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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍
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前世から今世まで好き…じゃなかった!

緩ーいなんちゃって中華設定です。

基本ギャグとエロ寄りなので明るく楽しんで読んで頂けるような作品を目指します。


「おいおい?お嬢ちゃん?ここは軍の採用試験会場だぜ?畑仕事はよそへ行きなよ~」


「そうだぜ~お嬢ちゃんみたいなチビッ子…試験には受かりっこないから早く母ちゃんのとこに帰んなよ!げへへっ」


煩いなぁ…。分かってるよ。でもね、十二才から試験可能だし性別は不問だよ?おじさん達知らないの?私は腰に刺した細身の剣を握りしめた。


私はこの日の為に…ここに来るために、彼に会うために努力を重ねてきたのだから。


そう、彼はここに居る。今も彼の霊力を感じる…。目を閉じれば方角も分かる。実技試験会場の方だ。私はまだ何か言っているおじさん達を無視して試験会場の方へ歩いていった。


私の名前は彩 凛華(さいりんか)今月十二才になりました。


実家はこの国、白弦国(はくげんこく)の主都燦坂(さんざか)から馬車で移動して一週間はかかる山奥の楼柑村(ろうかんむら)という所だ。


両親と弟と妹の五人家族。家の裏の小さい畑で野菜を育てて山を一つ越えた満縞(ましま)州というまあまあ都市部の都の市まで売りに行って生計を立てている。


実は副業でちょっとズルかな…と思いながらも山に入って薬草を採って来ては煎じて薬として村人に販売もしている。村には常駐する医術士がいないし…私の薬は重宝されている。


何回も言うけどこれはズルだと…思う。


だって薬師の知識は前世の記憶だものね…。


私、生まれる前の記憶…つまり前世の記憶持ちです。稀にそういう人はいるらしく『追憶の落とし人』と言われて国から重用されるようだ。


私は国には自身の事を伝えなかった。前世の記憶があって良かったね!とはとても思えないことが前世ではあったし…正直、今も両親には秘密にしている。


秘密にしている分、後ろめたさはあった。国に申告すれば特別給金制度が適応されて一定金額のお金が頂けるのだ。家族は決して裕福では無い…。自分の記憶を穿(ほじく)り返されたくないが為に、今の家族に迷惑をかけているのだ…。


せめて、前世の記憶で金儲けを出来れば…と言う訳で、薬師のお手伝いをしていた経験を生かして製薬作りで小金稼ぎをしていると言う訳だ。


そんな私は前世の記憶で大切に大切にしていることがある。


私の前世の幼少期は悲惨なものだった。物心ついた頃から両親からは食事は一切貰えてなかった。食べ物はその辺に落ちているものをかじるだけだった。


水は雨水を飲み、その辺で寝て…お腹が空いたら山で目に付くものを食べてみて…まるで動物のような生活をしていた。この辺りは話したくないことだらけだ。


とにかく逃げるという概念が無かった。これが普通だと思っていたのだ。


ある日、山で木の実を食べていると、初めて見る親以外の人間と遭遇した。それが後に私の養父兼師匠になる范 理旻(はんりぶん)その人だった。


「お前…幾つだい?」


言葉は母から聞いて覚えていたので范師匠との会話は当初から出来た。


「五つ…」


その時の范師匠の顔ったらなかった…信じられないモノを見たような顔をして私をマジマジと見ていた。私と出会った時の事を後に范師匠はこう言っていた。


「野生の動物の赤ん坊だと思った」


そうだろうな…と当時を思い出してもそう思う。碌な食べ物も食べていないし、ガリガリに痩せていたし服と呼べない何かの布しか体に巻き付けていなかったし…。


そして、人として教育すら受けていなかった私は何の抵抗もせずに、范師匠の着ていた上着に包まれて…そのまま保護された。私を抱えて走りながら范師匠は普通は知らない人について行ったらダメだなんだぞ!とか連れて行った本人が言うのは如何なものか…と思う言葉をずっと言い続けていた。当時の私はそれのどこがいけないのかも分かっていなかった。


