吸血姫は復讐を誓う
夜闇に生きる吸血鬼たちの祖にして頂点。
絶大な力を誇る吸血姫――レインフェリア・ブラッド。
彼女は数千年にも渡る深い眠りに就いていた。
ただの眠りではない。その身に宿す魔力をさらに高めるための儀式である。
死にも近いほどの眠りを経てまでさらなる力を求めるのは――来たる戦いに備えてのことだった。
吸血鬼とは血を啜って生きる魔性の存在。どうあがいても人間とは相容れぬ生き物である。
――いずれ人間が吸血鬼を滅ぼそうとする日が来る。
旧き時代より彼女はそう確信していた。
人間は魔力を持たぬ脆弱な存在だが、その数と文明は決して侮れない。
種の滅びを危惧した彼女は、やがて来る決戦に備え永い眠りに就いた。一族の存亡が脅かされたときに最強の存在として目覚め、人間たちの侵攻を食い止める切り札となるために――……
だが。
「おのれ許さんぞ人間どもっ! よくも妾の! 妾のかわいい眷属たちを滅ぼしてくれたなぁっ!」
人の立ち入れぬ深い森の奥。
数千年ぶりに眠りから目覚めたレインフェリア――レインは、土の中から這い出しつつ、裸身のまま慟哭していた。
涙の理由はただ一つ。
目覚めたとき、この世界から眷属たる吸血鬼たちの気配が一体たりともなくなっていたためである。
「人間どもめ……どうやってこの妾の魔法を謀ってくれたというのだ……?」
レインは悔悟の涙を流しながら地面を殴りつける。
一族に人間の脅威が及べば、眠りの途中でも目覚めるように魔法をかけていた。だがそれは発揮されず、今こうして目覚めたのは魔力がその身の上限に達したからだ。
「すまぬ……眷属たちが苦しんでいる間、妾は呑気に眠っているだけで何もできなかった……許せ……許してくれ……」
吸血鬼は病を得ることはない。
死ぬのは他者から殺されるか、寿命を迎えたときだけだ。
寿命で死ぬとしても人間よりはずっと長寿だし、吸血鬼どうしで結婚して子を成すことも多い。
眷属の初代はレインの影から生まれた分身にも近い存在たちだったが、それ以降の世代は彼らの繁栄で増えていった者である。
だというのに一人たりともこの世に残っていないというのは、意図的に滅ぼされたとしか思えない。
溢れ出る涙をごしごしと腕で拭ったレインは、森の木々の間から空を見上げて叫ぶ。
「見ておれ人間ども! 我が子らの弔い合戦だ! 妾の力で貴様らも滅ぼして……いいや、それ以上の屈辱を与えてくれる!」
ばさりとレインが腕を振るうと、魔力が物体として凝縮されて衣服を生み出す。夜の闇をそのまま身に纏ったような、漆黒のワンピースである。
「血を吸って一人残らず妾の下僕に貶め――血を生み出す家畜として未来永劫飼い殺してくれよう!」
二本の牙を口に煌めかせ、レインは決意の宣戦布告を発した。