2話 初イベント
イベント当日は割とすぐに来た。
「お兄ちゃんわかってだけどださいね」
ばっちり衣装を決めているましろは
俺を上から下まで見やって静かにため息をつく。
ださいのは承知だが傷付くなぁ。
「しょうがないだろ、服とかあんまり無いんだから」
「じゃイベント終わったら服買いにいこ」
「いいよ、いかなくて」
イベントに行くために今回は外に出るだけたがら今後外に出れるようになるともわからないから必要ないと考えてしまった。
ましろの言った声優は人生を変える
‥まだ信じられないな。
ましろのうしろをひなのようについて
玄関までいく。
「外に出るの久しぶりでしょ」
「あぁまあな」
少しばかり緊張するな。
ましろがドアを開けると外の空気が一気に体に流れ込む。
あまり良い気分では無い。
「今日は秋葉原で何買おうかな〜?」
そんな俺をよそにましろは楽しげに買い物の計画をたてていた。
兄の久しぶりの外デビュー‥もう少し関心をもってほしい。
案外ましろがいるとスムーズに外に出れるもので
やはり信頼している人が側にいるだけで違うものなのか。
「秋葉原で買い物するのか?」
ゆっくり歩きながらましろに話しかけたりした。
「うん、アニメグッズとか買おうかなって。あ、お兄ちゃんにも良いもの買ってきてあげる」
「ありがとう‥?」
良いものってなんだろうか。
「さてもう少し歩いたら駅だね、お兄ちゃん次は電車乗るよ」
「あぁ、そっか。切符代やるから購入頼む。‥なにそのカード?」
ましろはおしゃれなバックからおもむろに銀色に動物のついたカードを取りだす。
「えーお兄ちゃんSuic◯も知らないの!?」
「どうみてもスイ◯には見えないが‥」
「お兄ちゃん‥若いのにそんなボケ交わさないでよ。いやマジで知らないのか?これはICカード。簡単に言えば切符の代わりになるものね」
「そんなのがあるのか‥」
全く知らなかった‥。
駅に着きましろに切符代を渡し購入してきてもらう。
「ありがとう」
「お兄ちゃんもSuic◯買ったら?」
「必要ないだろ‥」
もしかしたら服よりも俺には必要ないものかもしれない。
駅にはそれはもう人が多くて電車に乗り込むと
更に人が多く
限界を感じ始める。
「あ〜なんか‥やっぱり人多くて気分悪いな」
「何言ってるの!もう少しだから頑張って」
ましろは俺の手を引っ張り電車に乗せ
そのまま俺共々座席に座り込む
「なんとか座れたね」
「あぁ‥」
正直言って帰りたい‥。
ましろにも花さんにも申し訳無いけど花さんは気になってるけど会いたいってほどでは無い。
「そうだお花ちゃんな音楽聴く?」
「聴きたいが、ポータブルプレーヤーある?」
俺は適当に部屋から持ってきた年代物バッグから
お花ちゃんのCDを取りだす。ましろにもらったものだ。
「CD持ってきてたの!むしろ今ポータブルプレーヤーって‥CDそのまま入れて音楽聴くやつ?いまあるの?」
ましろは焦りと恐怖心の顔を見せる。
時代についていけない兄が心配になったのだろう。
「そうなのか‥。いやCDはお守りがわりに持ってきたんだ」
「な、なら良いんだけど。お兄ちゃんにあげたお花ちゃんのCDスマホに取り込んであるからさ」
ましろは手早くスマホを操作し俺にイヤホンを託す。
「ありがとう」
「少しでも気晴らしになれば良いね」
不思議とお花ちゃんの音楽を聴いていると
案外周りは気にならないものだった。
一方スマホとイヤホンを託したましろは
小説らしきものを読んでいた。
(小説も読むんだな‥)
30分ぐらい立ちようやく目的地へと到着したらしくましろが俺の膝を軽く叩く。
「お兄ちゃん着いたよ」
「ああ、着いたのか」
スマホとイヤホンをましろに返す。
「ありがとう」
「なかなか良かったでしょ!」
「うん、良い気晴らしになったよ」
「さていよいよだね‥!」
ましろは何故だが俺よりはりきってる気がする。
「秋葉原ってこんなところなのか‥」
電車を降りたどり着いた秋葉原という街は
至る所にアニメのポスターなどが貼っておりすれ違う人もアニメグッズを身につけた人が多かった。
「そうだけど、まさか引いてる?」
「いや別にそこまででは無いが」
ただ俺の知らない世界が目の前にあって
唖然としてはいる。
「秋葉原のイベントやる店まで一緒に行くけどそこで一旦お別れね。イベント終わったらLIN◯して」
「LIN◯?」
「まさかとは思ったけどそれも知らなかったか‥じゃ電話して」
「わかった」
全く知らない世界を見渡しつつましろと会話をしながらイベント会場までたどり着く。
会場の店は10階建てだった。イベント会場がある他にはアニメグッズを売ってる店らしい。
「でかい店だな‥え〜と確かここの7階だっけ」
「そうそう、エレベーターあるからそれで行けばすぐだよ」
「良かった。階段のぼる自信無かったから」
ましろと別れ勇気を振り絞ってひとり入店しエレベーターがあるらしい店の奥を目指す。
1階は書店らしい‥通りながらチラッと見ると
アニメ雑誌や漫画などが沢山ラインナップされていた。‥こういうのって面白いのかな。
なんとか店の奥までたどり着きエレベーターの前で愕然とする。
「しまった‥エレベーターの使い方わかんない。三角のボタン‥?押せば良いのか」
上下に設置されていた三角のボタンの上側を押すと扉が開かれた。どうやら正解だったらしい。
