探し求めて、西。
ひとりでは無理だ、人手を貸してほしいとカトリーヌに申し立てたが却下される。
ただでさえ急な気候変化で城中てんやわんや状態、市民対応に今後の対策とうに追われ割ける人員などいない、そもそも魔法なのだから魔法でなんとかしろと冷たくあしらわれて終わった。
この冬を連れてきた魔法使いは西にいる、それもそう遠くはない。
気候を戻す魔法を使った後、再度かけられた冬魔法の気配を覚えている。
小さな国だ、方向は西、西にある魔法を最大限に行使できる場所は三か所。その近辺を当たれば該当することは明確だ。
つまり犯人を上げるのは時間の問題なのである。
「楽勝じゃあないの」
冬用のローブを羽織り、ブーツを引っ張り出して城外門をくぐった。
三つのうち、一つは河。河付近に昨日から籠りこの真冬の夜を過ごすのは効率的ではない、とりあえず今は外してもいいだろう。
二つの一つのうち、一つは儀式用の建物がある。わたしが使う時以外は施錠されており一応管理人も常駐している。そちらから報告が無いことを考えればこちらも一旦、除外していいだろう。
残ったのは一か所。街中にある、変なモニュメントが建っている場所だ。
迷うことなく西方の街へとローブを翻し向かう。
「ちょっと、魔法使いのお嬢さん何がどうなってるのさ」
何度も向かう途中、声をかけられた。
「今日中には戻すので、ご迷惑おかけして申し訳ありません」
そう、今日中に全て解決してしまわねばならないし、可能だろう。
犯人はあまりに国内の地理を知らず、そして安易に魔法を使った。ずさんすぎる手口。
さっさと捕まえて女王陛下へ渡してさえすればまた平和なのんびりとした日常生活に戻れる、楽勝だ。
ただ一つだけ気になる点があった。
魔法である。あの魔法自体が、気になった。最初の冬魔法をいとも簡単にわたしが書き換えられたことだ。
通常、いくつかの流派がある中でよっぽど相性が良くなければ、ああは行かない。もっと苦戦したはず。と、なれば絞られる魔法の流派に所属する人物に絞られてくる。
わたしの使う魔法の流派は少々特殊な部類に入り、使える者は数える程しかいない。論理的な魔法回路の利用ではなく、体感的な、考えるな感じろ的な、流派。それ故に合う者が少ないのだ。気合・根性・運、この三つだけが教え。簡単。しかしおかげで融通が利きやすく慣れれば呼吸をするように魔法を使える。
他の者からこの流派が、天才の流派だと言われるのは何となく理解できた。
「さてと、ここか」
何かの記念に建てられたらしい、センスの悪いモニュメントは街の大通りにある。なぜこんなわけのわからん物を作ったのかは今となっては誰も気にしていない。邪魔だがまあどうでもいい、その程度。
周囲を見渡すと人はほとんで居ない。初めてここまで静かで活気のない、この街を見た。みな寒さで家に閉じこもっている。店も急な天候変化に商売どころではないのだろう。
しかし、一部ここぞとばかりに急遽、冬物を売出す商売根性逞しい者もいた。さすがである。
走ってホットサンド屋に向かおうとしている少女に声をかけた。
「ねえ、この辺りに変な人いなかったかな」
「いた!」
「どんな人か教えてもらえる?」
少女はまっすぐ指さした。わたしを。
「ちーがーうー、ちがう!わたしは変な人じゃない!!!」
「お城のまほーつかいのお姉ちゃんいっつも変なことしてるじゃん」
「変って言わないで、あれは魔法なの、儀式なの、変人設定するのやめて」
「みんな言ってるもん!」
「みんな言ってるの?!」
ショックである。
この国に宮廷魔法使いとして迎えられはや二年。割と国民のみなさまとも交流を深めたつもりであったのに、まさかの変人認識を持たれていたとは。
目頭が熱くなる。今度何か頼まれた際は、絶対にわざと失敗してやろうと心に決めた。心の狭い魔法使いで申し訳ない、女王陛下。
少女と別れ、付近の宿をいくつか当たることにする。
国境から少し距離があるが、旅人や、他の街からの商いでやってくる者がおり、宿があるのだ。とは言っても多くはない。ここ数日で変な人物が宿泊していないか聞き込みをすれば見つかるだろう。
「こんにちは、儲かっていますか」
宿の扉を開け入ると、一階は食堂になっているので店主が奥から顔を出した。
「お、魔法使いのお嬢ちゃん!やらかしたな!」
「わたしじゃあありませんよ、失礼な」
「違ったのか」
「ここ数日、妙な客が宿泊していませんか」
「してる」
「してるんですか……」
ついたため息は白かった。