龍の国
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体が引っ張られるように宙に浮くと目が回りそうなすごい風圧を顔に感じていたら
「もう着くわよ~」
と、言う漢莉お姉様の声で、え?と思ってよく見ると本当に丙琶の海沿いに降り立っていた。
「ほお~っこれは凄いな!二分刻くらいで着くじゃないか!」
漢羅少尉が感動の声と共に私の体をバシッバシッと叩く。えっと漢羅少尉、骨が折れてしまいます…。
「こ、これは少尉!あの…え?空から…」
丙琶の警吏の方々が漁船の周りにいて、私達に気が付くと驚いたようにこちらに走って来られた。
「愁釉王は後から来られる、で…現状は?」
漢羅少尉が歩き出したので私達もついて行った。
「海を渡る異形のモノを発見した漁師に話を聞いています」
警吏のお兄さんの横に良く日焼けしたおじさんが立っていた。あの人が目撃した人のようだ。
「何度も済まんな、海で目撃した異形のモノと…他にも不審なモノも目撃したそうだが…」
漢羅少尉がそう声かけすると、漁師のおじさんは頭を下げた後、海を見た。
「異形のモノ…なようなでっかい黒い生き物は…多分もう死んでいたと思います…波間に揺られて漂っている感じがしました。それで…何となく目を上げた時に夕日に照らされて…島が見えたんです。」
「島…。丙琶の対岸と言うと…明歌南公国ではあるまいか?」
漢羅少尉がそう聞くと漁師のおじさんが首を横に激しく振った。
「明歌南はもっともっと遠いです…そんな距離じゃないんです。もっと近くで…その島の周りを鳥だかなんだか大きいモノがいっぱい飛んでて…ありゃ間違いないよ…海に沈んだって言われてた『雷慈黒龍国』の黒龍様じゃないか…って」
「雷慈…黒龍…えええっ!?」
私以外にも警吏のお兄さんや漢莉お姉様の驚きの声も上がったのも仕方ないだろう。
龍の名を国名に掲げている国は五国ある。
西の周防白龍国、東の涼炎紫龍国、北の鏡玄銀龍国、そして南の烈騨金龍国…そして今、話に出た雷慈黒龍国の五つだ。
ただこの五つの国はすでに滅んでいる…とされている。歴史書にも数百年前に滅んだとしてどの国も歴史書に名が残るばかりだ。これも先程話に出たが、黒龍国も五百年ほど前に海に沈んだとされている。
「あの空を飛んでいた黒いのは黒龍様が飛んでいたんじゃ…」
「馬鹿を言うな…確かに雷慈は黒龍の一族が治めていたとされているが…」
漢羅少尉が漁師のおじさんを窘めた。
黒龍…そう、龍の名を国名に掲げていた国は龍が代々、国の統治をしていた…とされている。
今は現存する龍はいない。約五百年前に五つの国が滅ぶと同時に姿を消したとされている。
龍…不老長寿で空高く天翔ける生き物。人間にも変化出来てその霊力、知力は人をも軽く凌駕すると言われている。では何故そんな強靭な生き物がこの世から姿を消したのか…。諸説あるが一番有力な説は「この世界に飽きたから」だ。龍は強靭が故に敵はいない、おまけに不老長寿でこの世と時間を持て余していたとされている。
暇つぶしに人間を従えて国を興してみたはいいが、それすらも飽きてしまい、ついにはその国をも滅ぼして…異界の能々壱へ行ってしまったと言われている。そして能々壱から異形のモノをこちらに送り込んで来ては人間に嫌がらせをしている…と。
この嫌がらせ云々は最近、巷で噂の仙人商法で騙されて壺やら数珠を買わされた人達が、偽仙人から吹き込まれた逸話らしい。
なんだかな~。ここにはいない龍にすべての罪を擦り付けているようで気分が悪い。所詮、罪人が騙そうとして話した嘘なのだから信じる方がどうかしている。
でも一定数の無垢な人は信じちゃうんだよな…。今も、本当に島を見たんですっ空を黒いのが飛んでいたんです…と漁師のおじさんは漢羅少尉に必死で訴えている。
「確かにな、雷慈黒龍国は丙琶の近くに存在していたと…歴史書に書いてはあったが…」
漢羅少尉が海を見たので私達もつられて海を見た。真っ黒な海…。島どころか数歩先の様子も暗くて見えない。暗がりから何かが迫って来そうで怖くなって来た。
「何か…いますか…?」
「んぎゃあああ!」
腹の底から叫び声を上げた私の背後に伶 秦我中将の眼鏡が光っていた。
「もうっもう…脅かさないで下さいよっ!」
秦我中将の後ろには愁様と梗凪姉様の姿が見えた。
「愁様、話を聞き出せました」
漢羅少尉が話し出すと皆さん、輪になって話し出したので何となく輪から離れてまた海を見た。こんな海の向こうに龍の国なんてあったの?
