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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍
7/32

禁軍の四天王

7/28誤字修正しております


「もう…それはそれはっ素敵な告白だったのよぉぉ…」


岩乙女こと、黄 漢岱(男)…漢莉お姉様はさっきから泣き崩れている。瞼腫れちゃうよ?あ、腫れたって気が付かないくらいな鋭い目力をお持ちか…。


物陰から私達のことを隠れて盗み見していたくせに、急に飛び出して来て、私に抱き付いてきた漢莉お姉様は、私と緋劉の交互に抱き付いて泣き崩れていた。あまりに泣き叫ぶから皆が集まって来て、とんでもなく恥ずかしい場面が全員に暴露されることになってしまった。


「ちょっとーこんな所で赤裸々に言う必要性をまったく感じませんけどっ!」


絶対顔が赤くなっていると思うが、反論せずには要られない。まだウグウグ言いながら泣いている岩乙女を蹴り飛ばしたいくらいだ。


緋劉なんて見てみろ!茹でた蛸みたいに真っ赤になっているじゃないかっ!


「まあ、そう言ってやるな。まるで母親みたいに、お前らの事でヤキモキして夜も眠れなかったほど心配していたんだ。これくらい許してやれよ」


なんだかどこかで聞いたことのある、男の庇い合いの台詞ですねっ愁様!


「私的な事であまり口を挟みたくはありませんが…」


キランと眼鏡を光らせて伶 秦我中将が緋劉の方をジッと見ながら口を開いた。


「まだ未成年だということをお忘れなく。節度あるお付き合いをするように、いいですね」


「はい…」


緋劉はまだ耳を赤くしていたが神妙に頷いた。


「ほらっ漢莉ももう泣き止んで?今日はお付き合い一日目ね。初々しい二人のお祝いをしましょうか!」


「やめて下さい!」


梗凪姉様まで浮かれていないか!?何だって言うんだっもう…と思っていると


「失礼、愁釉王はおられますか?」


と壮年のおじ様の声が玄関先から聞こえた。皆で裏庭から玄関先に回ると、声の主であろうおじ様を含む三人の軍人…とお見受けする方々が立っていた。


素早く軍服を目視すると『明歌南(みんかなん)公国』だと分かった。


軍人様三人は膝を突くと叩頭してから話し出した。


「私は明家南公国の南部総督をしております西(ざい)と申します。これは部下の()(りょう)と申します。実は此度は少々厄介なことがおこりまして…是非とも愁釉王に立ち会って頂きたく参上致しました。こちらが大公より賜った文で御座います」


「おお、大義であったな。どれ…」


愁様は文を読み終わった後に文の内容に触れて少し話して下さった。


明歌南の西隣に位置する苅莫羽牟(かるなかはむ)王国から抗議文が送られてきたとのこと。明歌南の大公様とお偉いさま方で慌てて抗議文を確認したとのこと。


「つまり…異形のモノが苅莫羽牟に押し寄せているのは明歌南が異形のモノを()()()苅莫羽牟に押しやっていると言ってきたと言う事か?」


「端的に表現するとそういうことです…」


西総督は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「異形などどうやって押しやるんだ?なあ、秦我は知っているか?」


「棍棒で突けば方向を変えるのではないでしょうか?」


やめてあげてよ、愁様…。伶 秦我中将は真面目なんだよ~冗談も冗談で返せないんだから…。西総督の後ろに控えている陵さんが吹き出した。そして慌てて咳払いをしている。


「しかし難儀なことを言いよるなぁ…どこの国に来るかは異形の気まぐれだろう?そんなに見当違いな文句を言って来るならうちの方に現れた異形を棍棒で突いて苅莫羽牟に送ってやろうかな~」


いやそれもやめてあげてよ…もし棒で突いてうっかり苅莫羽牟に行っちゃってごらんなさいよ…当て擦りどころか、戦争でも仕掛けられたら困るからさ…。愁様は本当に棒で突きそうで怖い…。