范師匠は私を范師匠の自宅に連れて帰って、范師匠の奥さん、范歌楊(かよう)と娘さんの楊那(ような)に私を預けると、その足で村長さん宅に行き事情を説明して村長さんと共に、私の素性を確かめようとした。


私は生まれて初めて温かい食べ物を頂いて、綺麗なお湯で体を清めて貰い…何が何だか分からないままに今住んでいる所と家族などの話をした。まあ五才でちゃんと話せたのかは今でもあやふやだけど、私の不衛生な体と痩せ細り方から大人達は私の生活環境を察してくれたようだ。


村長さんと村の自警団のお兄さん達、范師匠は山一つ向こうの私の自宅…というか不法に住み着いている小屋に踏み込んだらしい。


その時の状況は范師匠も当時を知る村長さんも何も教えてくれなかった。


「お前は知らなくていいことだ」


の一点張りだった。子供の私には聞かせられない状態で…恐らくそこで両親は…。その当時の私はそうなのか…で考えることをやめていた。今考えても仕方ないことだけど…。


もういない人達のことを考えていても仕方ない。私だってやらねばいけないことが、生きて行くために覚えなければいけないことが山積みだった。


それから私は范師匠ので養女になった。芙楊(ふよう)と名付けられた。


師匠の奥さんは『お母さん』と呼んでいた。娘さんは『お姉ちゃん』と呼んでいた。范一家は薬師の仕事をしていた。私も言葉と書き取りと生活習慣を皆から教えてもらいながら家の手伝いをしていた。


楽しかった…初めて楽しいという感覚が分かった。食べ物は美味しい。服が綺麗、可愛い。お姉ちゃんが綺麗で優しい…。それを覚えたての言葉で楊那お姉ちゃんに伝えたら抱き締められながら泣かれた。


私は范一家の元でスクスクと元気に育っていった。


この村は都より少し離れた所にある。緑斗(りょくと)村という。


村の中には食堂もあり、雑貨屋、服屋、なかなか大きな村だった。その村の中にある鍛冶屋の次男の壬 狼緋(じんろうひ)が私の初めて出来た友達だった。


狼緋は生まれつき声が出なかった。でも耳が聞こえるので文字で会話は成り立つ。こちらの言う事は分かるので頷いたり首を振ったりで私とも話せる。文字を覚えようと頑張れたのも狼緋のお蔭だった。


でもって狼緋は優しかった。こんな私にも根気よく遊びに付き合ってくれて、言葉を教えてくれた。狼緋と居るととても楽しくて幸せだった。


「私ね、狼緋と居ると幸せだよ~」


覚えたて言葉でそう狼緋に言うと彼はそれは嬉しそうな顔で微笑んでくれた。今思えば男女の告白と捉えかねない発言だったけれど、当時まだ人間らしい生活に慣れ始めの私にはよく分かっていなかった。


それから狼緋と私は仲良く大人になった。狼緋は成長しても変わらず優しくて私の大事な大事な友達だった。狼緋が鍛冶をしている背中を眺めるのが私の日課になり、そして十五才になったある日…


「師匠~お山に針葉実の葉を摘みに行って来ますね!」


師匠は最近は腰が痛いな~とか言っているので、山奥までの薬草摘みは専ら私の仕事だ。お母さんが竹の皮に包んだ飯巻きと野菜の塩漬けを渡してくれた。楊那姉さんが白磁路(しろじろ)の葉のお茶を水筒に入れてくれた。


「日差しが強くなってきたから、水分はよく取ってね」


楊那姉さんはちょっと体が弱いので山歩きは出来ないので、裏の畑の薬草栽培が主な仕事だ。


姉さんからお茶の水筒を受け取るとタスキ掛けにした皮袋に入れて出発した。


「行って来ますー!」


「気を付けてね」


お母さんの笑顔に手を振り返す。ああ、幸せだな…。この時まではそう思っていた。


山で薬草を摘み、そろそろ休憩しようかな…と思って山裾を見て異変に気が付いた。


狼煙?いえ…火事…!?


私は急いで山を駆け降りた。火事?どこだろう…まさか狼緋の家!?


私は村に近づいた時に錆びた鉄のような匂いを嗅いで咄嗟に草むらに隠れた。刀を持って数人が暴れているのが見える…あれ、野盗だっ!


