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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍
4/32

楼柑村の休日


「おおっ…空が綺麗だね!」


「…」


「山の新緑が美しい!」


「…」


さっきから斈 緋劉(がくひりゅう)は無言だ。


え~と只今私と斈 緋劉は私の実家、楼柑村(ろうかんむら)に向けて風術を使って空を飛んで移動しています。


やっぱりこんな風術じゃ怖かったのかな…もう少し飛んで山向こうの村で降りて、そこから馬車移動に切り替えようかな?それでも二日分くらいの時間短縮は出来たし…。頭の中で楼柑村までの地図を描きながら行程を練り直す。


「緋劉…もう少ししたら村があるから、そこで一度降りるね」


「…うん」


こりゃダメだ…。もしかすると船酔いならぬ、空酔い?かもしれない。もう少し急ごう…。風術に霊力を更に籠めた。


恐ろしいほどの沈黙のまま15分刻後、今回の行程の三分の一位に位置する手毬(てまり)村に着いた。


村の少し手前の山の少し開けた所に降りた。


「あ~やれやれ!すごく早く着けたね。村はこっちだよ。ちょっと何かお腹に入れて行こうか?」


緋劉は降りた途端、前かがみになって何だか苦しそうだった…。やっぱり具合悪いのかな…?


「ひ…緋劉…あのね、風術での移動が辛いみたいだしこの村から馬車移動にする?知らないおじさんとかお兄さんとかの乗合馬車になっちゃうけど…」


「風術で大丈夫だ。問題無い」


私の言葉に被せ気味に緋劉が言い切ってきた。若干まだ疲れてるっぽいけど…本人がいいっと言っているんだから、まあいいか…。


「うん、分かった。あ、お弁当作ってきたんだよ~今はこれ食べようか?」


「お前が?」


「今、馬鹿にしたよね?あのね、農家の家の出身舐めんなよ!家事全般完璧にこなせますから~」


そう今日は行程の感じで村に辿り着けないこともあるかもと思い、お弁当と簡易食品を作って持って来たのだ。いざとなれば山で食べ物は確保出来る、元野生児を舐めるなよ!


私は開けた草地の大き目の木の下に敷布を広げると準備してきたお弁当を開けた。お肉の酢揚げ、魚の辛み焼き、野菜の香草炒め、飯巻き、野菜五種の塩漬け、極めつけは甘味だ!渾身の木の実の蒸し饅頭を食べてみろー!


「普通に美味そうだ…」


緋劉は恐る恐る箸をつけて一口食べて、目を丸くした。


「美味いぃ!」


そうだろう、そうだろう!あのやかましい弟と妹を食べたら黙らせることの出来るすんばらしい料理だぞ!


流石は緋劉、高級料理屋さんのご子息らしく料理を食べながら薀蓄(うんちく)を語り、一品一品感想を述べてくれる。いや~喜んでくれたかな?朝、寮の食堂のおばちゃんに頼み込んで作らせてもらった甲斐あったね。


緋劉はものすごくご機嫌になった。男の子は単純だね~食べ物と好きな物あげときゃ、すぐご機嫌になるね。(参照:弟)


「はい、お茶」


「ん?あれ、ちょっと苦いな…何のお茶?」


「酔い止め入れといたから…空酔いも船酔いも一緒よ!」


緋劉は秀麗な顔を(しか)めた。


「酔ってないし…」


「何言ってるの~飛んでる途中も何か苦しそうだったし…降りた途端前かがみ…」


「大丈夫だからっ!一々大きな声で言うなよ…」


またプリッと怒ったね…酔い止めより気付けの薬の方が良かったかな?


その後、緋劉はいつも通りの緋劉に戻っていた。空の上から見ている景色を色々と語り、途中の村に降りて買い食いしたりして、予定より早くその日の夜には楼柑村に到着した。


「わーい、もう着いたよ!一日で来れた~よしっ今度からこの方法で行けるぞ」


私が一人握り拳を固めていると、緋劉は村を見渡している。


「思ってたより大きい村だな」


「また馬鹿にしていたね、村と言ってもそこそこ大き目の集落なの~。あ、うちこっちね」


緋劉をイソイソと実家に案内した。あれ?おおっ薬師のお店って看板上がってる!嘘っ!