「兎に角、事実無根であることを第三国で在られる立場から愁釉王にもご証言頂けたらと…」


と西総督が深々と叩頭されると部下の方も倣って頭を下げられた。


「ああ、成程成程~いいよ!でも一度皇帝陛下にご相談という形で報告させて貰ってからでよいかな?恐らく私の立ち合いの許可は出ると思うが、一応ね」


明歌南の三人は、しばらく港の船に停泊しております。と、告げて帰られた。


愁様は明歌南の大公様の文を懐に仕舞ってから


「じゃあ、燦坂に言って皇帝陛下にお会いして来るかな…」


とか言いながら私をチラッと見てきたので、素早く


「空は飛びません!斬首刑は困ります!」


と言い放った。愁様は頬を膨らませると


「そんな意地悪言うならなぁ、お前たちの婚姻を認めてやらんぞぉ!」


と、どこかの頑固親父のような捨て台詞を吐いて、伶 秦我中将と黄 漢羅少尉に連れられて行ってしまった。


「もうっ何あれ、何あれっ!」


叫ばずにはいられない…気恥ずかしすぎて緋劉の顔も見れない…。婚姻なんてまだ早いっ。まだ早いどころかまだ付き合いの何たるかも分かっていないのに…頭を高速回転させて書物殿でこっそりと見た、男女のアレコレ図鑑を思い出していた。う、う、嘘でしょう?私あんなの出来るの?


「大丈夫よ!愁様が反対されようとも私は味方だから!」


漢莉お姉様に緋劉と一緒に胸の中にむぎゅーっと抱き込められる。お姉様の腕の中で緋劉と目が合う。照れくさそうに笑う緋劉のまあ綺麗なこと…っ目が潰れるわ…おまけに腕の圧迫で内臓も潰れそうだわっ!


その日の夕刻


愁様達は意外な方々をつれてご帰還された。


「きゃあああ!慶琉夏王(けいるかおう)ぅぅ!」


岩乙女の大音量の悲鳴(歓声)にびっくりしたような顔を浮かべたお方を見て、慌てて膝を突いて叩頭した。


慶琉夏王、愁釉王の腹違いのお兄様で第三皇子。愁様に顔は似ておられないけれど、同じ白銀髪の髪色を持つ系統の違う美丈夫様だ。剣の腕前は国一番と謳われるほどで、今は禁軍の大尉総督で在らせられる。


「皆大義だったな。愁から大体は聞いている。それも踏まえて陛下より勅書を賜っている」


皆、息を飲んだ。現皇帝、栢祁羅(はくらぎ)(てい)様からの勅書…。


慶琉夏王と共に来られていた禁軍の護衛、執金吾(しつきんご)の皆様と広間に入って、叩頭して第三、第四皇子様方からのを言葉を待つ。


「栢祁羅帝より勅である。以前より異形のモノの襲来が頻発しており、多数の民が被害にあっている現状を鑑みて、これより丙琶にて第壱特殊遊撃隊のみが行っていた討伐を禁軍より選抜せし者と合同で討伐ないし殲滅の任にあたるよう…との命である。まあ、要するに私達もお手伝いするよ…ということだね」


と、最後は砕けた言葉使いで慶琉夏王は告げられた。


「き、禁軍と…」


私の横で緋劉がゴクリと唾を飲み込んだ。


禁軍…とは現皇帝陛下の命で動く国の精鋭部隊…選ばれし中の更に選ばれし方のみ在籍を許されている部隊である。兎に角、選抜で選ばれる為に常に人数が定まっておらず…その禁軍の頂点に立たれているのが、慶琉夏王様でその下に四天王と呼ばれるものすごく強い四名の方がおられるとか…勿論私のような下っ端には雲の上の人過ぎてお顔どころか、性別年齢不詳の四天王様達なことは確かだ。


実は四天王もその選抜の都度入れ替わっているとか…ないとか。雲の上すぎて実態は全然分からないけど。


「あらっ?じゃあもうコソコソ手伝わなくて済むの?」


「お前はコソコソどころか堂々と愁について行っただろう?」


ん?ん?慶琉夏王と漢莉お姉様(男)の気安い言葉のやり取りに…いやーな予感がする。


すると漢莉お姉様がうふっ♡と笑いながらこちらを見て小首を傾げた。


「改めまして♡禁軍四天王が一人、持国天よ~宜しくね!」


「嘘だろっ…」


緋劉が絶叫して突っ伏した。緋劉の気持ちが良く分かる…。緋劉もちょいちょい「禁軍の四天王ってどんな人達かな?めっちゃ強いらしいし、かっこいいお兄さん達なんだろうな…」なんて妄想していたもんね。