「きゃあああ!」


悲鳴が聞こえて慌ててそちらを見た!楊那姉さんっ!


私は姉さんに向けて刀を振り下そうとしている野盗に向けて突進した。体ごと野盗にぶち当たって、自分も地面に投げ飛ばされて膝を擦りむいたが構ってはいられない。


「姉さんっ…!」


「…芙楊!」


楊那姉さんを抱き起こして、家に入れると「(かんぬき)を閉めて!」と家内に居る姉さんに怒鳴った。


「芙楊、あなたは…っ!?」


「狼緋の家を見てくる!」


私はそう言うと路地裏から木箱や馬車の隙間に隠れながら、狼緋の家を目指した。


血の匂いが凄い…。狼緋!無事でいて…っ…。狼緋の家の隣の酒屋の酒樽の後ろから狼緋の家、鍛冶屋を覗き込むと誰かが戦っている…?


狼緋のお父さん、親方と狼緋が刀を持って応戦していた。しかし狼緋はすでに片腕を怪我しているようだ。足元もふらついている…。野盗の刀が狼緋に向かって振り上げられた…!


私は迷わなかった…。野盗に突進すると思いっきり体当たりをした。だが、所詮は十五才の女の体の重みだ。野盗は少したたらを踏んだだけで体勢を立て直すと


「何だコラぁ!?おいっ娘…!」


「芙楊っ!」


親方の声が聞こえた時にはもう背中に激痛が走っていた。間近で感じる血の匂い…ああ、私切られたんだ。


「!」


野盗に髪を引っぱられて投げ出されたので、狼緋の顔は見えなかった。


意識が遠くなりかけて、血だらけの狼緋が視界に入って来た。ああ、無事?無事だったのね…。


「!…!」


狼緋は涙と血で顔がぐちゃぐちゃだった。手を伸ばして拭いてあげたいけど、力が入らない。


「私…わ…たし、ね…あな…たの…声聞き…たか…」


私の前世の記憶はここで途切れている。そこで死んだのだろうと思う。今考えてたら無謀で考えなしな行動だった。でも狼緋を害されるなんて絶対嫌だったし、馬鹿な私でも彼を助けることが出来たのだ、と誇らしげな気分にもなったものだ。


私の最後の言葉…


狼緋の声を聞きたかった…。今思えば私は彼に恋をしていたのだろう。私の大切な大切な恋の思い出。


そして何故か今、前世の記憶を持ったまま私は転生してきた。おまけにものすごい霊力持ちとして…。


五才になるとこの白弦国には『霊力測定』の義務がある。つまり国を挙げて高霊力保持者を子供の時から確保しておきたい…という思惑の絡んだ国家事業だ。


こういう山間の田舎には都から役人が来て霊力測定の会が催される。年に一回の恒例行事だ。そこで五才になると初めて出身、生まれ年、性別などを国に報告し、初めて正式な白弦国市民となる訳だ。


私は五才の時の霊力測定で過去最高値を叩き出した。測定に来ていた役人の人達が大慌てしていたのを覚えている。


再度測定する…ということで今度は、満縞州まで出向いて測定した。やっぱり最高値だったらしい。その時にふと…懐かしいような霊力を感じた。


誰だろう…。目を閉じて知人の霊力と照らし合わせてみても違う感じだ。


その時に気が付いた…。前の生では気が付かなかったこの感じ…。胸が高鳴った…。


壬 狼緋だ…。


測定会場を飛び出して外まで霊力を追いかけた。


「都の大路に飛び出すなんて迷子になったらどうするのっ!」


と、すぐに連れ戻されて母親にこっぴどく叱られた。そうだった…まだ五才と半年でしたね。ついうっかり二十才の感覚で動いてました。


その日から私の新しい転生人生に転機が訪れた。


それまでは何故生まれ変わったのだろう…もう一度生き直した所で狼緋はいないし…今の家族も優しくて温かくて大好きだけど、だからと言ってこの生に意味はあるのか?