「ただいまー!」


扉をゴンゴンと叩いてから、開けた。フワッと夕飯のおかずの懐かしい煮付の匂いがする。


「あー姉ちゃんだ!ほんとに帰って来たー!」


「ねちゃ~かえりー」


(かしま)しい弟、摩秀(ましゅう)と妹、智凛(ちりん)が走って来て抱き付いてきた。


「二人共元気だった~?」


私と弟達の声に台所から母が顔を覗かせた。


「まあ、凛華早かったね。今日燦坂(さんざか)を出るって言ってなかった?一日でどうやって帰って来たの?あら…その人?ああ、あんたの言ってた同じ隊の軍人さんね…男の子だったの?てっきり女の子だと思ったけど…まあいいか、さあさ中にお入りよ。まさか、今日帰ってくるとは思わなくていつものご飯よ~あらやだ?お土産~?まあ!干し肉じゃないか!ありがとね」


怒涛の母親話術である。どこのおばさんも大概これくらいは独り言?なのか相槌を求めているのか?判断の付かない話術を展開はするけれど、うちの母親も中々の強者だった。


父さんなんて、うん…とかああ…くらいしか言葉を挟めないくらいだった。緋劉もあまりの凄さに口を挟めないでいるようだ。あれ?そう言えば…


「父さんは?」


「それがあんたっまさか凛華が今日帰って来るとは思わなくて野菜売りに満縞まで出かけちゃったのよ~。明日には帰ってくると思うからね」


「兄ちゃん…軍人さん?」


「にぃに…だれ?わたし…智凛です。」


緋劉は笑顔になると摩秀と智凛の前に屈んだ。


「初めまして、凛華と同じ軍人の緋劉だよ、宜しくね」


摩秀と智凛はぱーっと笑顔になった。おっ?一緒に遊んでくれそうな活きのいい友達を見つけた笑顔ですね?早速弟妹は緋劉に飛びついた。


父さんはいないけれど、家族で食事…そこに加わった緋劉もあっと言う間に馴染んでいた。燦坂で買って来たお土産を皆に配ったりして今までの仕事の話など、緋劉もよく話し、よく食べて笑っていた。


弟妹達は緋劉にベッタリで一緒に沐浴まで入る!と言い出すほどだった。緋劉一人で子供二人は難しかろう…と言うことで一日交替で緋劉と入ることになった。


ちょっと…姉の私は除け者かい?今日は私と一緒に入ることになった智凛には散々ごねられた…。


摩秀と緋劉が沐浴に入っている間、母さんと薬屋の看板のことを話していた。


「へぇ!じゃあもう母さんも独り立ち?」


「やだよ~そんな大層なものじゃないよっ。村長さんが売れ行きもいいし、片手間でなくて本格的に店としてやってみては?と薦めてくれてね。そしたら~父さんも手伝うからってね。だから裏の畑は自分達用にしておいて、半分は畑で作れる薬草を植えようかって…ほら、蔓花草(まんかそう)とか月菜草(つきなぐさ)とかさ…。今日満縞に父さんは最後の野菜売りに行っているのよ」


「ああ、そっか…そうなんだ。でも、その薬草なら畑で大丈夫だよね。咳止めと頭痛に使うもんね。で、今薬草の在庫は?」


母と二人、薬草入れの戸棚に向かう。うんうん、保存状態も良いね。流石母さんは優秀な弟子ですよ~。


母さんに朱 梗凪(しゅこうな)姉様に教えてもらった都で流行っている美容塗り薬を渡し、二人で塗って確かめてみた。母さんは塗り薬の成分が気になるらしい。


「明日からしばらくは私が山に行って薬草摘みしてくるからね」


沐浴から上がってきた摩秀の体を拭いてあげながらそう言うと母さんはニコニコしながら


「いつまでここに居れるの?」


と聞いてきた。そうだな~。


「余裕を見て十八日くらいかな~」


「そんなに兄ちゃん居てくれるの!ねえ!魚釣り一緒に行ってくれる?」


摩秀が後ろを振り向きながら沐浴場を見たので私もつられて見てしまった。そこに沐浴上がりの色気だかなんだか分からないモノをバンバンに発している水も滴る…斈 緋劉が居た。


ええ、ええとても綺麗な筋肉がついたお体ですね。


「服を着ろ!」


「下は着てるだろ!」


「肌蹴させるな!ここには女性が二人もいるんだよ!」


「どこに…?」


緋劉は真顔で私だけを見ていた。ええぃ…この初恋の破壊野郎めーー!