すると緋劉が私に向かって歩いて来た。何だろうか?
「なあ、もし島があるならさ…上陸してみたくない?」
おーーい。この坊ちゃんはまた何か言ってますよー。本当に男の子って探検とか秘密基地とか好きだよね?
「あんた洞窟とかに入るのも結構好きなんじゃない?」
「なんで分かるの?」
成程、どうりで緋劉はうちの弟とすぐ仲良くなった訳だ。弟と趣味が一緒…探検冒険が大~好き…。
「あのね、さっきのおじさんも言ってたでしょ?黒い大きな鳥?だかなんだか分からないものが飛来しているって…あんたが鳥に突かれてたって助けてやんないんだから!」
私がそう言うと緋劉は口を尖らせた。
「なんだよ~凛華なら喜んで付き合ってくれると思ったのになあ~」
なんで私までわざわざ鳥に突かれに行かにゃならんのだ!どこかの糞餓鬼と一緒にするな!
「こら~集合!取り敢えず、今晩は丙琶の宿屋で一泊ね。明日、朝一番に船でその島が見えた辺りまで行ってみましょうね。緋劉ちゃんが楽しみにしているその島に上陸もその時の様子で判断しましょ」
漢莉お姉様がそう言って私達を呼んだので急いで近づきながら、はーいと返事をした。
と言う訳で、丙琶に一泊である。
勿論着替えなど持って来ていないし、一泊とは言え海辺の近くの宿屋で寝ずの番と言った感じだ。自然と広間に集まって、私の帰郷の話になった。
「もう夜香虫が綺麗で綺麗で…夜なのに花から花に飛んでいくのが幻想的で…」
何故だか緋劉の独演会場になっていた。絶妙な合の手を入れる漢莉お姉様と梗凪姉様のお蔭で、一晩中緋劉の私の田舎自慢は凄かった。梗凪姉様は頬を染めていた。
「山の上の湖なんて素敵ね!」
「その周りに高山植物の曼夏羅が群生していまして、紫色の花畑になっていました」
「まあ~乙女には堪らない場所ね!」
乙女ね…。漢莉お姉様のきゃ♡みたいな仕草をチラ見しながら、お茶をズズッ…と啜った。
「…で、凛華のお母さんの作っている薬用石鹸がすごく使い心地良くて購入してきました」
と、話の締めに緋劉が言った瞬間、漢莉お姉様と梗凪姉様の顔つきが変わった。
「ちょっと緋劉ちゃん、その石鹸どう良いの?そういえば今日お肌プリプリね?」
「凛華はその石鹸の作り方は知っているの?何がお肌に良いの?」
ぎょわ…今まで自分には関係ないわ…と思って饅頭を食べていたので、ウグウグと饅頭を喉に押し込みながら背中の布袋から、軟膏入れの瓶を取り出した。
「ウグッ…休みの間に母と美容軟膏の研究をしていまして…まだ試作ですが高山植物の『楼露甘』という実が肌に良いと母が…散咲と混ぜてその石鹸にも使っていたのですが…それをこの軟膏にもいれ…」
と、まだ言い掛けていたのに、軟膏の入れ物ごと漢莉お姉様(男)に引っ手繰られた。
「でかしたわ!凛華ちゃんっ…有難く頂戴するわ」
「ちょっと…漢莉っ私にも頂戴よっ」
お姉様達がきゃいきゃい言い出したので、部屋の隅っこで椅子に凭れて寝ているような気がする、愁釉王様達の周りに消音の術を使った。
「今の術…何?」
目ざとく緋劉が聞いてきた。
「私は音消しの術って呼んでる。ホラ摩秀と智凛が朝から騒いで煩い時があるでしょ?もうちょっと寝たいな~て時に自分の周りに術を張って周りの音が聞こえないようにしていたの」
「流石は凛華、便利だ」
えへんっ!私の術は全て生活の知恵から絞り出されているのだ!…ってあれ?これ自慢になるのか?
