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11.時が動く!

 七月、それは夏の始まり。


 学生にとってはドキドキが連続する月でもある。


 ほとんどの学校がそうだが、ガーベラ学院もまた、七月に前期試験が行われるのだ。

 それが終われば夏休み。学生にとっては楽しみで仕方がない長期休暇が始まる。が、そこへたどり着くためには、考査を乗り切らなくてはならない。


「やぁ! フレア王女!」

「朝から元気ね、アダルベルト」

「あぁ! 今月は前期試験があるが、勉強の調子はどうだね?」


 アダルベルトは爽やかな印象なので、夏が似合う。また、声が常にはきはきしているところも、夏らしい。冬よりも秋よりも、春よりも、彼には夏が似合う。彼は夏の申し子のようである。


「復習もしているし、はかどってるわ。でも、試験とはどういうものかが分からなくて、少し心配ではあるの」


 まだ始業前。教室内は静かだ。生徒数も少ない。


「そうか! 僕が力になろう!」

「本当に? 嬉しいわ」

「よし! 共に学ぼう!」


 フレアは内心「アダルベルトは暑苦しい」と思っている。しかし、彼女もさすがに、それを口にするほど子どもではない。言って良いことと悪いことの判別くらいは、フレアにだってつけられる。


「そうね。じゃあまず、試験というものの仕組みについて教えてもらっていい?」

「なるほど! いきなりそう来たか!」

「何? 私、おかしなこと言っちゃってた?」

「いや! 君の質問が少し意外だっただけだよ!」


 教室の外からは、乾いた羽音が聞こえてくる。セミの音である。

 日差しはますます強まり、フレアがここへ来た頃よりかは気温も十度ほど上がった。今や、外にいたら自然と汗をかくくらいの暑さになってきている。



「今月の末に行われる試験の時間割りを発表しまーす」


 朝の集会にて、担任が前期試験の日程を明らかにした。


 月曜日は数学と国語。無難な組み合わせ。火曜日は魔術基礎。カステラが喜びそう。水曜日は歴史、木曜日は地理と続いて、最終日となる金曜日は治療基礎と古代文。さりげなく内容が難しいのは古代文だ。


「実技教科は授業内で試験に相当するものが実施されるはずでーす。皆さん、良い点数を取れるよう、頑張って下さいねー」



 ある土曜日。


 フレアは試験勉強のために図書館に来ていた。

 同行者は、ミルフィとカステラ。


「んあーっ! もう嫌になるわ!」


 教科書とフレアのノートを交互に見比べ叫ぶのはミルフィ。

 彼女は運動神経が良いので、実技の教科は別段問題なく良い成績を取るだろう。だが、それとは逆に、座学はボロボロだ。現時点では、まともな点数を取れるような状態ではない。


「カステラは魔術基礎ばっちりですーっ!」

「さすがねぇ、カステラちゃん。それに比べあたしったら、ぜーんぜん駄目! ホント嫌になってくる!」


 直後、図書館内では静かにするよう注意が飛んできた。ミルフィが素早く「はーい」と返す。だが、静かにしたからといって物事が良い方向へ進むわけでもない。騒ごうが喚こうが、逆に黙ろうが、状態に変化はない。


「ミルフィ、そのノートを写して勉強するといいわ。きっとできるわ」

「あらー、フレアちゃんたら優しい」


 フレアに励まされたミルフィは、フレアに向けて投げキッス。


「大好きよ」

「ありがとう。でもミルフィ、今はそれより勉強を」

「んもー真面目ね。まぁ、でも、そうよね。頑張って何とかしなくちゃ」


 ガーベラ学院の他学校と違う点は、実技教科が多く存在しているところだ。


 学校で教えられる学問というのは、本来、大抵が座学なものである。一部そうでない教科も存在はするわけだが、実技教科が半分に達している学校というのはほとんどない。


 実技教科が多い、というところがガーベラ学院の特色。

 だが、それは同時に、生徒たちを苦労させる点でもある。


「フレア王女! 花組! いるか!?」


 勉強しに来ている生徒が多くいる図書館内に、突如、声が響いた。


 声の主はアダルベルト。

 しかし、様子がおかしい。落ち着きがなく、しかも青ざめている。どう見ても普段の爽やかな彼ではない。


「アダルベルト! どうかしたの?」


 周囲の生徒たちは、おかしな人を見るような目でアダルベルトを見ていた。しかし、フレアは感じ取った。明らかに平常時の喋り方ではない、と。何かあったのだろう、と。


「良かった! フレア王女、ここにいたのだね!」

「ええ。何か事件?」

「そう! そうなんだ! 担任が……!」


 アダルベルトは色々なことを一気に言おうとしている。だが、一気に大量の言葉を放とうとするあまり、混乱してしまっていた。話そうとしてはいるのだが、絡まってしまっているようで、上手く口から言葉が出てこない。


「……担任?」

「そう! 暗殺されたと!」


 図書館内に広がるのは「何の妄想だ、それは」というような冷ややかな空気。しかし、フレアにはアダルベルトが嘘をついているとは思えなかった。とはいえ、ミルフィたちにいきなり「担任が暗殺されたらしい」と言うのは難しく。フレアがいろんな意味で悩んでいると、ミルフィとカステラが歩み寄ってきた。


「ちょっと、何の騒ぎなの?」

「カステラにも聞かせて下さいーっ!」



 その日の午後、花組生徒は教室に呼び出された。

 呼び出し主は学院長のタルタル。


「今日は皆に残念なお知らせがあるんだヨゥ」


 両端をしわで挟まれた口が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「花組担任が、今朝、何者かに殺害されているのが発見された。犯人は不明。ただ、一人でいるところを襲われたようだヨゥ」


 タルタルが告げると、動揺が広がる。


 話を聞くなり混乱の渦に巻き込まれたカステラは、「ほぇぇ……! これは一体何が……!?」などと言って泣き出しそうになっていた。

 ハインは水着の女性の写真集を手にしたまま、眉間にしわを寄せて「事件ぞよ」と呟く。独り言のように。

 フレアは信じられない思いでタルタルの顔を見つめる。彼女自身は、担任とはそこまで交流はなかったが、それでも教師と生徒だ。交流が多くはなかったにしても、担任が命を落としたと聞けば衝撃は受ける。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『11.時が動く!』まで拝読しました。 フレアも大分ガーベラ学院での生活に慣れてきたようで、ショッピングに出かけたりと楽しそうですね(^^) そんな中、いきなり雲行きが怪しくなってきまし…
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