智凛を沐浴に入れ…まだ興奮しているのか騒ぎまくる摩秀と智凛を寝かしつけ、ソッと裏庭の畑に出た。(うね)には半分だけ野菜が埋まっていて残りは…蔓花草に代わっていた。


「そうか…」


何となく私がいない間に実家を取り巻く環境が変わっていて…知らないことが増えているのに寂しさを感じてしまった。顔を上げると満天の星空だった。昔はよくこの星を見ていたな…。


実はずっと気にしていたことがあった。緋劉…壬 狼緋(じんろうひ)は前世の記憶を持っているかどうか…。


この半年…ずっと緋劉を観察していたが、斈 緋劉には前世の記憶が無いということが分かった。


最近ではもういいや…という気分にもなっていた。壬 狼緋と斈 緋劉は別人だ…重ねて見ることはしなくていい…そう思えるようになってきていた。


「お前のとこの家族、皆優しいな…」


ちょっと脅かさないでよ…。緋劉の存在を完璧に忘れていたわ。


「そうでしょう?自慢の家族だもん」


緋劉は私の横に立って一緒に星空を眺めた。


「無理言ってついて来て悪かったな…」


「別にいいよ~こっちこそ弟達の相手をしてもらえて助かるし、手ごわいでしょう、あいつら?」


緋劉は破顔した。うわっ霊力の粒子がフワワッと空中に飛散する。顔も綺麗だわ…霊力も綺麗だわ…あんた何者よ?あ、前世の友達兼初恋の人だっけ?


「手ごわいけどめっちゃ可愛いな。俺さ、兄弟は兄貴しかいないから下から懐かれるの初めてで…弟っていいな~。明日釣りに連れて行ってくれるんだって、楽しみ!」


ん?兄貴?と思ったけど…本当に緋劉は嬉しそうだ。そう思って野暮な事は聞かないでおいた。彼の霊力もパンパンと明るく弾けて飛び回っているのが視えるしね、楽しい気分に水を差すのは良くないよね。


「まあ、夏の間は…あんたも遊び回って楽しんでくれると私も連れて来た甲斐があったってもんよ!」


私がおどけながらそう答えると緋劉は、口に手を当てると何かもごもごと呟いている。


所々やべぇとか嘘だろ?とか聞こえるけど、どうしたんだろう…。


「さあ、明日も早いからもう寝ましょうよ?寝所が小さいから摩秀達と一緒でごめんなさいだけど…」


そう言って緋劉の背中を押すとフト既視感に襲われた。


ああ…この背中、鍛冶を打つ壬 狼緋のあの背中に似ている…。


「いや~なんか雑魚寝?とか言うのも初めてで、めっちゃ楽しみ」


緋劉の声に我に返った。


おいこら…坊ちゃんよ?田舎の寝所を舐めんなよ?お前の眠る隙間はこーんな細さだぁ。こーんな…。


「嘘でしょう…」


「ここしか空いてないな…」


確かに摩秀と智凛が寝ている寝所の隙間はこーんな細さだった…。いや待てよ?私ら二人なんだけど…。しかも端の方にしか空きが無い…。


緋劉は迷いなくこーんな隙間しか空いてない寝所に滑り込むと


「来いよ…」


と手を伸ばした。な…ななな…何だそれは!?何だと聞かれても私を呼んでいる…としか言われかねない仕草だけれども、なんて破壊力だ!


ここで二の足を踏んでいても仕方ない。ゆっくり…本当に致し方なく、緋劉の横の細ーい隙間に「失礼します…」と呟いて滑り込んだ。何でしょうか…寝所に横になった途端に緋劉さんが私の体を抱え込んでしまいましたけど?なんだか緋劉の体がゴツゴツしているな…男の子だからかな…あ、うちの薬草入りの石鹸の匂いがする。


「緋劉の体からうちの石鹸の匂いするね…」


「!」


緋劉の体が一瞬強張った…。緋劉に抱えられているからか…温かくて段々眠くなる。


「体…ゴツゴツして、硬いね…男の子…」


ここで私は寝落ちしてしまった。緋劉が小さく悲鳴を上げて…「硬くなったのバレたのか?」とか呟いていたのは聞こえていなかった…。


その日から帰るまでの十八日間、緋劉はよく弟妹達と遊んでくれた。釣りに行ったり、山の上の湖に弟妹達を水遊びに連れて行ってくれたり…時には私の薬草摘みを手伝ったり、屋根の補強…裏の畑の作業…夜は夜に咲く特殊な薬草摘みにも付き合ってくれた。


