神様のおくりもの
出されたお題を一時間で書くシリーズです。
今回のお題は「世界の終わり」です。
よろしくおねがいします。
あと一歩踏み出せば僕は死ぬことができる。
この世のしがらみから解放される。
パワハラを加える上司も、僕の地位を虎視眈々と狙う同僚も、ヒステリックな彼女も、口うるさい母親だって。
この高くそびえる崖から身を投げ出すことで、すべては終わりを告げる。
「僕の世界はここで終わるんだ。」
そうぼそりとつぶやき、一歩を踏み出す。
落ちる。
冬の凍るように冷たい潮風が僕の肌を叩く。
沈みかけの太陽は今まさに、地表の裏へ隠れようとしている。
あぁ、あと数秒で僕の一生は終わるのか。
常に追い詰められ続け、まともに笑う事すらままならなかった人生。
神頼みをしたことだってある。
愛した彼女や親しいと思っていた友人ですら、誰も僕に手を伸ばしてくれる人はいなかった。身近な人ですら僕を助けてくれなかったんだ。
神様が僕に贈り物なんてあるわけがない。
しかし、僕はふと気づく。おかしい、先ほどから僕と地面の距離が一向に小さくならない。
そうかこれは走馬燈ってやつだ。
これまでの思い出が鮮明によみがえる。一つひとつの思い出をまるでスクリーンで見てるような感覚。まぁ、どれもロクなものじゃないが。
お、これは彼女との最期の会話だ。ハハ、キレてるキレてる。確かこの喧嘩は、テレビの都市伝説番組の内容を語り合ってた時のやつだ。内容は
『12月23日に隕石によって世界が終わる』みたいな陰謀論のしょうもないやつ。よくこんなことで喧嘩ができるもんだ。まるで人ごとのように思う。
いや待てよ。その12月23日って… …。今日じゃないか。
じゃあ、あの太陽だと思っていたやつってまさか…。
あぁ、なるほど。神様ってのもなかなか粋なことをしてくれるもんだ。
僕は静かにほくそ笑む。
それじゃあ神様が用意いてくれたこの特等席で見るとしよう。
僕よりもほんの数瞬速く最期を迎えるこの世界の終わりを。