「え〜と次は7階のボタンを押せばいいのか?」
暗めの空間で7階のボタンを押しエレベーターを起動させた。
いよいよ6階まで上がりもう一方のところで
人が入り込んでくる。
それは幾分かにぎやかな3人組の男の集団で俺は不安に襲われる。
「昨日のアニメみた?」
「みたみたお花ちゃんの声良かったよな」
「逆に悪い時あるか?でも出番少なすぎ」
集団は談笑する。
この人達もお花ちゃん好きなのか‥。
もしかしてと思ったがやはり集団も7階で降りた。
不安だったけど何事も無くて良かったなどと思いつつ少し距離を取りながら降りる。
白い壁で囲まれた殺風景な空間に扉がひとつあり案内係のようなひとがいた。
「当選葉書のご提示お願いしま〜す」
「あ、はい‥」
「OKです、どうぞお入りください」
カバンから葉書を取り出して見せる。案内係によって開けらた扉の向こうには
せまい空間にパイプ椅子が無数ならべられていた。
「当然だと言えばそうなのかもしれないが人も結構いるな‥」
当選葉書に振り分けられた番号10番の席へと着く。申し訳ないくらい前の方だ。
それから数分してイベント開始のアナウンスがされる。
いよいよか‥。
初めに司会の女性が登壇してくる、会場はなぜかこの時点で大盛り上がり。
「え〜毎度お馴染みの大咲さんのプロデューサーの水澄です。今回のイベントはトークショー&握手会です。最後までよろしくお願いいたします。それでは早速ですが大咲さんに登場して頂きましょう!」
「ど〜も!来てくれてありがとうございます〜」
花さんが手を振りながら舞台袖からやって来る。
これが花さん。可愛らしいフリルの服を着こなしている。彼女は動画で見るよりもずっと綺麗だった。何処か儚げな雰囲気もあるな‥。
「いや〜今日は暑いですね。みなさん熱中症には気をつけてくださいね。私は来る前にアイスとかき氷食べて、あと夜に冷えたお酒で熱中症対策します」
会場に笑いが起きる。
「大咲さんそろそろ新曲の話しを‥」
「あ、そうでした。みなさん新曲聴いてくれましたか?ひょうくうのオープニングです。いやあのですね、アフレコの時ももせちゃんが‥」
新曲の話からどんどん脱線していきその後も新曲の話は殆どせずトークが終わる。
プロデューサーさんも観客もそれになれているようであった。
お花さん自由で良いな‥。
「この後は握手会がありますので準備が出来次第席番号順でこちらに並んでください」
という水澄さんの案内から
数分後いよいよして握手会が始められた。
とある男性は
「いま一番何が食べたいですか?」
「あ〜味噌カツですね」
「アイスじゃないんですか?」
「アイスはさっき食べたからもう良いです」
という会話をし
とある女性は
「かわいい、かわいい!ひたすらかわいい」
「ありがとう、おれんじちゃんもかわいいよ。
また来てね」
と会話していた。
みんな楽しそうである。
コミュ力0だし、会話出来ると思って無かったから何も考えて無かった。
何を話すべきか。今日ここに来た経緯いや長すぎるな‥。
「次の方どうぞ」
水澄さんの呼びかけでもう出番が来たことを知る。いよいよ、お花さんと緊張する。
会話は諦めた。
諦めたはずだったが。
「初めましてですよね?来てくれてありがとうございます。お名前はなんで言うんですか?」
お花さんは両手で手を優しくにぎり話しかけてなくれた。近くで見ると尚更かわいいな。
「か、かけるですっ」
「覚えておきますね」
「あ、あのなんで初めてってわかるんですか」
我ながら変なことを聞いてしまったなと少し後悔したが‥
「私が能力者だからですかね?‥なんて」
お花さんは笑顔でそう応えた。
握手会を終えましろに連絡をする。
お花さんの手温かくて柔らかかった。
それにすごく面白くて‥魅力的だなお花さん。
「お兄ちゃん〜どうだった?」
手に大量の袋を抱えたましろが走ってくる。
連絡して間もないのに‥近くにいたのか。
「うん、楽しかったよ」
「だよね、顔がにやけてるもん」
「に、にゃけてない!」
「まぁ、良いんでないですか。お兄ちゃんもこれで脱引きこもりだね!」
「そうでもないが‥」
しかしお花さんのイベントの為ならまた外に出ても良いかな。
1人ではまだ自信が無いのでその場合はまたましろに付き添ってもらうことになるが。
「お兄ちゃんに良いもの買ったから。はい、これ」
オシャレカバンから黒い小さな袋を取り出す。
「ありがとう‥。なんだこの薄っぺらいのは」
まさかSuic◯‥。とりあえずうちに帰ってから開けてみるか。
「その大きい袋は?何か買ったのか」
「あ、あぁフィギュアとかぬいぐるみとかその他いろいろ!」
「そうか」
俺にとっては未知の世界の物らしい‥。
帰宅して
一日の終わりを実感する。久しぶりに楽しかったな。
「今日はありがとう」
夕日が落ちかけるのを背に受けながら玄関先で
ましろに伝える。
「うん、あとで感想たっぷり聞かせてね」
「わかった」
このあと再びお礼を言うことになるとは。
部屋に戻りバッグを適当な場所に置きながらふと
思い出す。
「そう言えばましろからなんかもらったな‥」
置いたばかりのバッグから先程もらった黒い袋を取り出し丁寧に開ける。
「こ、これは‥!」
気持ちを抑えながら夕飯の準備をしている
ましろのもとへと向かった。
「ましろ。お花ちゃんのブロマイドありがとう」