満縞から帰って来た父とも二人でよく語らい、朝から縁台を外に出して碁を打っていることもあった。


そして緋劉と私が燦坂に帰る日


弟妹達は盛大に泣いて緋劉に追い縋っていた。


「にぃちゃぁああん…行っちゃやだぁぁ…」


「にぃに~~うえぇぇん…」


いやいや…あの緋劉さんも涙ぐんでますよね?あのえっと、実姉との別離を放置して、緋劉と抱き合う弟妹達…いやいや…?私、ものすごい疎外感だけど。


「大丈夫、すぐ会えるって正月も帰ってくるし…。」


何だって?今の空耳かな?正月もうちの実家に来る…と聞こえましたが?え?


思わず父母を見ると二人共頷いている。


「いつでも遊びに来てね…って言ったら正月も来ていいか?て聞かれたのよ。勿論よ!て言ったらまあ喜んじゃってね~男前な子には母さんも弱いのよ、うふっ」


うふっ…て何よ?隣の父を見る。父も頷いている。


「緋劉君は碁も強いね…話も楽しいし…いつでも来てくれて構わない」


おいっ!…なんだかスルスル~とうちの家族の了承を取ってしまっていて私の反論する余地が無い。弟妹達は正月に一緒に山の上の湖の氷が張るから公魚釣りに行きたいとかなんとか、それは楽しそうに緋劉と共にはしゃいでいる。


「なんか機嫌悪いの?」


盛大に村人に見送られて楼柑村を出て、しばらく山道を歩いているとそう、緋劉から聞かれた。


ええ、ええ、機嫌も悪くなりますよ!実姉、実娘を差し置いて緋劉!緋劉!とうちの家族が大盛り上がりでしたね!


男前だからか?男前だからなのか!?それですべてが許されてしまうのか!?な状態な訳ですよっ…けっ…。


「勝手に正月も来ることになってるしー」


私がそう言うと緋劉は何故だか少し照れたような顔になった。


「いつでも来てねって言われたもんな~ずっと来るよ…て小母さんに言ったらすごく喜んでくれて…へへっ」


何がへへっ…よ!勝手に決めちゃって…て言うかさ、休暇の度にうちの実家に押しかけるのってどうなのよ?自分の実家の満縞にある來慧亭(らいけいてい)に帰らなくていいわけ?


…とはとても聞けなかった。軍に勤めていたら休みなんてほぼ無い。長期休暇が取れるのは、正直十六才までだ。つまり寮を退寮する年齢になると必然的に自身で休暇を取らない限りは休暇なんて取れない。


その貴重な休みを潰しちゃうなんて…。でも緋劉は心から楽しそうだった。今も霊力が弾むように噴き出している。


取り敢えず村から少し離れたので、ここから飛んで帰りましょうかね…となったのはいいんだけどさ?あれ?


「…ん?早く来いよ」


あれ?何だか行きと立場が逆転になってませんかね?


行きは愚図っている緋劉を私が手を広げて待っていたぐらいのに、帰りは何なの?緋劉が手を広げて私においでおいで…と向けてくる。


んん~?そ、そっか、分かったよ!行きは飛ぶのが怖かったから怖気づいていたけど、もう感覚も掴めたから平気になったんだね。よしよし…。


私はトトッと走り寄ると緋劉の広げた腕の中に飛び込んだ。緋劉は私を抱き込むと何だか更に胸の中に押し付けてくる。


「ちょ…く、苦しいよ」


「ああ…ごめん」


と緋劉は言ったけど、少し拘束が緩まったくらいで、やっぱりグリグリと体を押し付けてくる。


「ん~?ま、いいか…じゃあ飛ぶよ!」


「ああ…」


そして再び空の旅へ二人で飛び出したのだった。


帰りも緋劉はすこぶるご機嫌だった。楼柑村(ろうかんむら)のあそこが良かっただの、あの甘味の店が絶品だっただの、夜の薬草摘みに行った時に見た夜香虫の輝きが忘れられないだの…一人でよく喋っていた。これもまた行きと逆な反応で…本当にどうしたんだろう?


帰りも休憩を挟みつつ、あちこちの村で買い物をして帰った。途中、母さんが持たせてくれたお弁当を小川の(ほとり)で食べて、そして夜に皇宮横の『第壱特殊遊撃隊』の詰所の裏庭に降り立った。


「帰って来たね~」


「お疲れ」


緋劉は地面に降り立つとすぐに体の拘束は外してくれたが、まだ腕を掴んでくるというか手を握ってくる?何なの?