夢破れたね…アレじゃあね…。憧れも霧散するわ。仕方ない…緋劉の代わりに私が言っといてやるよ。


「子供の夢を壊すな!これは独り言です」


岩乙女はまあぁ…と頬に手を当てた。その仕草もやめいっ。


「ほら見ろ。お前の正体を知ったら大概の子供は泣くか落ち込むんだから…」


と慶琉夏王は苦笑いを浮かべている。漢莉持国天様(絶望)は片手を頬に当てたまま


「失礼しちゃうわ!私ぃ真面目に四天王のお仕事してるのよ?」


とか言っている。


そうじゃないよっ!岩乙女の見た目やその他諸々が四天王に憧れる幼気な少年の心をすっぱい気持ちでいっぱいにするんだよ。


私は緋劉の打ちひしがれる背中を撫でながら慰めた。


「緋劉、大丈夫だよ、まだお三人いらっしゃるし、きっと残りのお三方は格好よくてキリッとしている美形のお兄様だよ」


「ちょっとぉぉ、凛華ちゃんひどいわっ!」


「あれ?漢莉お姉様、キリッとした美形の()()()でしたっけ?」


私がそう言うと漢莉お姉様は口の中で何かブツブツ呟きながら


「確かに私は乙女だけどぉ~」


と口を尖らせていた。そのやり取りを見た慶琉夏王が楽しそうに私の顔を覗き込んで来た。


「君は、彩 凛華だね?歴代最高霊力量保持者の…いやぁ漢岱の扱いが上手いね~。あ、そうそう残りの三人だけど確かに三種三様の男前だね。癖は強いけど…」


慶琉夏王の言葉の最後に若干引っ掛かりは感じるけど、美形は身を助ける、美形は七難隠すとも言うしさ!え?言わない?すべての欠点は美形で補えると思うのよね!(個人的主観)


私のその言葉に立ち直ったのか顔を上げた緋劉が慶琉夏王に問うた。


「その…選抜された禁軍の方々には四天王様達も入られているのですか?」


「ああ、そこの漢岱の他にもう一人来るよ。今日は一人で海に出て、例の島を見に行っているはず。武人ではあるけれど、そうだな…凛華の次に霊力が高いヤツかもな。そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」


ええっ!そんなにすごい術士兼武人様なの?ホラホラ、緋劉っ岩乙女のせいで、すっぱい気持ちになったけど…あんたが憧れる格好良いお兄様はまだいるよ!


緋劉を促して、台所で慶琉夏王と護衛のお兄様のお茶の準備をしているとヒョイと誰かが台所に顔を覗かせた。


「俺に憧れてる男の子ってどの子~?」


と言われて振り向くと青みがかった銀髪のスラリと背の高い、格好いいというよりは綺麗なお兄さんがニコニコした笑顔で立っていた。


「きゃあ格好いい!」


思わず叫んでしまったのは許して欲しい…。先程も申しましたが美形は身を助ける、美形は七難隠すですから…。


「うん?あれ?あ!チビちゃんは霊力の底なしちゃんかな~」


チビ…底なしちゃん…間違っていないけど、その呼び名よ…。綺麗なお兄さんはニコニコしながら台所に入って来ると、緊張と興奮からか真っ赤になっている緋劉の前に来た。


「おお?少年、君か~どれどれ?うん、うん!中々良い霊力だ。体はどれどれ~」


と言ってパパパッと緋劉の体を触って行く。岩乙女のねちっこい撫でまわしと違って安心して見ていられる触り方だ。


「うんうん!体も鍛えてるな、身長もまだ伸びそうだ。良い人材だ。宜しく!俺、李 洸兌(りこうえつ)。え~と四天王が一人増長天です」


緋劉はパアッと笑顔になると


「が…斈 緋劉ですっ!十四才です。お会い出来て嬉しいです!」


と、余程嬉しいのか霊力の光を弾き飛ばしながら洸兌様にご挨拶した。


眩しいな~と思って目を細めて緋劉を見ていると、緋劉と私を交互に見た洸兌様は不思議そうな顔で首を捻っていた。


「うん?君達さ…何か、呪術的なものかな?魂まで縛られ…」


洸兌お兄様の言葉を最後まで言わせなかった。私は全力で洸兌様を廊下に引っ張り出すと…ゼイゼイ息を切らしながら


「今のどういう意味ですかぁぁぁ…?」


と綺麗な洸兌様の顔ににじり寄った。洸兌様は何かピーンときたのか若干意地悪な顔をした。


「教えてやってもいいけど…チビは何か秘密を抱えてるのかなぁ~?」


と、ニヤニヤしながら聞いてきた。


しまった…この人も腹黒かな…。呪術がなんなのか気になるので渋々、簡単に自身の事を説明した。


「私は、追憶の落とし人です…。国には黙っています。ひ、緋劉は…その、前世で知り合いです、以上です」


そう説明すると洸兌様は綺麗な顔の表情を引き締めた。


「了解、あいつには内緒だな。端的に言うと呪術を使ってチビと緋劉は結ばれてしまっている。気持ちとかじゃねぇよ?魂がだ。永遠に廻りながら必ず出会う呪いだな」


廻り合う…呪い?


