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10.友人とのお出掛け!

 そして訪れた週末。

 約束通り、フレアはミルフィと共に近くの街へ出掛けることになった。


 私服を着ての外出。学校生活中は常に制服なので、私服での活動はある意味新鮮である。フレアは水色のワンピースを着た。


「フレアちゃんったら、私服も素敵ね!」

「そ、そうかしら」

「えぇ! そうよ! ホーント可愛いわ」

「ありがとう」


 街までの移動は馬車。

 ガーベラ学院は街より少し山手にあるので、一番近い街へ行くにしても多少時間がかかってしまう。


「私、友達と出掛けるのって初めてかもしれないわ」


 学院での生活は、そのほとんどが、フレアにとっては初めての体験だ。

 授業も、寮での生活も、休日も。

 けれども、友達との外出というのは、特に大きな体験である。


「王女様、だものね!」

「えぇ。リカルドが言っていたわ『今回だけだ!』って。でも、何度だって私は行くつもりよ」


 フレアはイタズラっ子風な笑みを浮かべる。


「ふふふ。彼がついてこなくて良かったわ」


 ミルフィは安堵したように言った。


 彼女とて、物分かりの悪い人間ではない。それゆえ、フレアにとってリカルドがどのような存在なのかは、ある程度理解している。リカルドはフレアの護衛であり、フレアを護らねばならないということだって、理解できていないわけではない。


 でも、それでも、ミルフィは男性を好きにはなれないのだ。


「ここを卒業したら、もうこんな経験はできないかもしれないから」

「あら。寂しいこと言うのね」

「だってそうでしょ? ミルフィ」

「まっさか! また会えるわよ。きっと、きっと……ね」



 街に到着し、馬車を降りると、フレアの視界には無数の人が入り込む。行き来する人々の活気に、彼女は圧倒されるばかり。育ってくる過程で見慣れていないだけに、衝撃は大きく、言葉を失ってしまう。フレアの顔面は硬直してしまっていた。


「あら? どうしたの、フレアちゃん」


 数歩進んで、ミルフィは、フレアがついてきていないことに気づく。


「……あっ。ご、ごめんなさい」

「謝る必要なんてないけれど……大丈夫?」


 ミルフィは大人びた面に柔らかな笑みを浮かべつつ尋ねる。

 それに対して、フレアは何度か大きく頷く。


「えぇ、大丈夫よ。ただ、少し、人の多さに驚いてしまっただけなの」


 フレアは本当のことを述べた。

 一般人からすれば「そんなこと?」と思われることかもしれないが、フレアにとっては、出会うものすべてが新しい。


「あら、可愛い理由」


 ミルフィは口を手で押さえつつ、頬を赤らめた。

 フレアの一般人とは少々違った感覚を好ましく思っているような表情だ。


「これからもっと驚くことになるかもしれないわよ? ふふふ。楽しみにしていて」

「えぇ!」


 二人は手を取り歩き出す。

 道の端には小さな花が揺れていた。



 街に来てフレアが最初に足を踏み入れたのは、雑貨屋さん。ミルフィの行きつけの店である民家の一階をショップに改造したような形の店であり、敷地自体は広くない。が、ミルフィーユのような棚を置いたり壁を使ったりと、商品をたくさん並べられるような工夫が凝らされた店内だ。


「アクセサリー、服、鞄、ぬいぐるみ……本当に色々あるのね」


 初めて目にする世界に、フレアは小さく感嘆の声を漏らした。


「そうよ。ふふ。見てるだけでも楽しいでしょ?」

「えぇ、確かに。でも、みんな買わないのね」


 フレアの言葉に、ミルフィは戸惑いつつ「……どういう質問?」と問う。


「お店は何かを買うために行くところなのに、みんな、買ってはいないわ。見てるだけ。それが不思議だなぁって思ったの」


 それを聞いたミルフィは、腕組みをして、「なるほどねぇ」と頷く。それから二三秒間を空けて、「フレアちゃんはショッピングってものを知らないのねー」と続けた。それに対し、フレアは、「私が間違っているの?」とでも聞きたそうに首を傾げる。


「ショッピングっていうのはね、厳密には、物を買うだけの行為ではないの。特に、あたしとかみたいな年頃の女子からしたらね。いろんな商品を見て回って楽しむのも、一つの楽しみ方なのよ」



 その後、雑貨屋さんを数軒回り、並べられている商品を見た。


 初めは『商品を見るだけの買い物』に戸惑っていたフレアだが、段々それにも慣れて。徐々に、商品を見て回る楽しさに目覚めてきた。棚に置かれている物を見て、それに関する意見を言ったり、そこから話がさらに膨らんだり。そういった買い物の楽しみ方もあるのだと、フレアは学んだ。


「だーいぶ見て回れたわね」

「えぇ!」

「フレアちゃん、体力は大丈夫? ちょっとひと休みしましょっか」

「ひと休みって?」

「お茶するの! どうかしら。どこか喫茶店にでも入って」

「さすがミルフィ! 名案ね!」


 フレアはミルフィに尊敬の眼差しを向ける。

 何事も楽しもうと思ったら詳しい人に教わること、という教訓が正しいものなのだと再確認したフレアだった。



 ミルフィとフレアが立ち寄ったのは、ログハウス風の喫茶店。

 店内には客二三人ほどと店員しかおらず、静かな空気が流れている。


 フレアがミルフィから聞いた話によれば、この店はミルフィの行きつけの店らしい。騒がしくなく、若者も少ないので、過ごしやすいのだとか。


 ミルフィが注文したのは、ミニパンケーキとアイスハーブティー。

 彼女のお気に入り。


 そしてフレアは、ミニフルーツパンケーキとホットハーブティーを頼んだ。


「美味しい……!」


 注文した品は数分で出てきた。フレアは早速ミニフルーツパンケーキへと手を伸ばす。ナイフで切り分け、小さくなったパンケーキをフォークで口の中へ運ぶ。


「美味しいでしょ? ここのパンケーキ。私も好きなの」

「本当! ミルフィの言う通りね!」


 ミニフルーツパンケーキはミニパンケーキより少し値段が高い。そのため、ミルフィはいつも、ミニパンケーキの方を注文している。


「パンケーキがふわふわ!」


 フレアは瞳を輝かせている。

 美味しいものを食べられたことが嬉しくて仕方ないみたいだ。


「気に入ってもらえたみたいで嬉しいわ。ふふ。いい食べっぷりね!」

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