すると、詰所の中から人の声が聞こえて来てヒョイ…と窓から特殊遊撃隊の隊長の愁釉王(しゅうゆうおう)が顔を覗かせた。


「あ~帰ってきた!ちょうど良かったよ。今すごい情報が入ってきたよ。丙琶(へいべ)の沖合で漁をしていた漁師から伝達の術で丙琶に駐留している警吏に連絡がきたんだって~」


私と緋劉は急いで愁様が顔を出している窓の下に移動した。


「海を泳いでいる『異形のモノ』を発見…だって!いや~泳ぐんだね。と言うよりもその異形がやって来た方角に何かあるんだって…。一緒に見に行く?」


「行きます!」


私と緋劉の声が重なった。私達は私服のままで詰所前に移動した。そして集まっている遊撃隊のお姉様とお兄様達に、戻りました!とご挨拶した。


「あら~おかえり。ご実家どうだった?」


漢岱(かんたい)少尉こと、漢莉(かんり)お姉様にムギューッと抱きしめられた。久々で骨が折れそう…。


「は、はい…皆元気でした。緋劉の事も気に入ってくれたようで…」


「正月休みにもまたお邪魔することになりました」


と私の言葉を遮るように緋劉が漢莉お姉様に説明をしている。漢莉お姉様は私と緋劉を交互に見てからニヤニヤと笑い


「なぁに~もう婿入りの話をしてきたのぉ~?」


と、とんでも発言をしてきた。ぎゃああ!?何それ…。


「それもいいで…」


「無い無い無い無いからぁー!」


私の絶叫に近い否定に少し離れた所に居た愁釉王から「夜だから静かにしろ!」と怒られた。


私がジロリと緋劉を睨むと何故だか緋劉も睨んでいた。な、何よ?久々にやるかっ?ああっ?


と、臨戦体勢を取っていた私の背後から


「帰って来た早々で悪いのですが、彩 凛華は風術で何人くらいまでなら運べますか?」


と、伶 秦我(れいしんが)中将が闇夜の中から眼鏡を光らせながらこちらに近づいて来た。


「丙琶ですよね…うん、四~五人くらいなら大丈夫だと思います」


「よしっ!では早速私を運んで…」


「愁様は馬車です」


伶 秦我中将が瞬時に切り返した。早ぇぇ…。愁様は夜に騒ぐな…と言ったくせに自分が一番大きな声を出した。


「どうしてだぁ!私だって空を飛びた…」


「何かあって愁様が落ちた時にどうされるおつもりですか?凛華の首が飛ぶんですよ?」


ひえええっ…例えでなく、皇子の御身に何かがあった時は文字通り斬首刑に…やめて欲しい…。


「連れて行くのは緋劉、漢莉姉様、漢羅少尉でお願いします…」


万が一落っこちても大丈夫なしぶとい面子を希望しておいた。すると朱 梗凪(しゅこうな)少将姉様がええ~!?と声を上げられた。


「私も飛んでみたいわっ緋劉君ばっかりズルい~!」


「姉様、またいずれ…もう少し多人数を運ぶ訓練をしてから姉様をお連れしますので…」


「も~う、絶対よ?」


梗凪姉様の碧色の瞳が潤んでいる、お美しい。はい、練習しますから!


「くそっ仕方ないな…では先陣は任せたっ…」


と言いながら私の周りに岩と緋劉が集まって来たのを、愁様は羨ましげに見つめて来る。愁様は馬車に乗って少しでも早く丙琶に行けっ!


さて、と岩兄弟と緋劉の手を取ろうとして緋劉を見たら、思案顔で私を見ていた。


「凛華、さっき帰りにさ、俺…自分でも風力を使って術の補助?みたいなのをしてたんだ。そうしたら帰り…結構早く帰れたと思わない?」


おおっそう言えば…!


「じゃあ、凛華ちゃんが風術で飛んでいる間も私達も術を使っていたら、いいってことよね?」


「だと思います」


漢莉お姉様に緋劉は頷いた。


「では、凛華風術を頼む」


漢羅少尉、漢莉お姉様、緋劉にの三人に囲まれるようにして真ん中に立つと霊力を集中した。


「では、参ります!」


私の掛け声と共に皆の体がフワリと浮いた。


ちょっとイチャイチャし出しました。

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