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◆魔剣名鑑◆#8

◆魔剣名鑑#31【幻髪の血剣(ミスティルテイン)】◆


 制作工房不明。古物。写剣(ウツシ)。序列・第八十八位。

 両刃。毒血の満ちる血管めいた意匠が刀身に走る両手半剣。


 世界の礎となった七振りの魔剣、そのいずれかの写剣である。――とはいえ剣の一族ガルボルク氏族に伝わっていたものである為、大元は〈赫血の妖剣(スクレップ)〉である可能性が非常に高い。

 剣の一族ガルボルク氏族とは、あらゆる魔剣に勝てると謳われる〈赫血の妖剣(スクレップ)〉を受け継ぎ、剣技を紡いでいく一族。

 基本的には開祖やその血族を重視するが、その素質としては身の内に剣鬼を飼うことが求められる。

 それゆえ、不適格であるとガルボルクの名を告げず(その為にドラカガルドの者を意味するドランカも姓として持つ)、その場合は内弟子の中から一時的な代行の当主を養子とする。かつては鬼人族(オーク)出身の当主もいたらしい。


 彼らは決して国の政に介入せず、俗世に関わることもない。

 その在り方は調停者――というよりは抑止力である。人に過ぎた魔剣が世に暴虐を振るいしとき、神に変わってこれを討つという使命を抱き今日も研鑽に励んでいるそうだ。


 その身の権能は、剣の再現。

 この魔剣を抜き放ってから繰り出した刃を、剣や使い手のその身で再現する。

 その際、立ち位置を変えずに技を繰り出すことや技を発した位置で繰り出すことも可能。

 向かい合う者からすれば正に瞬間移動的に剣の再現は行われ、尋常なる使い手が果し合いにてこれを用いる限り、極めて負けはないという絶技の魔剣。


 その際は、肉体の状態も反映される。

 それ故に、致死に至るほどの傷を受けていても“再現”さえ行えば仕切り直しをすることができる。

 とはいえ無論、再生阻害を持つ〈水鏡の月刃(ヘレネハルパス)〉や〈竜魔の邪剣(ノートゥング)〉などの攻撃を受けてしまえばこの限りではない。

 たとえ時を巻き戻そうとも、魔剣が世界に刻んだ傷は消えることがないのだ。


 なお、死霊騎士は既に権能を絶えず使用し一続きに使い続けているため、その身に与えた攻撃は蓄積される。

 それでもグントラムが与えるまでは傷らしい傷もなかったということから、如何にグントラムが優れた戦士であるかは窺い知れよう。



 首無し騎士――■■■■■・ドランカがこの権能を生涯で使ったのは一度。

 追手である弟妹を斬り捨てるときにのみ用い、その後は後悔と共に権能を振るうことはなかった。

 彼はやがて行き着いた村の騒乱の中、人々を守る為に剣を執るが――その最後は、敵と内応した村の裏切り者による毒殺であった。

 戦いで死ぬのではなく、毒と策で死ぬ。

 その時、生涯で一度だけガルボルクの誇りを自覚し――剣はそれに応え、主が毒に死したるその瞬間にその剣技を再現する“死霊騎士”として顕現させた。


 外部から村に来るもの、村を脅かそうとするものと戦うこと幾星霜――……。


 その剣士が望んだことは、尋常なる果し合い。

 毒ではなく、策ではなく、異能ではなく、ただ尋常な斬り合いの果てに己の剣はどこまで通用するのか。

 ガルボルクが受け継いできたものは――。

 己が弟妹を斬り捨ててまで守った命は――。

 そして非才ながらも己がその半生を懸け磨いたものは――。


 彼は、魔剣は、その答えが知りたかった。

 そしてある月の晩、一刀と共に答えは突き付けられる。

 これまで待ち続けてきた彼が、待てずに踏み込んだその半歩――それが人の想いを背負う剣豪の、必殺の秘剣となった。

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