14.試験が始まる!
いよいよ前期試験が始まる。
一日目、月曜日は数学と国語。
これはフレアは余裕だった。というのも、城にいた時に既に教わっていた内容がほとんどだからだ。フレアには専属の家庭教師的存在の者がいて、その者に日々徹底的に基礎的な勉強を教え込まれていた。そのため、計算も文章読解も、フレアはお手の物。
しかし、フレア以外の生徒はというと、そこまでの余裕はなかった。
以前ミルフィと険悪になっていた口の悪い男子生徒や水着本好きのハインは基礎的な勉強は得意なようで、試験問題もすらすらと解いていた。
だが、ミルフィは大苦戦。
カステラも、計算があまり得意でないらしく、いざ試験になると悩んでしまっていた。
一方アダルベルトはというと、数学はさらりとこなしていたが、苦手な国語で苦戦。試験勉強はきちんと行なっていたようだが、それでも、スムーズに解答できるほどまでは仕上がらなかったようである。
二日目、火曜日は魔術基礎。
この教科は完全にカステラの一人勝ちだった。
フレアはカステラから色々と教えてもらっていたので、ある程度問題を解くことができた。ミルフィもそれと同じ。だが、カステラからコツを教わっていなかった生徒たちは、かなりの苦戦ぶり。カステラに習ったかどうかが結果の良し悪しを分けたと言っても過言ではないだろう。
三日目、水曜日は歴史。
この教科は、試験の内容が比較的簡単で、そのため花組のほとんどの生徒が無難に乗り切れていた。フレアはもちろん、カステラもアダルベルトも、その他の生徒も。皆、少なくとも六割は点を取れていそうな雰囲気だった。ミルフィと険悪な毒舌男子生徒などは、十五分ほどですべて解き終えていた。
四日目、木曜日は地理。
この頃になると多くの生徒が疲れてきている様子。しかし、フレアは試験というワクワク感に胸を躍らせていた。初めての体験だからこそ、モチベーションを保てていたのだろう。
地理も、歴史と同じで、そこまで難しい試験内容ではなかった。ある程度復習を行なっていれば六七割は点を取れるような内容だったのだ。そのため、生徒の半分くらいかそれ以上が、三十分以内にすべての問題を終わらせていた。
五日目、金曜日は治療基礎と古代文。
この日がさりげなく恐ろしく高い難易度だった。
治療基礎の試験は、文章の穴の部分に語群から選んだ単語を入れるという一見易そうな内容なのだが、問題数が異常に多い。百問以上だ。それを決められた五十分の間に終わらせなくてはならないのだから、素早く解答する能力が必要となってくる。
フレアは懸命にかじりつき、何とかすべての穴を埋めることができた。
しかし、生徒の中には、すべての穴を埋めきれなかった者も多くいた。
そして追い打ちをかけるように襲いかかる古代文。これがまた難しい内容だった。古代に使われていた文章を、現代の文章に直す問題などは、少なくとも八割は理解していなければ解けない。こちらは語群も何もないので、治療基礎よりもタチが悪い。
そうして、一週間にわたる戦いは終結。
夏休みが近づいてくる。
「あー、やーっと終わったぁ」
金曜日、試験を終えるや否や、ミルフィは大きな背伸びをした。
「お疲れ様」
荷物を片付けたフレアは、体をくるりと反転させて、ミルフィの方を向く。
「フレアちゃんはどうだった? できた?」
「そうね……まぁ、それなりかしら」
フレアは事前にかなり手を打っていた。そのため、死にそうなほど出来が悪い教科はない。とはいえ、すべての教科で良い点を取る自信があるわけでもない。
「できたのね! 凄いわ! あたしはもう、ホーントダメ」
ミルフィは両手の手のひらを上へ向けて、首を左右に振る。
「カステラちゃんはどう?」
「えっ! カステラですか!?」
いきなり話を振られたカステラは慌てながらも答える。
「魔術基礎は完璧ですーっ! でも他は……うぅ……」
カステラも全体の出来はそこまで良くなかった様子。
だが、魔術基礎は完璧と言ってのけてしまう辺り、凄い自信である。
「まぁそんな感じよね」
「は、はい! ミルフィさんもですかーっ!?」
「えぇ。もちろん。でも、カステラちゃんが教えてくれた魔術基礎は、まだしも良くできたわよ」
「良かったですーっ!」
土日を挟んで、月曜日。試験返却が行われる。
教室内には緊迫した空気が流れる。なぜなら、皆今から、自信のない自身の解答用紙と向き合わねばならないことになるからだ。
「順に返す。まずは数学と国語から」
教室の一番前に立ち、カッタルは述べる。その手には解答用紙の束。うっすらと赤ペンで何か書かれていることは分かるが、裏からでは、細かい内容までは見えない。
「出席番号順に取りに来るように」
カッタルの指示に従い、名前の順に解答用紙を受け取りに行く。
教室内の空気はまだ安らがない。
「おお! やはり数学は完璧だな!」
最初に解答用紙を受け取ったアダルベルトは、歓喜の声を発する。が、彼がコメントしたのは数学についてだけ。国語の解答用紙は速やかに鞄にしまっていた。見られたくなかったらしい。
「完璧だね。ま、普通だけど」
ミルフィと仲が悪い毒舌男子生徒は、二枚の解答用紙を受け取るや否や、小さく呟いた。
余裕の表情だ。
彼は特に顔面を崩すことなく席へ戻る。そして、二枚の解答用紙をテーブルの上へ置いた。なかなか鞄にしまわない。どうやら、周囲に少し見せびらかしたいようだ。
「百点スゲェな」
「ふん。べつに。普通だよ」
隣の席の男子生徒に言葉をかけられ、毒舌男子生徒は少し嬉しそうにしていた。
「カステラ・パン・ナコッタ、取りに来てくれ」
少しの沈黙の後、カッタルが言った。
名前の順なので明らかにカステラの番なのに、彼女は自分の番だと気づいていなかったようだ。
「は、はひぃ!」
「順番が来ている」
「向かいますーっ!」
カステラは即座に席から立ち上がる。そして駆け出し、見事に転倒した。前向きに倒れ込む、恐るべき豪快な転び方である。手をついて何とかそれは免れたが、あと少し手の動作が遅れていたら顔面を床で打つところだった。
「ぴぇぇ……痛い……」
転んだカステラは立てない。
するとカッタルは、座り込んでいるカステラのところまで歩いていって、紙を手渡した。
「気をつけるように」
「は、はい……」
「解答用紙はこれだ。持って席に帰るように」
「はい……」
カステラは二枚の解答用紙を受け取って席へ戻る。
彼女は、数学は三十八点だが、国語は六十九点でそこまで悪くなかった。