「そんなっ…いつ…そんな呪い…いつかけられたんですか!?」


すると、急に走り逃げた?私を怪しんで緋劉が廊下に出て来た。洸兌様は私の頭をポンッと撫でてから


「今度詳しく霊視してやるよ。んじゃな。緋劉も今度稽古つけてやろうか?」


と、上手く緋劉の意識を私から逸らしてくれた。


稽古と聞いて上機嫌になった緋劉を連れて、こちらに手を振って合図しながら洸兌様は広間に行ってしまった。


ドッと疲れた…。呪いと聞くと気が重くなる。呪いなんていつかけられたんだろう?少なくとも壬 狼緋とすごした緑斗村でそんな怪しげな術をかけられた記憶が無い気がするんだけど…。


お茶の用意を広間に持って行くと、緋劉と何故だか手伝ってくれる洸兌様と三人でお茶を皆様に配った後、洸兌様が「いいっすか?」と手を挙げた。


「申してみよ」


慶琉夏王が促すと、洸兌様は立ち上がり一同をぐるりと見た。


「先程漁師のおっちゃんに沖に船を出してもらって、島があると推測される海域を霊視して来たんっすけど…。薄らとですが国境もしくは領域…と表現する方が適切ですかね、つまり島とこちらとの境界線だと思しき結界の境目が視えました」


「結界!?」


皆の驚きの声が上がった。結界…と言う事は島を見えなくするような特殊結界を張っている…?そんな術あったっけ…?書物殿で読んだ術式の本の内容を頭の中で反芻する。


「神龍語霊術…」


私が呟くと、洸兌様は満足そうに頷いた。


「流石、チビ!そうっすね、恐らくは神龍語で描かれています。恐らくというのは、俺も簡単な神龍語なら読めますがこの結界は複雑で時間かかる…怠い。取り敢えず時間がかかるので帰って来ました」


「あんた根性無いわね」


漢莉お姉様がそう洸兌様に言うと、洸兌様はじろりと漢莉お姉様を睨んだ。


「何だよ?そんなに言うなら、おっさんが視て来いよ!船の上で霊視してると船の揺れで目が回るし…炎天下で暑いんだよ!」


ひえぇ…漢莉お姉様をおっさん呼び…。するとおっさん呼びされた漢莉お姉様はワナワナと震えると


「もうぅ…洸兌ちゃんって顔は綺麗なのに言葉使いが悪いったらないわっ!もうっ嫌な子ね!」


とくねくねしながら反論していた。


一瞬、室内にすっぱい雰囲気が漂った。その雰囲気を、パンッと手を打って慶琉夏王が変えられた。


「よし…まずは今、明歌南から参じている使者と打合せだな」


と言って兄弟皇子様はそそくさと広間を後にした。その後ろを執金吾(きんしつご)の皆様と秦我中将と漢羅少尉が続く。


「そう言えばさ、さっきさ廊下に出てまで洸兌様と何話してたんだよ?」


さて皆出て行ったし…後片付けを~と、茶器を片付けていると緋劉が近づいて来て、不審な顔でそう聞いてきた。しまった忘れていた…どう答えよう…。


「イヤ何さ、チビを霊視したら水難の相が出てたんだよ。ホントは、夕刻までにもう一回船を出して境界線の確認にチビを連れて行きたかったんだけどね~水難と船はまずいだろ?…境界線の結界が解術できたらさ、島に入れるかもって思ってて…何?どうした、緋劉?」


いやあぁ~ちょっと洸兌様っ…話題を逸らすために会話してくれるのは非常に有難いのですが、島に上陸云々は緋劉の探検者魂に火をつけると言いますか…。あれ?梗凪姉様まで洸兌様に近づいてますけど…もしや?


「島に上陸してみたいです!」


綺麗に緋劉と梗凪姉様の声が重なった。


結局、洸兌様の言葉のせいで緋劉と梗凪姉様に押し切られるように、船で沖まで出ることになってしまった。水難の相が出ているならやめておきますよ~と散々逃げていたのに、多分皆の相手をするのが面倒くさいんだろう…洸兌様が


「大丈夫大丈夫~いざとなったら…おっさ…漢さんにおんぶしてもらっておけ!」


とか訳の分からない言い訳をされてしまい、船に乗せられてしまった。もう嫌だ…。


「先程から何度も言いますがっもしうっかり解術でも出来ちゃったらどうしてくれるんですかっ!結界が破れた瞬間に、あの黒い大きな飛翔物体…仮に黒龍様だとすると、襲われたらどうするんですかっ!」


私がそう洸兌様に抗議するも、浮かれた緋劉や梗凪姉様は聞いてもくれない。


「まあ、大丈夫っしょ?俺と漢さんいるしさ、それに黒龍様じゃないんでしょ?俺の推察では異形のモノだと思うけどね」


「空を飛ぶ異形のモノですか?そんなのもいるのでしょうか?」


若干喜んでいる(疑惑)ようにも感じる声音で緋劉が聞いている。


何浮かれているのよっあんたなんて黒龍様に頭からかじられてしまえっ!