さてもうそろそろ、夜明けだね~なんて言いながら例の石鹸を緋劉に借りて、顔を洗ってから石鹸を緋劉に返すと、なんと緋劉は呑気にもお姉様方の前で石鹸を見せてしまい、その存在を知られてしまったあげくに今度は緋劉が石鹸を奪われていた。
なんで隠しておかないのかな…。取られる(強奪)のなんか目に見えて分かっていたのにさ…。
「実は母さんに定期的に石鹸と軟膏類は送ってもらえるように手配はしているから、心配すんな」
しょんぼりする緋劉の耳元で私がそう囁くと、緋劉が悪い顔をしてニヤついていた。
朝、例の音消しの術を見た伶 秦我中将から術札を見せなさい…と言われたので、臭い消しと音消しの術札を見せた。熱心に眼鏡を光らせて術札を見ていた秦我中将は、霊術師団に術式を見せたほうがいいと助言してくれた。
「もしかすると新術かもしれませんしね。私もすべての術式を記憶している訳ではありませんので…」
成程…了解です。
その後、緋劉の薬用石鹸は皆の洗顔に使われていた。なんだか愁様がその使い心地をいたくお気に召されたようで「楼柑村だな!すぐに取り寄せよう!」とか叫んでいた。お買い上げありがとうございます。
そして早朝…警吏の方々と遊撃隊の私達と漁師のおじさんと村長さんと役人達の船、三隻で沖へと出航した。波は非常に穏やかだ。異形のモノの姿見えない。
「あ、あれ!」
梗凪姉様が遠見鏡で見ていて何かを発見したようだ。海を漂っていたのは…人の水死体だった。うええ…直視したくない。変わり果てた姿に皆から悲鳴が上がる…。
「変わった服だな…」
緋劉がそう呟いたので警吏の方々が引き上げた水死体を恐る恐る見た。確かに長衣を幾重にも合わせた…敢えて言うなら昔風な装束だ…。女性なのか男性なのかは分からない…。
「明歌南公国の民族衣装かな?」
漢羅少尉が呟くと伶 秦我中将がすぐに否定した。
「いえあそこは年中暑い国ですのでこのような厚着をされているとは思えません」
「雷慈黒龍国…」
愁様の声に皆が息を飲んだ。まさか…とも思う。すると漢莉お姉様が静かに口を開いた。
「滅んでから五百年以上も経つのよ?こんな綺麗な状態で海に流されているなんて有り得ないわ…状態を見ても、死後一週間ってところじゃない?」
また皆息を飲んだ。死後一週間…海の上で一週間前まで生きていた…?
