そのため、慣れていない者からするとかなり歩きづらそうだ。


「寮はー……うーん……ねぇリカルド! これどこか分かる?」

「地図を見せてみろ」

「うん! はい、これっ」


 途中までは自力で地図を読んで寮にたどり着こうとしていたフレアだったが、分からなかったらしく、結局リカルドに押し付けた。校内地図を受け取ったリカルドは、紙面を舐めるように目で確認し、「こっちだ」と述べる。彼はフレアと違って地図に強いタイプのようだ。フレアは「そっちだったのね!」と明るく言いもって、リカルドの指示に従い歩き出す。


 やがて、寮にたどり着く。

 二階建ての細長い建物で、壁は石でできている。灰色だ。


「ここみたいだな」

「えぇ、そうね!」

「……分かってるのかよ」

「分かってないわ!」

「……胸張って言うことじゃないだろ、それは」


 二人が寮を見上げながらそんな会話をしていた時、ちょうど、一階の通路から人が出てきた。

 彼女は二人の姿を見かけるや否や「あら?」と声を漏らす。


「あの、もしかしてお二人、花組に入ってこられる方ですか?」


 偶然出会った女性は、美しい金髪を風になびかせながら、尋ねた。


「はい! フレアです!」

「やっぱり……!」


 彼女は大人びた容姿だ。背は高く、胸元もそこそこボリュームがあって、長い金髪をハーフアップにしていた。また、化粧もそれなりに施しているようで、唇や頬が春らしく色づいている。


「フレアさん、あたし多分、ルームメイトです」

「えっ!」


 いきなりの告白に、フレアは驚きの声を漏らしてしまう。


「二階と言われませんでした?」

「言われました!」

「じゃあ、多分そうです。もし良ければ部屋まで案内しますけど……どうです?」

「お願いしますっ」


 これがフレアのルームメイトとの出会いとなった。



 運良くルームメイトとなる人に出会ったフレアは、部屋まで案内してもらった。


「さぁ、着きましたよ」

「ここが……!」


 女性が先頭を歩き、フレアはその半歩ほど後ろを歩いている。そして、リカルドはさらにその後ろを歩いていた。フレアの背を追うように。


「ようこそ! ミルフィルームへ!」


 扉を開け放ち、女性は華やかに告げた。

 露わになったおしゃれな雰囲気の部屋に瞳を輝かせながら、フレアは疑問なところを尋ねる。


「……ミルフィ、とは?」

「あたしの名前です」

「な、なるほど……! ということは、ここがミルフィさんのお部屋……!」


 感心しながらフレアは周囲を見回す。両手を胸の前で合わせ、瞳を震わせている。


 その頃に、リカルドが追い付いてきた。

 彼が一歩室内に踏み込もうとした、刹那。


「待って!」


 ミルフィが鋭く制止の言葉を飛ばす。

 リカルドは驚きつつも足を止めた。


「下。そこの線からこっちに入らないでいただけます? あたし、男の人嫌いなんです」


 突然性別ごと嫌悪感を明らかにされ、リカルドは困惑したように顔面を硬直させる。踏み出した足の裏は、何とかまだ浮いていた。ぎりぎりミルフィの部屋には踏み込んでいない。数秒間があって、リカルドは一歩後退する。


「いきなり滅茶苦茶だな」

「貴方に恨みはありません。でも、だからといって男の人を好意的に捉えるのは無理なんです。理解して下さい」


 既に部屋に入っていたフレアはオロオロ。

 状況が飲み込めず、既に戸惑いの渦に飲み込まれきってしまっていた。


「彼女の荷物はそこに置いて。そうすれば、後から勝手に受け取りますから」


 リカルドは困惑の色を顔面に濃く滲ませながら「ここで良いのか?」と問う。ミルフィは険しい表情のまま頷いた。リカルドはやれやれというような顔つきをしながら、持っていた鞄を床に置く。あと一歩で部屋に入る、という位置に。その後、リカルドがさらに数歩後退すると、ミルフィは、置かれた鞄をそっと手に取った。


「では失礼します」


 荷物を室内へ入れるや否や、ミルフィは扉を閉め始める。


「お、おい! 待て!」

「ごめんなさい。待てません」

「なぜだ!?」

「閉めます。あ、そこにずっと立っているのは止めて下さいね。寒気がしますから」


 扉は閉ざされた。室内にはミルフィとフレアの二人だけ。空間に女子しかいなくなった途端、ミルフィの大人びた顔に柔らかな表情が浮かぶ。


「フレアさん、偶々会えて良かった。お会いできて嬉しいです」

「わ、私もです」


 フレアはいきなりリカルドと別れることになったことに戸惑っていた。


 彼女とリカルドは幼い頃からの友人だ。


 リカルドの実家であるポレア家は王城に出入りすることを許された良き家柄であり、そのため、その息子と王女のフレアが出会ったのも不自然なことではなかった。ポレア家には三人の息子がいたが、フレアと一番歳が近かったのは三男のリカルド。そのため、フレアはリカルドと一番仲良くなった。


 今は王女と護衛という立場ではある。けれども、そこに明確な上下関係があるわけではなく。その関係性は、あくまで形なのだ。


「クラスメイトになるわけですから、敬語は止めてもいいですか?」

「はい!」

「じゃあ、これからは普通に話すわね。呼び方もフレアちゃんに変えちゃうわ」


 ミルフィは許可を取ってから話し方を崩した。


「私は……ミルフィさんと呼べば良いですか?」

「ミルフィで良いわよ。クラスメイトだものー。あと、敬語はナシね」

「う、うん! 分かった。じゃあ普通に話すようにする!」

「ふふ。その方があたしは嬉しいわ」


 王女ではなく一人の少女として誰かと接する——それは、フレアにとって、特別な経験だった。


 フレアは女王となることを約束された身。それゆえ、周囲は彼女を大切なものとして扱う。大人であっても、フレアを乱雑に扱うような者はいない。それは一見良いことのようだけれど。でも、本人からしてみれば、良いことばかりではない。皆から丁重に扱われる、それは、心を開き合って関われる人がいないということに繋がるのだ。


「ところでフレアちゃん、王女様ってホント?」


 ミルフィは散らかったベッドに腰を下ろす。


「えぇ! 本当よ!」

「凄いわね、王女様なんて。こうして話せて光栄だわ」

「ううん! べつに王女だから特別なわけじゃないわ」


 穏やかながら親しみを持って接してくれるミルフィのことを、フレアは気に入ったみたいだ。


「でも、お金持ちでしょ?」


 ミルフィはベッドに置いてあった紺色の手鏡を手に取り、鏡面を覗きながら、確認するように尋ねる。


「確かに、お金はあるわ」

「やっぱり。ふふ。素晴らしいじゃないの」


 笑み交じりなミルフィの言葉に、フレアは俯く。


「……お金があるから幸せってわけでもないの」


 声のトーンの変化に、ミルフィは目を見開く。


「そうなの?」

「私、実はあまり好かれていないから……」

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