やがて「この辺りかな~」と洸兌様が船頭に指示して船は停止した。


「チビ~見てみ、どうだ?視えるか?」


恐々、洸兌様の指し示す海面を視てみる。目を凝らし霊力の質を視て…確かに複雑な神龍語の術式だと分かった。一度霊質が分かるとこの結界の規模も分かる。目で覆っている結界を目視して行くと…とてつもない大きさだ。


「確かに神龍語みたいですね…。しかも大きい結界…封印結界ですね」


「封印結界?チビはそこまで視えるのか?どれどれ?」


洸兌様に術式の視えた範囲を説明する。すると洸兌様は瞬時に術式を組み立て始めた。


「成程、ふんふん、そうか…よしっ。一時的だが結界に穴くらいは開けれそうだな。今回はここまでにしとこうか~。この中に入る為には人員も戦術も組み立てておかねぇとな」


すごい…あんな私の拙い説明で術式理解出来たんだ…。


すると今まで黙って海面を見詰めていた漢莉お姉様が「待って!」と鋭い声を上げた。


「結界が…また島が見え始めたわ…」


皆が見詰める中…結界がゆるゆると動き、例の島が大きく目の前にそびえていた。


「こりゃ…想像していたより大きい島だな…どれ?うっわ…マジ半端なく異形のモノが海岸に居るわ…。あ~あれか?黒龍様…じゃねえな、鳥みてぇだな…ん?うわっこっち来るわ」


何が来るの?とか思っている暇は無かった…黒い大きな飛翔物体が目の前に飛んで来て、私達の眼前でドーンと何かにぶち当たって海面に落ちた。その何かは…物理結界!?術者は洸兌様だ!


「チビッ!お前の防御結界も張っておけ!漢さんいけるか?」


「当たり前でしょ?私を誰だと思っているのよ?」


漢莉お姉様は大鎌をグルッと振り回すと船首に走り出た。グワッ…と水面が盛り上がり、また黒い何かが飛び掛かってきた。


「はっ!」


漢莉お姉様が飛び上がると同時に捕縛術が起動してその黒い鳥?だろうかは空中で停止した。そこへ一閃、

漢莉お姉様の振り抜いた鎌が黒い鳥を両断した。


ものすごい悲鳴のようなものを上げて海中に落ちて行く飛行型の異形のモノを慌てて確認した。


「み、見て下さい!黒い何かが海水に溶けて…嘘っ…大鷲だ…」


黒いブヨブヨしたものが剥がれ落ちていくと…確かに鳥…大鷲だった。と言う事はだ…。まさか?


思わず洸兌様を見る。梗兌様は髪を掻き上げると海面を睨みつけていた。


「他所の人間には内緒にしてくれ。そう…異形のモノの正体は普通の動物…時には人間なんだよ」


「そんなっ…」


「!」


私、緋劉、梗凪姉様の短い悲鳴が上がった。


じゃあ今まで切ってきたのは元動物だったり、人だったってこと?


「この間切った異形のモノを医術師が検死していただろう?一つ分かったことがある。アレは何かの呪術に晒されたものを食べて呪われたと推察された。つまりだ、普通は鳥や獣なんかを呪詛するか?動物を呪うなんてまず無いだろ?じゃあ…呪ったり呪われたり…生き物の中でワザとするのは?」


「人間…」


緋劉がそう呟くと洸兌様は頷いた。


「そう…あの島で誰かが人間を呪詛して呪詛に侵された人間のその血肉を生き物が食べて…そしてその動物や害獣が呪いの連鎖で異形のモノになっている…。先日、水死体が上がっただろ?アレがもしかすると呪詛を受けていた大元の人じゃないかと…今、慎重に検死している。何せ得体の知れない呪術の可能性が高いしな」


なんて大きな呪い…島に大量の異形を発生させてしまうなんて、目に見えない何かが島全体を覆っているようだ。島はまだ隠れずに見えている。まるで、おいでおいで…と誘われているようだ…。

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