すると別船に乗っていた漁師の人が何かを発見したようだ。皆が指差す方を見る。
「島だ…」
緋劉がポツンと呟いた。朝靄の中、薄らとだが確かに島が見える。かなりの大きさの島だ…。
遠見鏡でその島?を覗いていた梗凪姉様が小さく悲鳴を上げた。
「海岸沿いに…たくさんの異形のモノが…」
「貸せっ」
愁様がそう言うと梗凪姉様は遠見鏡を愁様に渡した。愁様も遠見鏡で確認している。
「確かに…居るな。それに空に黒い…あれは龍ではないな…。」
愁様が秦我中将に遠見鏡を渡していた。漢羅少尉と緋劉は自分の遠見鏡でその様子を見ている。緋劉が貸してくれたので私も遠見鏡で島を見てみた。
沿岸に黒い塊がいくつも居る。動いているものもあれば…死んでいる?のか…固まっているのもいる。空に…確かに大きな鳥だろうか数羽舞っている…。伝承にある姿絵の龍では無いことは確かだ。
あれ?靄が濃くなってきた?遠見鏡を外して肉眼で見てみた。
「朝靄が濃くなってきましたか?」
との警吏のお兄様達の声に船頭が海の上で方向が分からなくなっては…と言い出した時に異変は起こった。
「あ、あれ?無いよ?さっきまであそこに島あったよね?」
緋劉が遠見鏡を覗きながらそう言ったので、船の上でまた皆が島のあった方角を顧みた。朝靄が徐々に晴れてきた…。
そこに先程まであった大きな島が…跡形もなく消えていた…。
暫く皆、唖然として島があった方角を見ていた。そしてその沈黙を破るように愁様が一言言った。
「船をあの島に向けて動かしてくれ」
その声に皆の呪縛が解かれたようだ。船頭はガタガタと震えだして叫んだ。
「こ…黒龍様の…おっお怒りに触れる…」
「そんなものは無いっ!」
漢羅少尉がそう怒鳴ると、他の船員達も口々に呪いが…とか天罰が…とか言い出した。
「壺や数珠でも買っていたのですかね…」
伶 秦我中将が冷ややかに船乗り達に視線を向けている。よし…だったら…。
「あの…私飛んで見て来ます」
「おっ…で…」
「一人はダメだ!」
愁様の言葉を遮るように緋劉が叫んだ。緋劉…不敬じゃないかな?
愁様は不敬な緋劉に怒ったりせずに、緋劉の頭をグリグリと撫でた。
「今日は一旦戻ろう。皆で目撃したのだから幻でも見間違いでも無い…と分かっただけでも収穫だ。この亡くなった御仁の弔いも必要だしな」
緋劉はハッとしたように甲板に寝かされている方に目をやった。愁様は私の方も見て
「凛華の心意気も買ってはやるが、危険が伴う探索を単独で行うのは厳禁だ。よいな?」
と、やんわりと諭された。普段はヘラヘラしているけどこういう時は上官で上に立つ人なんだな…と実感する。
皆で粛々と丙琶に戻った。
知らせを受けた霊術師団と医術師がすでに海岸に待機しており、発見されたご遺体は一度医術師の方々が検体されてから荼毘に付されるらしい。
丙琶から燦坂への帰りは風術を使わずに馬車に乗せてもらった。何となく重苦しい雰囲気が車中に漂う。
自分が見ていた目の前で島が急に消えた…この事実にまだ衝撃を受けている。
「一つ…。仮説が成立しそうですね」
沈黙を破ったのは伶 秦我中将だった。眼鏡をクイッと押し上げて怜悧な視線を私達に向けた。
「今まで異形のモノは能々壱から来るだの…蓬莱から来るだの…荒唐無稽なことが言われていましたが…今日発見された『島』…呼称を付けるなら異形島とでも申しますか…あの異形島から渡って来る…という説も新たに加わりそうですね」
「そうだな…海岸に多数の異形の姿があった…。もしやすると、彼の島から渡って来る…。蓬莱よりは現実的だな、実際複数人が島の姿を目撃している訳だしな」
愁釉王が顎を摩りながらそう言った。そして隣に居た漢莉お姉様が差し出した地図を広げた。皆も一緒にその地図を覗き込んだ。
「漁師の話と私達の目撃した島の距離…恐らく明歌南公国と白弦国との中間辺りに存在するとして…明歌南の方はこの島の存在に気づいているのだろうか…と思ってな」
「そうですね、こちらに被害が出ているなら明歌南にも異形が現れているはず…」
