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18.合宿の終わりには!

 花組生徒たちだけで行っていた訓練の最中、不審者に襲われたフレア。アダルベルトが駆けつけたため大事にならずに済んだものの、襲われた際の恐怖は消えず、しばらく放心状態に近い心理状態になっていた。リカルドの前では元気そうに振舞っている一方で、彼と少し離れるとぼんやりしてしまっている。そんなフレアを心配そうに見ていたのは、意外にもアダルベルトだった。


 そんな中、特訓合宿は一日目が終了。


 夜は花組の教室で寝る。


 フレアはミルフィとリカルドに挟まれて眠ることにすぐ決まった。が、そのせいで、アダルベルトが一人になるという残念なことになってしまっていて。しかし、気を利かせたフレアがアダルベルトを呼んだので、結局四人で眠るということになった。


 教室は鍵をかけられるようになっているから、防犯面では安心。

 それでもすぐには眠れないかもしれなかったのだが、昼間の活動で疲れていたフレアはすんなり眠りにつくことができた。


 そして、朝が来る。


 二日目はまた走りと体操から始まる。食事は食堂を利用。自然の光を浴びながら体を目覚めさせ、ある程度経ったら特訓開始だ。


 アダルベルトが立てていた計画だと、この日は体術の訓練を行う日。

 だが、それにはリカルドが反対した。無論、彼の反対に深い意味があるわけではなかった。面倒臭いから、ただそれだけである。


 しかしながらミルフィが珍しくやる気になっていて。

 結局、リカルドを除いた者たちは体術に勤しみ、リカルドは剣術の練習を行うことになった。


 一人だけ違う分野の訓練を行うこととなったリカルド。だが、昨日のことがあるため、常にフレアの近くに身を置いておくように心がけていた。その理由は、怪しい輩をフレアに近づけないため、なのだろう。


 そうして訓練を続けるうちに陽は傾き、夕方が訪れる。

 辺りが徐々に暗くなり始めた。


「二日間お疲れ様!」


 特訓合宿の終わりに、アダルベルトは威勢良く言葉を発する。


「今夜はたくさん食べよう! プチパーティーだ!」


 アダルベルトが楽しげに言うと、ミルフィは「男がプチパーティーとか変」と余計な一言を放つ。アダルベルトは一瞬ショックを受けたような顔をしたが、すぐに普段のやる気に満ちた表情に戻り、「行こう! 食堂へ!」と皆を導くような言葉を述べたのだった。



 食堂にはぱらぱらと人の姿がある。夕食時だからだろう。しかし、夏期休暇中であるということもあって、日頃よりかは人の数が少ない。席は半分も埋まっていなかった。


「今日は『花組自主合宿』として小規模なパーティーの準備を頼んである! 楽しもう!」


 アダルベルトは仕事が早かった。

 食堂に、前もって、夕食の用意を頼んでいたのだ。


「ふーん。準備だけは立派ねぇ」


 これには、さすがのミルフィも感心せずにはいられなかったようだ。

 通常男性のことを褒めたりは滅多にしないミルフィだが、珍しく褒める発言をしていた。ただ、発言したのが本人がいないタイミングだったことが、少々残念なのだが。


「どんな食べ物が出てくるのかしらね!」

「あらあら。フレアちゃんったら、楽しみなのね? かわいーい」

「動いたからお腹が空いているの!」

「ふふ。やっぱり可愛いわ」


 ミルフィは片手の手のひらを頬に当て、楽しげに、上半身をくねくねと動かす。

 が、突然真面目な顔になる。


「……あたしね」

「え、えぇ」

「王女様が花組に来るって聞いた時、正直、あまり嬉しくなかったわ。男よりは良いけど。……でも、そんな貴い人が来たらクラスのバランスが崩れるんじゃないかって、心配だったの」


 フレアはミルフィの顔をじっと見つめ、黙って話を聞く。


「でも一目見た時分かったわ! 大丈夫だ、って」

「そうなの?」

「だってフレアちゃん、とっても可愛かったんだもの!」

「あ、ありがとう……」


 その後、フレアたちは夕食を口にした。


 規模は決して大きなものではなかったが、それでも、のんびりと過ごせる時間は楽しいもので。フレアは喋ったり飲んだり食べたりしながら、幸福感のある時間を過ごした。


 リカルドは早く解散したそうな顔。


 ミルフィはというと、途中から段々乗り気になってきていた。

 それは多分、フレアがいたからなのだろう。


「アダルベルトはここを卒業したら働くの?」

「そうだね。バロットの家を継ぐべく勉強するよ」

「何か事業を?」

「土地の管理業務、と言えば簡単かな。我がバロット家はだね、昔から、バロレット地方の土地を管理することを仕事としているのだよ!」


 フレアがアダルベルトと話している間だけは、リカルドもミルフィも渋い物を食べてしまったかのような顔をする。眉間にしわを寄せ、口角を捻り下げて。


「……ミルフィ? リカルド? その顔……どうしたの?」


 二人の表情が奇妙なものになっていることに気づいたフレアは問う。


「いや、何でもねぇ」

「いいえ、何でもないわよ」


 リカルドとミルフィはほぼ同時に答えた。

 表情も、答えも、言い方も。そのすべてが似通っている。ある意味「二人は息がぴったり」と言えるかもしれない。



 夕食会の後、寮の部屋に戻って。


「付き合ってくれてありがとう、ミルフィ」


 ホッとするや否や、フレアはそんなことを言った。

 鏡の前で自分の顔とにらめっこしていたミルフィは、振り返って述べる。


「まぁ! フレアちゃんったら! いいのよ、お礼なんて」


 だが、ミルフィがそう言っても、フレアは謝罪モードのまま。


「でも、あんなことに時間を使ってしまって、ミルフィは嫌だったでしょ?」


 フレアのそんな言葉に、ミルフィは答え方を悩んでいるようだ。右斜め上へ視線を向けつつ、「そうねぇ。暑苦しいのは嫌いよ」と呟く。が、すぐにフレアへ視線を戻して、「でも! フレアちゃんと一緒なら楽しいわよ!」とはっきり言った。


 ミルフィの笑顔を目にして、フレアはようやく安堵したようだ。


「ありがとう、ミルフィ。そう言ってもらえたら……ホッとするわ」

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