等々…小難しいことを考えてばかりいた私は新たな目標を見いだせたのだ。


壬 狼緋に会う事、この一点だった。


六才になって色々と周りの環境、世界情勢なども分かってきた。どうやら今は前の転生人生から百五十年ほど経った世界だということ。


恐らくだが前と同じ国に生まれている…ということ。この事から鑑みるに壬 狼緋も転生人であると推察されるということ。


「非常に興味深い事例ではあるわね…」


「どうしたの?凛華?お勉強飽きちゃったかい?」


今日は満縞州の市に野菜を売りに来ていた。都に出た時には父親は書物殿に連れて行ってくれる。書物殿とは国が管理している白弦国民なら誰でも利用可能な書物を借り出し出来る施設だ。


年に五(かん)…定食一回食べれるかな?ぐらいの金額で使用料を払えば何度でも借りられる。


私の楽しみは野菜売りの時に満縞州まで父に連れて来て貰って、店番をしながら借りた本を読むことだった。


「勉強は楽しいよ!」


「そうか、うん」


ふーっ危ない危ない。六才児が小難しい言葉を話していたら怪しまれる…。それでなくとも薬草作りでバレるギリギリの知識を披露しているというのにさ。


私の霊力値を見た国の役人達は、将来は霊術師か軍に就職するように薦めてきた。私は二つ返事でそれを了承した。勿論自分が公役人になれれば家族の家計の助けになるということもあるが、満縞州に勤務出来れば壬 狼緋に会えるのでは…という淡い期待も影響していた。


私は家業を手伝いながら体を鍛え、山で薬草を摘み薬を作り、それはそれは自分で言うのも可笑しいが日々の生活を頑張った。


そして今日…


一次試験は霊力測定から始まる。まず基準値を満たしているかどうかで(ふる)いにかけられ、二次試験は筆記。ここで霊術師か軍人か決められる。


私は軍人を希望し…そして実技試験会場にやって来た。


会場に来て驚いたことがあった。あの壬 狼緋の霊力の彼?がここの会場内に居るということだ。気が逸る…捜しに行きたいけど、試験の時間も迫っているので受付を先に済ませよう。


軍人になりたいのも、満縞州で働きたいのも、彼に会いたいが為だった…声を聞きたい。狼緋の声を聞きたい…どんな声で私の名前を呼んでくれる?声は低いかな?高いかな?


試験会場の中に入ると沢山の厳ついお兄さん達でいっぱいだった。会場の中…そう会場の少し先に壬 狼緋がいる。どうしよう…。受付と書かれた文机の前に居る役人の方に受験票を出して札を受け取る。


「十七番目だから、呼ばれたら実技場で模擬戦だからね」


「はい、宜しくお願いします」


すぐ近くに壬 狼緋が居る。試験も気になるが狼緋も気になる。フラフラしながら実技場に移動した。


沢山人が居て霊力も溢れていて狼緋の居場所が分かり辛い…前の方かな?でかいお兄さんばかりで前が見えない。


「三番、四番前へ」


もう四番の方まで終わっているのか…前に移動しておこうかな…お兄さん達の間の擦り抜けて一番前に移動した。


びっくりした。前に出た途端、すぐ横に壬 狼緋が立っていた。怖くて横が見れない。間違いない彼だ…。何て声をかけようか?


久しぶり?元気?


違うな…こっちは一度殺されてるし元気どころの話ではないし…。


こんな所で会うなんて偶然だね!


偶然どころか…最近巷で問題になっている、憑け回しとかいう犯罪と思われるんじゃないか?


「あんた、試験受けるの?」


色々声かけの練習を心の中でしていると…突然、横から少年のような声が聞こえた。声変わりの終わった少し高めの男の声…ああ、ああ!これが壬 狼緋の声!


「はい…」


思い切って顔を上げた。


漆黒の髪色に濃い青色の瞳。まだあどけない幼さが残る少年がいた。か、かぁ…格好いい…!


壬 狼緋だった。顔は違うけど間違いない。彼が壬 狼緋だ!嬉しくて会いたくて…泣きそうになった。


「あんた、何番?あ…十七番か…俺の相手ね。こんなチビブスの相手しなきゃなんねーの?怠いわ…」


涙も引っ込んだ。


私の前世から跨いで続いてきた淡い初恋が脆くも崩れ去った瞬間だった…。


まだ設定で迷いが生じております^^;

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