梗凪姉様の呟きに愁様は頷き返して一同をぐるりと見回した。
「一度帰って皇帝陛下にご報告を上げてみる。陛下なら明歌南側の事はご存じのはずだ。もし明歌南側もこの事実を承知しているなら情報を共有出来るしな」
「もし明歌南が知っていたのなら、何故うちに教えてくれなかったのでしょうか?」
と、緋劉が聞くと緋劉の横に座っていた漢羅少尉が緋劉の頭をワシャワシャと撫でた。
「そんなもん答えは簡単だ。島が現れて消えた…とか言ってもお前なら信じるか?明歌南だって確認していても公表は控えるさ、混乱を招くだけだからな」
そうよね、目の前で見ていた私達ですら混乱しているのにそんな不確かな情報を公にしたらそれこそ、呪いだ何だと騒ぎ立てる輩が出て来て益々混乱してしまう。
その日仮眠を取って夕方近くに、皇帝陛下との先議を終えた愁様から詰所で報告を受けていた。
「では明歌南公国も漁師や海岸沿いの村人などから、『島』の目撃情報は上がっていた…と言う訳ですね?」
漢羅少尉に愁様は苦い顔で頷いた。皇帝陛下との話し合い上手く行かなかったのかな…。
「そのようだ、しかも通報があって軍部の者が確認に出向いても見えないことが多かったそうだ。見える、見えないの何か法則でもあるのかもな…。それ故公にはせずに、異形が『アレ』から渡って来るという認識だけは軍部内で共有していた…と言う訳だ。もう二ヶ国同時に確認しているのであれば公に公表して…と、言いたい所だが、危険を顧みず出かける物見雄山が増えても難儀だと皇帝陛下がおっしゃったのでな…。当面は情報は開示しないという結論が出た」
そりゃそうだね、この騒ぎに便乗して、偽仙人達が丙琶に押しかけて浜辺に屋台を出して、壺や数珠でも売り出したら困るものね…。
「と、言う訳でな…異形のモノの発生場所も特定出来たし、この『第壱特殊遊撃部隊』は丙琶に長期逗留して、本格的に異形のモノの対処に当たることになったから~皆、丙琶にお引っ越し準備宜しくね!」
な、何だって?え?え?と思っていると…はい…と梗凪姉様が挙手された。愁様が「はい、梗凪!」と指差した。
「と言う事は、宿屋に住まうということですか?」
「いいや、海沿いにちょうどいい空き家があったのでな!そこを使うことにした。じゃあ、鍵はこれ…はい」
と、言いながら愁様は何故だか私に鍵を渡してくる。んん?どういうこと?
「一番下っ端の凛華と緋劉が掃除しておくこと。それと家事全般は凛華担当。補助は緋劉、以上」
い、以上じゃねえよっ!ちょっと待てよ!私の負担が半端なくないかっ?こんなおっさん共の家事全般を私一人でって可笑しくねぇか!?
…という心の叫びが顔に出ていたのだろう…。愁様は困り顔で小首を傾げた。
「だってぇ~丙琶に女官を連れて行きたいって女官長にお願いしたら、女官ってさ基本、戦闘も出来ない貴族の女性だろ?預かっている子達を危険に晒すなんて無理ですっ!て断られちゃってぇ~だったらうちの隊の中で家事全般出来るの凛華だけなんだもん~私は皇子だしっ筆より重い物持ったこと無いしっ宜しくね♪」
嘘つけよ!普段刀持って振り回してるだろっ!
「凛華、あの私…出来るだけお手伝いするから…」
オロオロした梗凪姉様がそう言ってくれているけど…知ってる、梗凪姉様は非常に不器用だと言う事を…。
「大丈夫♡私も手伝うから♡」
漢莉お姉様がうふっと笑いかけてくれるけど…知ってる、中身は乙女だけど料理は豪快男子飯しか作れないことを…。カッチカチの飯巻きを作ってくれて文字通り歯が立たなくて…茶漬けにして食べたことは悲しい思い出です…。
「…」
黄 漢羅少尉と伶 秦我中将には何も期待はしていない…。
「大丈夫、俺手伝うからさ」
キラキラと眩しい男前微笑で私に微笑みかけてくれる緋劉の手をガシッと握り締めた。
「宜しく頼むよっあんただけが頼りだからさっ…」
緋劉の美しい微笑みを見ながら拳を握り締めている私を、他の面子が生温かい目で見ているなんてこの時は思いもよらなかったのだけれど…。